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頑固過ぎて頭がコチコチに硬直したジジイが居た。ついたあだ名が鋼鉄ジジーグ。
「女に学歴は要らない」と姑に吹聴した。
彼のせいで俺の娘は大学に進学できないでいる。
この鋼鉄ジジーグを倒してやろうと俺は奮い立ったのだ!
その意気込みで挑んだ戦いだったのに、俺の拳は空を切った。
「お主らには無理じゃ。このジジイを倒すなど」
「なぜそう思うんです?」
「経験の差だよ。お前らは所詮学生だ。
こっちも昔取った杵柄よ」そういう事か。だがここで負けるわけには行かない。
「では勝負方法を決めて頂きたい」俺は提案した。
ジジイは首を振った。「勝負方法が問題なのではなくって、お前らにジジイを殺す気がないという事が問題なんだ」ジジイの言い分としては、殺せるなら殺しているそうだ。
ジジイを殺す事に抵抗があるからこそ勝負内容が決まらないし、勝負にもならない。
「ではこういうのはどうですか? 俺たち全員がそれぞれ一発だけジジイさんを攻撃します」
「それで良いのか? それで本当に勝てると思ってんのかぁ?!」
鋼鉄ジジーグの威圧的な声が部屋に響いた時、誰かの手が上がった。
「それならば、私が一撃入れましょう。そのくらいであれば許されると思います」
立ち上がった男は細身の体をしていたけれど、どこか異様な気配を持っていた。目つきが悪いのに顔が小奇麗なせいで妙な印象があった。ジジイも驚いて男を見た後、何かに気付いたように笑いだした。
「面白いヤツがいたものだ。良かろう。ただし、一発限りだから忘れんでくれよ」
男が腰を落とした次の瞬間、ジジイの姿が消えた。
いや消えたように見えただけで実際に移動したのは確かだろう。
音もなく移動するとは流石である。でも俺は見えた。
俺の目はその動きを追っている。
見えさえすれば攻撃する事だって可能じゃないか。
そんな考えを読まれたみたいでジジイの顔色が変わったような気がした。俺の攻撃を避ける為に素早く動いたのだと思ったのだが、実際はそうではなかった。
ジジイが動いた事で視界が大きくずれたんだ。まるでテレビの映像を大きくずらされたみたいな感覚に陥った。俺だけではなくて他のみんなも同じように困惑して目を丸くしていたけど。その中で一番最初に反応したのが娘だった。
彼女だけは俺と違って動いていた。
何が起きたか理解できなかったはずなのに彼女は本能的に危機を感じていたに違いない。
「お父さん!」という彼女の声を聞いて我に帰った時にはジジイは娘の背後に立っていて、その首筋に手を当てていたのだ。
あれ? という事は……どういう事なんだ?
「勝負あり! 私の勝ちですね」
その言葉を聞いた瞬間、俺たちの頭の中に同じ疑問が生じたはずだ。
つまり、「今のってどうやって勝ったんですか?!
速すぎて分からなかったです!
説明してくれませんかね?」ってな具合にさ!
「あ~うぜえなクソガキどもめ」
目の前に座って酒を煽っている男は悪態をつくのが好きらしい。
もうね、出会った時の礼儀正しさとか全く無いんだよ。
「あのジジイに勝てねぇんじゃ、一生勝てんぞ」
確かにそうなのかもしれない。
鋼鉄ジジーグの身体能力に勝つ事は難しいのではないだろうかと誰もが思っていた。
それでもなんとか勝とうとしていた俺たちの前にいきなり現れ、一撃入れた男、名前はカカリアといったっけ。
「なんだいアンタ、また来たのかい」
その言葉を合図に、店のオババの声と同時に俺たちは席についた。
このカカアリアっていう人、毎日ここに通ってきていて店の常連なんだそうだ。
「なんだいなんだい! ジジイ相手に歯が立ちませんでしたって顔をしているじゃないか」
そんなつもりはないのだけどな、と思っている内にオババは注文を聞きに来ていた。
「とりあえずビールだ」
「はいよ」
オババが居なくなったところでカカリアさんは煙草を取り出して火を付けたんだけど、それを慌てて止める人が一人いたんだよねー
「おいこらちょっと待ってくれないかな」
「ん?」
振り向くのすら面倒くさそうにするカカアリアさんに声をかけたのは娘の父親である僕だった。ちなみに僕の方はジョッキに入った酒を手に持っていたりします。
彼は煙草を止めるように言うと、ポケットから出したものを渡してきた。
それは何かの鍵だ。鍵を渡すと用件は済んだらしく、後は知らんぷりをして紫煙を楽しむだけだったよ。
娘の方が彼に近付いてきて礼を言いながら鍵を受け取ると父親に見せたんだけど、僕はそれが何かよく分からない。ただなんの変哲もない鍵にしか見えなくてね。
まぁ良い。とにかくそれで娘はカカアリアさんと打ち解ける事になった。
最初は娘に話しかけられていたんだけどね、しばらくしたら彼が会話をするようになってた。
どうやら彼も娘の友達として認めてくれたようだ。
そうこうしているうちにジョッキが空になり、新しいのを持ってきてもらったんだけれど……、その時は少し妙な状況になっていたのだよ。
娘とその友であるカカアリアさん、二人のやり取りを見ながら酒を飲んでいたのだけど、その二人の間で交わされていた言葉の内容がおかしくなっていたのだ。
例えば、カカアリアさんの年齢を聞かれて彼女が答えたら、次にはカカアリアさんに対して年齢を聞いてみろと、娘から言われる始末。
だから僕は素直に聞いてみたよ。すると今度は娘の方で質問する側になれと言われて……正直意味がわかんないだよね。
しかも、娘が問いかけた内容をカカアリアさんではなく、僕たちが代わりに答えたりしたんだ。どうも二人は互いに入れ替わりっこをしているようだった。
娘曰く、このカカアリアさんには秘密があるそうで、実は自分はカカアリアさんではないし彼女は人間でもないという事らしいのだが……正直わけわかめです。
でも一つだけはっきりしていた事は娘がその事を知っていてなおかつそれを信じているって事だったよ。
だってさぁ娘はともかくとしてカカアリアさんの方は僕たちにそんな事言ってなかったから、信じる信じない以前の問題だしさ、何よりそんな事を突然言われた所で困ってしまうじゃないか?
娘は続けて言うには自分が何者なのかを知る為に旅に出ようとしていたらしい。
そこでたまたま見かけたカカアリアさんに声をかけたところ入れ替わってしまったのだと言うのだが……やっぱり良く分からんね。
カカアリアさんの方も自分の体が乗っ取られているのではと思ったらしく、何とか元に戻ろうと必死な様子。娘はカカアリアさんの体の自由を奪ったものの、彼女からすれば自分の意志に反して勝手に動いているような感覚なのだそうだ。
娘はその事で彼女に悪いと思ってはいるようで、元に戻る方法を一緒に考えようと申し出るけどカカアリアさんはあまり乗り気ではない様子。
そりゃねー、勝手に他人の体を使うなんて犯罪もいい所だと思うよ。ただ、彼女はどうもこの体から抜け出すのは難しく、逆に自分の意志がこの体の中に封じ込められていると感じ始めているそうなんだ。うーん、確かに彼女の目から見ても自分の体だとは思えなかったのかもしれないなぁ。
それからしばらくの間二人で話し合って結論を出すと、まず最初にカカアリアさんに憑依していると思われるモノを探す事になった。
その前にこの店にいる人全員に協力を頼んだんだよね。
店のオババ、店に来た常連客のカカアリアさん以外の二人にも事情を話して、手伝ってもらうことになったんだけど……、
その二人は店のオババが若い頃、つまり二十年以上前に出会った人で今は歳をとってオババになっているのがカエシレ・アジャネヴァ、もう一人は昔々、まだオババが小さい頃にこの店で出会い今ではもうかなりの歳のじいさん、
名前は……そう、確か、イワンだかそんな名前だったかな、とりあえずそんな名前のおじいちゃん。二人に話を聞いたところイワンさんがオババの若い頃、出会った時の姿は今よりも若かったそうなんだよね。
まぁその頃の話を聞かせてもらったんだけどこれが結構面白い話だったよ。何でもイワンさんの方はその時の記憶がなくって、覚えているのはオババと一緒の時に、何かとてつもなく大きな事件に巻き込まれていたという記憶だけだったんだと
。
ちなみにオババの話によるとその時のイワンさんの格好は何やら軍服っぽい物を着ていて銃や剣も持っていたそう。しかし、そんな事を言っていたけども肝心の何があったのかについては全く教えてくれなかったんだよね。
だから僕らとしてもあまり詳しく聞き出す事もできなかったんだけどね、イワンさん自身は何か思い出しかけていたのかしきりつらそうな表情を浮かべていたのが印象的だったかな その後僕ら三人で手分けして店内を探索した結果カカアリアさんはどうも店の入り口近くで倒れていた事が判明。
カカアリアさんが倒れていたのはお酒の入った木製のコップが置かれたテーブルのすぐ近く。娘が言うにはそのテーブルの近くにあったのは酒が入った木のコップのみで他には特に変わったものは無かったそうな。
そこで僕らはこの酒を用意した犯人が、もしかするとカカアリアさん本人で何らかの原因によりカカアリアさん自身の意識が酒の容器の中に入り込みそのまま眠った状態になっていたのではないかと推論を立てカカアリアさんを介抱しつつ、彼女が目覚めるまで待つ事にしたんだ。
その間僕たちは交代で見張りをしていたわけだけどカカアリアさんが起きてもその体を返そうとしないんだよねぇ。
結局娘も僕も見当たらず仕方が無いので再び鋼鉄ジジーグとして生きる決意をしたんだけどね、でも娘も見つからない以上カカアリアさんに聞いてみても分からないという。
そもそも彼女は何故自分がこうなっているのかもわからないのだから当然と言えばそれまでなのだが、僕は娘の身に何か起こったのではないかと心配になる。しかし一方で、娘の行方については大体の見当はついていた。恐らくだが、僕たちが娘を探さない方が良いだろうと思っていたあの湖に行ってしまったのだろうと。
僕と鋼鉄ジジーグは一旦店に戻るとカカアリアさんの体をイワンさんに任せると店を出る。もちろん僕たちの目的は娘を探す事ではなく、娘を探しに行ったカカアリアさんの体を取り返しに行く事だったのだ。
僕たちは鋼鉄ジジーグに乗り込むと目的地まで急いで向かったのだ。
目的地の湖畔にたどり着くと、そこには鋼鉄ジジーグに踏みつぶされ無残な姿で息絶えているカ
カアリアさんの姿と、その傍らには、娘と見知らぬ誰かの姿があったのだ。
僕と鋼鉄ジジーグは娘達のもとに近づくが、カカアリアさんの体はすでに冷たくなっており、どう見ても死んでしまっている事は明白だ、一体これはどういう事なのかと僕が娘達に尋ねようとするも二人はこちらを見るなりいきなり叫び声を上げて逃げ出そうとするのだ。
確かに僕は今見た目が鋼鉄ジジーグだから驚かれてしまうのも無理はないかもしれないけど、それならば娘達は僕の方も見たはずだから、きっと何かしら言いたい事の一つや二つはあったはずだ。なのになぜ逃げたりしたんだろうか?
とにかく、このままではいけない。
僕はすぐさま二人を追いかけるが二人は僕を見てさらに驚きながら逃げるものだからなかなか追いつけない、そこで、仕方なく力づくでの回収を試みたんだ。
しかし、二人が湖の水面に向かって駆け出し、水中に飛び込んだかと思うとそのまま水中に消えてしまったんだ。いやはや、驚いたよね、まるで映画を見ているようだったよ。
それから僕は少しの間呆然としてしまったんだけど気を取り直して鋼鉄ジジーグに二人の回収をお願いしたんだ。
そして、鋼鉄ジジーグはゆっくりと二人をくわえて戻ってきてくれた。
二人は気絶しているのか動く気配がなかったんだが、取り敢えず僕も鋼鉄ジジーグも無事二人を連れて帰れた事なのでひとまずその場を離れる事にしたんだ。
そういえば鋼鉄ジジーグはどうして二人を助けるために動いてくれたのかなぁ、やっぱり鋼鉄ジジーグになっても娘は大切なのかなぁ、それとも他に理由があるのかなぁ そんな風に考えているうちに僕たちは家に着いたのだった。
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娘を助けに来たのは良いものの結局二人とも殺られてしまい鋼鉄ジジーグにされる始末、もうだめかと思い諦めかけていたその時娘は突如湖の底に現れた黒い影に襲われ、湖底に引きずり込まれてしまった。
湖に沈んでいく少女を眺めながらその男は心底嬉しそうに笑う。
この世のものとも思えない歪んだ表情、しかしそれはこの場に居る他の者たちからは確認することができない、なぜならその男の顔はこの場の誰にも認識できないようにされているのだから、そうしなければその男の存在そのものを否定するような事態になってしまうためそのような措置をとっているのだ、だが、その男を知るものにとってこの笑みを浮かべる事が日常でありそれを不気味と捉えるものも居ないだろう
、何故なら、それが男の普段の笑顔なのだから。
「ようやくここまで辿り着いた」
そう独り言を呟くと男はその場を後にしようとするが、背後からの何者かの攻撃を咄嵯に身を翻してかわす、しかしその攻撃はただの攻撃ではなく魔法が付与されていたようで辺り一帯が吹き飛ぶが、それでもその男の傷を負う様子は一切見受けられなかった。
しかし男が気にする事は無かった。その程度の魔法が男に対してどれほど効果があると思っているのだろうか、もし仮に効いていたとしても、その程度であればなんの問題も無いからだ。
その男は、この物語においては便宜上、邪神の使徒と呼ぶ事にしよう。
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僕がカバンから書類を取り出すと同時に、鋼鉄ジジーグがこちらを向いてくる、その視線にはどこか不安げな色があったように感じたのは僕の気のせいではないと思う、でも、仕方のない事だろう、何せ鋼鉄ジジーグはカカアリアさんに殺されてしまうところなんだし。
『カカアリアさんの浮気を許せない、だから殺す、だから、僕は殺された』と鋼鉄ジジーグが言ったのをしっかりと記録した上で、『あなたの妻であるカカアリアさんは僕に浮気をしていると言い掛かりをつけてきました、僕はそんな事していないのだけど、証拠があると言って見せてきますね』という文章を書いて、そして、最後に署名をしたんだ、うん。
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*カカアリアさんとカバンの中の僕の間に一枚の書類が出来上がる。これでよし、後は、これを提出するだけだ!僕は書類を手に取ると意気揚々と警察署に向かって歩き出すのであった。
(終わり)
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