夏のお休みはドゴログマで その3
昼食後
スアの薬草採取も一段落したので、ここで子供達の魔法の練習をすることにしました。
家でも、スアがみんなにあれこれ手ほどきをしてくれているのですが、
「……せっかくだし、大規模なやつを」
スアは、そう言いながら少し開けた高原地帯へと移動していきました。
魔力がまったくない僕とアルカちゃんは、少し離れた場所で見学です。
まず最初にパラナミオ……と、いこうとしたのですが、これは中止せざるをえませんでした。
と、いいますのも、パラナミオが使用出来る魔法は、サラマンダー特有の闇属性の召喚魔法だけなのですが、この魔法で召喚された使い魔は日の光に当たるとあっというまに消滅してしまうんですよね。
さすがにスアでも、今すぐ夜にするなんてことは
「……出来るけど……ここでやっちゃうと、神界すべての昼夜が逆転しちゃうから……色々やばいの」
……うん、スアがなんかサラッととんでもないことを口にしたような気がしないでもないのですが……あえて気にしないことにします。
そんなわけで、僕とアルカちゃんのギャラリー組にパラナミオが加わりました。
次いでリョータの出番となりました。
しばらくスアと打ち合わせをしていたリョータは、
「ママ、わかりました!」
元気な声でそう言うと、両手を前方に向けながら詠唱をはじめました。
すると、リョータの両手の前に大きな魔法陣が発生し、光り輝いていき、
……そして、その魔法陣が、唐突に消えました。
「え?」
「え?」
「え?」
ギャラリー組が一斉に目を丸くしながら声を上げる中、スアがリョータの元に歩み寄っていきました。
「……リョータ、それじゃダメ、よ……詠唱に集中しすぎて、両手への魔力の集約が……」
そんな感じで、専門用語に身振り手振りを交えながらリョータに指導していくスア。
それを、リョータは真剣な表情で聞きながら何度も頷いていました。
で、スアの指導を受け、何度も魔法を試していったリョータなのですが、結局6回行い、1度も成功することは出来ませんでした。
その6回目の失敗の際に、魔力が少なくなってしまったリョータは、本来の姿である幼子の姿に戻ってしまいました。
本来のリョータは、まだ2才に満たない男の子ですからね。
ただ、思考だけはすでにパラナミオくらいに成長していまして、自らの姿を、自らの成長魔法で成長させているのですが、魔力が切れてしまうと当然この姿に戻ってしまうわけです、はい。
と、いうわけで、魔力切れとなったリョータもギャラリー組に加わりました。
そんなリョータを、アルカちゃんが抱っこしているのですが、
「……小さいリョータ様も、可愛いアル……」
顔を真っ赤にしながら、そう呟いていました。
そんなアルカちゃんに抱っこされながら、魔力が少なくなってしまったリョータはすやすや寝息をたてていました。
年齢的にはアルカちゃんの方が4、5才年上ってことになるわけですけど、まぁ、2人とも結婚出来るくらいの年齢になればそう気になるほどの年齢差でもありませんしね。それに、僕とスアにいたっては二百……
「……24才、だから……」
「あ、はい」
いきなり僕の真横に転移してきて、真剣な顔でそう言うスア。
そんなスアを前にして、僕は頷くことしか出来ませんでした。
その後、アルトとムツキも、リョータと同じ魔法を行おうと試みたものの、2人ともなかなかうまくいかず、最後はリョータ同様に魔力が少なくなってしまって本来の姿である赤ちゃんに戻ってしまいました。
結果的に3人ともスアが提示した魔法を成功させることは出来なかったのですが、
「……みんな頑張った、よ……これで、魔力の底上げにはなった、はず……」
スアが、そう言っていたので、成果はあったようですね。
◇◇
赤ちゃんになったアルトを僕が、ムツキをスアがそれぞれおんぶ紐でおんぶしまして、僕達は魔法の絨毯で簡易小屋へと戻っていきました。
小屋の中のベッドの上に、元の姿に戻ってしまったリョータ・アルト・ムツキの3人を寝かしつけると、起きているメンバーは夕飯の準備にとりかかることにしました。
僕は、とりあえず川で釣りでも出来ないかな、と思いまして魔法袋の中に入れて持ってきていた釣り道具を準備していたのですが、そんな僕の前にパラナミオが駆け寄ってきました。
「パパ! なんかこんな姿になれました!」
そう言うパラナミオの姿を見つめながら、僕は思わず目を丸くしました。
僕の目の前にいるのは間違いなくパラナミオです。
ですが、その頭にはサラマンダー化した際と同じ耳がありました。
目も、は虫類のような目になっています。
手足の先の部分もサラマンダー化した際と同じ形状になっています。
サラマンダー化する途中の姿とでもいいましょうか……例えるなら、イナ●マンに変身する前のサナ●マンとでもいうような……
スアによりますと、このパラナミオの形状は人型化している龍人が、サラマンダー寄りに変化した形状なんだとか。
「……多分、脱皮で成長したから、出来るようになったんだと、思う」
スアはそう言いながら、パラナミオのサラマンダーの部分を丹念に調べていました。
で、
このサナギサラマンダー状態~僕命名~のパラナミオは、その身体能力が飛躍的に向上していまして、川の中を泳いでいる魚を次々と手づかみで仕留めていきました。
子供達の中で一人だけ魔法の練習に参加出来なくて少し寂しそうにしていたパラナミオですけど
「パパ、見てください! また取れました!」
今のパラナミオは、自分が成長出来た事を実感出来たおかげなのでしょう、すごく嬉しそうです。
そんなパラナミオに負けじと、僕も手づかみで魚を捕まえようとしたのですが、結局1匹も捕まえることが出来ませんでした。
僕とパラナミオが川で魚取りをしている間に、スアとアルカちゃんは森の中へ食べることが出来る野草を採取しに行っていました。
で、それらの食材を持ち寄りまして、僕が夕食を作っていきます。
せっかくの大自然の中ですし、メニューは今日もバーベキューです。
さっきパラナミオが仕留めた魚を下ごしらえして、簡易竈の網の上で焼いていきます。
さらに、スア達が採取してきた野菜のうち、僕の世界で言うところのピーマンやタマネギに似た野菜も下ごしらえをしてから一緒に焼いていきます。
葉野菜などはドレッシングで和えてサラダにします。
あと、持参してきた味噌などを使って魚のアラ汁風のスープも作りました。
調理は、パラナミオとアルカちゃんも手伝ってくれました。
周囲にいい匂いが充満していくと、その匂いで目を覚ましたリョータ達が小屋の中から出て来ました。
しばらく眠ったおかげで魔力もすっかり回復したらしい3人は、いつもの成長した姿に自分達の姿を魔法で変化させています。
「ちょうど出来上がったし、さ、みんなで食べようか」
僕が笑顔でそう言うと、みんなも笑顔で寄ってきました。
その後、みんなでご飯を満喫した僕達は、その後、簡易小屋の中と周囲を掃除してからガタコンベへと戻っていきました。
当然、戻る前にスアが結界を張り直したのは言うまでもありません。
「みんな、楽しかったかい?」
巨木の家に戻った僕がみんなに聞くと、
「はい! また行きたいです!」
満面の笑顔でそう言ったパラナミオを筆頭に、他のみんなも口々に、
「ぜひまた行きたいです!」
「アルトもまた行きたいですわ」
「今度こそ、魔法を成功させるにゃしぃ」
「私も、リョータ様と一緒に行きたいアル」
そう、言いました。
みんな、満面の笑顔です。
そんなみんなの笑顔を、僕とスアも笑顔で見つめていました。
こうして、僕達のドゴログマ一泊ツアーは無事終了しました。
スア的には、枯渇していた薬草類を大量に補充出来た事に加えて、厄災のイモリを再び大量に狩ることが出来たのでご満悦な様子でした。
子供達が寝静まった後、スアの研究室にある簡易ベッドの上でスアは、
「……これで、コンビニおもてなしで販売する薬をまたいっぱい作れる、よ」
そう言いながら笑いました。
笑いながら、横になっている僕の上にいそいそと乗っかってくるスア。
「……今日は、私が……」
そう言うとスアは、僕に自分からキスしてくれまして……
おっと、ここから黙秘させていただきますよ。