出店とヤルメキススイーツと夏祭りと……え?
コンビニおもてなしも出店しているティーケー海岸の夏祭りは盛況なまま続いているそうです。
クローコさん率いるコンビニおもてなし4号店に出店の営業をバトンタッチしたわけですが、売り上げは高止まりを記録しています。
僕達が営業をしていた際は、深夜の営業はパラナミオが召喚した骨人間(スケルトン)達にお願いしていたのですが、4号店ではララデンテさんが深夜帯の営業を一手に担ってくれています。
何しろララデンテさんは何十年も前に肉体を無くしている思念体……僕が元いた世界で言うところの幽霊ですからね、眠る必要がないわけです。
「はい、いらっしゃいいらっしゃい。かき氷も串焼きもあるよ~」
ララデンテさんは4号店でやっているように陽気に呼び込みをしながら一晩中かき氷と屋台の串焼き、アイスクリームなどを売ってくれています。
ついでに、いつも4号店で作成している温泉まんじゅうと、温泉焼きまんじゅうも販売していまして結構好評なようです。
クローコさんもはりきっていまして、4号店の営業が終わるとすぐに出店に移動していってララデンテさんの手伝いをしたり、常駐しているクマンコさんの子供達の相手をしたり、そのせいで「なんだ子持ちか」と言われてナンパされなかったりと……あれ、なんか最後のは出店の営業には特に関係ないような……
まぁ、そんなわけで頑張ってくれているわけです、はい。
2日目には、ルアが作成してくれていたかき氷機も無事完成しまして、アルリズドグさんから受注されていた業務用のかき氷機をお渡しし、コンビニおもてなしティーケー海岸出店の方で一般家庭用のかき氷機とシロップ類の販売を開始したのですが、
「この機械があったらかき氷が家でつくれるのか!」
「なんと、そりゃすごい!」
と、子供達ばかりか大人の方々までもが目を丸くなさいまして出店に殺到してこられました。
そんなわけで一般家庭用のかき氷機とシロップ類は販売開始からわずか2時間で完売してしまいまして、ルアに大慌てで増産してもらっているところです。
何しろこのティーケー海岸のお祭りに人手は半端じゃありませんからね。
連日ナカンコンベの住人並の人々が各地から押し寄せている状態です。
ブラコンベ辺境都市連合が持ち回りで開催している季節の祭りよりも圧倒的に人手が多い感じですね。
「店長ちゃん、クローコ頑張るし! 任せてほしいし!」
そう言いながら、連日4号店の営業が終了する度にティーケー海岸に顔を出しているクローコさんですけど、気のせいかだんだん露出の激しい水着になっているといいますか、意図的にナンパされようとしてませんか? って気がしないでもないのですが……うん、気のせいと思うことにしておきましょう。
来週は3号店が担当になります。
3号店は、エレが責任者を務め、魔法少女戦隊キュアキュア5ランドを経営しているテレコ達魔法使いのみなさんと、子供服を販売しているテトテ集落のみなさんが協力してくれることになっています。
「そうですね、今から気分が高揚いたします」
と、エレも気合い満々な様子でしたし、来週もきっと大丈夫でしょう。
◇◇
ルア工房製の一般家庭用のかき氷機はコンビニおもてなし各店舗でも販売する予定にしていたのですが、ティーケー海岸出店の販売用の個数を最優先で確保する方針にしているため、しばらくは無理そうです。
その代わり……にしては十分過ぎる気がしないでもないのですが、ヤルメキスとケロリンが作成しているアイスクリームの人気がうなぎ登りです。
バニラだけの時もかなりの人気だったのですが、そこにイルチーゴ味などが加わったことでその人気にさらに拍車がかかった感じです。
オルモーリのおばちゃまも、
「ヤルちゃまも、ケロちゃまも、とっても素敵なお菓子をつくったわね、おばちゃまもとってもうれしいわ」
と、連日アイスを購入するためにコンビニおもてなし本店に顔を出してくださっています。
オルモーリのおばちゃまの孫のパラランサくんと結婚していておばちゃまと一緒に暮らしているヤルメキスと、そのお屋敷に居候させてもらっているケロリンは、
「お、お、お、お婆さま、わ、わ、わ、わざわざお店に来てくださらなくても、わ、わ、わ、私がお持ち帰りいたしますでごじゃりますのに」
「そ、そ、そ、そうですわぁ。わ、わ、わ、私も一緒に持って帰りますわぁ」
ヤルメキスとケロリンは、あの異常な暑さほどではありませんけどまだまだ蒸し暑い中を毎日歩いて通ってきてくれているオルモーリのおばちゃまの体調を心配してそう言っているのですが、
「お客様のみなさんはね、ヤルちゃまとケロちゃまのスイーツを楽しみにしてお店に通っておられるのでしょう? それなのに、皆様と同じお客様のおばちゃまがね、贔屓されるのはね、ちょっと駄目だと思うのよね。だからおばちゃまはね、頑張ってお店に通うわよ」
そう言ってニコニコ笑っておられました。
オルモーリのおばちゃまは、結構な資産家でして社交界にも顔が利くすごい人なんです。
ですけど、そんな権威をひけらかすことを一切しないで、いつも一お客様として、一ヤルメキススイーツのファンとしてお店に通い続けてくださっているんですよね。
確かに、ヤルメキスとケロリンがお土産としてヤルメキススイーツを持ち帰ることもありますけど、基本的には常にお店に来てくださって、ヤルメキススイーツを購入してくださっているんです。
ヤルメキススイーツの棚の前に立たれて
「まぁまぁ、今日のヤルメキススイーツもとっても美味しそうね、おばちゃま嬉しくなっちゃう」
そう言いながら、品物を選ばれる姿に、僕も癒やされているんですよね。
ホント、どっかの上級なんちゃらみたいに権威を振りかざしてやりたい放題しまくってる奴らにおばちゃまの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいと思ってしまいます、ほんと。
◇◇
そんな中、ブラコンベ辺境都市連合の領主会議が開催されました。
まぁ、領主会議といいましても、該当しているブラコンベ・ガタコンベ・ララコンベ・ルシクコンベの4辺境都市のうち、
ブラコンベ領主代行……辺境駐屯地隊長ゴルア
ガタコンベ領主代行……コンビニおもてなし店長の僕
ララコンベ領主代行……辺境駐屯地副隊長メルア
と、3都市は領主代行のため、各都市の商店街組合の蟻人達が実務担当者として一緒に参加します。
ちなみに、ルシクコンベ領主のグルマポッポは
「希望者飲み参加させますぶひぃ……都市としては今回も不参加ぶひぃ」
とのことで、会議には参加していません。
これは今に限ったことではなくて、いままでずっとこうなんですよね。
と、いいますのも、ルシクコンベがあるのは雲の上に突き出している山の上ですので、その山の麓付近に点在している都市まで降りるのがとても大変だからなんです。
今は、スア製の転移ドアでつながってはいるんですけど、グルマポッポがでかすぎて転移ドアをくぐれないんですよね……
スア的には扉を大きく出来ないこともないそうなんですけど、
「いえいえ、そこまでしていただく必要もないぶひぃ。年のせいで動くのもちと億劫ぶひぃ」
グルマポッポがそういうものですから、まぁ仕方ないかということになっている次第です。
議題は、もうじき開催される夏祭りの打ち合わせです。
まぁ、今回は具体的な話というよりも、
「今回はガタコンベが主催ですです」
「よろしくですです」
「頑張りましょうですです」
と、実務担当者の蟻人達の挨拶の場的な会議だったんですけどね。
実際の金銭負担とか、出店の配分・出店の配置に関する打ち合わせは蟻人達が草案を出し合って決めてくれますので、僕達領主代行はすべてお任せしていればいい状態なわけです。
で、その会議が終わりかけた頃にですね、珍しくスアが姿を現しました。
僕の後方に転移してきたスアは、ゴルアの元へ歩み寄っていくと一枚の紙を手渡しました。
「スア様、なんですか、この紙は……」
そう言いながら、その紙を見たゴルアの目がカッと見開かれました。
「す、スア様、これはまことですか!? ポルテントチーネが辺境都市トツノコンベにいるというのは!?」
ゴルアの言葉に、スアは頷くと
「……弟子が住んでる都市……間違いないみたい」
そう言いながら、転移ドアを召喚していきました。