夏のティーケー海岸ものがたり その2
その夜。
コンビニおもてなし本店の裏にあります巨木の家の中で、家族揃って夕食を食べていた田倉家です。
以前は本店2階にありますコンビニおもてなし寮のみんなと一緒に食べていたのですが、最近は寮のみんなは寮のみんなで食べるようになっています。
今日は、肉じゃがと手羽先の唐揚げ、それにサラダと卵焼きという献立です。
特に我が家のみんなは卵焼きが大好きなので欠かせません。
ちなみに我が家の子供達は好きな物は全員揃って最後に食べる派でして、リョータなんかは、他のおかずでご飯を一口食べては、卵焼きを嬉しそうに眺めています。
そんな感じで食事をしているみんなに向かって僕は言いました。
「今週末からさ、ティーケー海岸でコンビニおもてなしの出店を出すことになったんだ。でね、パパ達コンビニおもてなし5号店が最初の1週間、店番をすることになったんだけど、みんなも一緒に行ってみるかい?」
パラナミオの学校も、ちょうどこの週末から夏休みに入りますのでタイミング的にはばっちりです。
すると、そのパラナミオが真っ先に手をあげました。
「パパ! 行きたいです! パパのお手伝いをしたいです!」
パラナミオは元気にそう言いました。
すると、すぐにリョータ・アルト・ムツキ達も手をあげました。
「パパ、僕もお手伝いします!」
「私もお手伝いいたしますわ」
「ムツキも頑張るにゃしぃ!」
一斉に手をあげたみんなを、僕は笑顔で見つめていました。
すると、そんな僕の脇腹を、隣に座っているスアがつんつんとつついてきました。
そちらへ視線を向けると、スアもしっかり右手をあげていました。
「……旦那様、もちろん私も行く、わ」
真剣そのものの表情で僕ににじりよってくるスア。
僕はそんなスアの肩に手を置くと
「うん、よろしく頼むよスア、それにみんな」
そう言いながら笑顔でみんなを見回していきました。
そんな僕に、家族全員が一斉に
「「「はい!」」」
と、返事を返してくれました。
こうして、我が家全員、ティーケー海岸へ向かうことが決まりました。
◇◇
その夜、僕は自室で出店の準備をしていました。
コンビニおもてなしで販売している商品の一覧などを見つめながら、ティーケー海岸の出店で何を販売するか考えていたのです。
夏だし、海岸ですし、海水浴客がいっぱいって話ですので、ヤルメキスとケロリンが作っているアイスクリームははずせません。
さらに、かき氷器も持って行ってかき氷の実演販売を行おうとおもっています。
タテガミライオンの肉などは、弁当形式での販売だけでなく、串焼きにして炭火で焼くのもいいかもしれません。
ウルムナギ丼も実演しながら販売するのもいいかもしれませんね。
となると、大型の炭火焼きコンロかなにかを持って行かないといけませんね……
先日、小麦粉を使って麺を作成することに成功していますので、これを使って焼きそばを作るのもいいかもしれません。
素材の一覧と、商品名の一覧表とにらめっこしながら、その中にあれこれ印をつけていた僕は、
「……うん、とりあえずこんなところかな」
印やメモ書きをあれこれ加えた一覧表を机の上に置いた僕は、椅子に座ったまま大きく伸びをしました。
すると、僕の足下からスアが身を乗り出してきました……って、どこから出て来てるの!?
そんなスアは、僕の体をよじ登るようにしながら僕の顔に迫ってきます。
「……ね、すんだ?」
「ん? うん、今日のところは済んだよ」
僕の言葉を聞いたスアは、嬉しそうに微笑むと、そのまま目を閉じました。
これは、いわゆるあれです、おねだりというやつですね。
僕は、そんなスアを抱き寄せると、その唇に自分の唇を重ねていきました。
しばらくそのままお互いの愛情を感じ合った僕達は……
おっと、これ以上は黙秘させていただきますね。
◇◇
それから週末までの数日。
僕は通常の営業活動を行いながら、出店の準備をあれこれ整えていきました。
ルアに大きめの鉄板と、大型の炭焼きコンロを作ってもらったり、焼きそばの試作品を作成してみたり、タテガミライオンの肉を串に刺していったり、と、みんなにも手伝ってもらいながら作業を進めていきました。
そんな中、テレコさんが僕の元を訪ねてこられました。
テレコさんは魔女魔法出版から発売されている絵本「魔法少女戦隊キュアキュア5」の作者であり、3号店のある屋敷の中にある魔法少女戦隊キュアキュア5ランドの責任者もしておられるお方です。
「なんでも、ティーケー海岸に出店を出されるとお聞きしまして……もしよろしかったら、キュアキュア5の夏用グッズも少し置いて頂けないかと思いまして……」
そう言いながらいくつかの商品を僕に見せてくれました。
それは、
キュアキュア5の絵が入ったビーチボール
キュアキュア5の絵が入った浮き輪
などなど、キュアキュア5の絵が入った各種商品でした。
確かに、子供連れの方々には人気になるかもしれませんね。
そう思った僕は、テレコさんの申し出を快諾させていただいたのですが、
「あの……もしよろしかったらこれも……」
そう言いながら、テレコさんはおずおずともう1品取り出しました。
◇◇
そして、週末がやってきました。
出店は、海岸のすぐ近くに出店しますので、やってくるお客様達は水着姿の方が大変多いです。
一方、出店も水着で接客している方が大半です。
それにあわせて、僕達コンビニおもてなし初日チームも全員水着姿です。
今回の出店は、僕とグリアーナ、これにスアとパラナミオ達がお手伝いしてくれることになっています。
で
そのパラナミオ達ですが……全員揃って魔法少女戦隊キュアキュア5風の水着を着ています。
これ、テレコさんから最後に申し出された商品なんですよね。
絵本に出てくるキュアキュア5達のコスチュームに似せて作ってある水着なんです。
これを、テトテ集落のみなさんと協力して作り上げたテレコさんは、水着を出店が販売してもらう傍ら、水着の宣伝をかねてパラナミオ達にこの水着を着て接客してほしいと申し出てきたんです。
で、その水着は、パラナミオ達にバッチリ似合っています。
その水着は、いわゆるセーラータイプのビキニでして、赤・青・黄といった原色をパステル調にしてあるもんですから、とてもカラフルで明るい感じで出来上がっています。
ちなみに、リョータが着ているのはキュアキュア5に最近登場し始めた謎の騎士キャラをモチーフにした男の子用の水着です。
これもとても似合っています……本人はパラナミオ達と同じキュアキュア5の水着を着たがってたんですけどね……
この姿で開店準備を手伝ってくれているパラナミオ達の姿を見た通りがかりの方や、他の出店の皆さんからは
「その水着キュアキュア5ですか!?」
「うわぁ、すごく可愛い!」
「ここで買えるの!」
といった感じで早くも問い合わせが殺到し始めていました。
ちなみに、スアは白のスク水風ワンピースを着ています。
周囲に知らない人が多すぎるため、木箱の中に入ったまま、アナザーボディに作業をさせているためその姿を今は確認出来ませんが、最初ちょっとだけ見た時にはホントに似合っていたんですよね。
そんな感じで、あれこれ準備を進めていた僕達なんですが……
「お、おい、なんだあれ?」
「尻尾か?」
「生き物なの!?」
そんな声が海岸の方から聞こえてきました。
「なんだなんだ?」
僕がその方向へ視線を向けますと……その方向の海が若干盛り上がっていまして、その中から巨大な尻尾が突き出しているではありませんか。
その尻尾は、僕が唖然としながら見つめていると、海に流れ込んでいる河口へと移動していき、そのままそこを遡りはじめました。
そこから見えたのは、でっかい蜥蜴のような生物が首のあたりにある無数のエラみたいなところから血のようなものを吐き出しながら川を遡っていく姿でした。
僕は、その姿を唖然としたまま見つめることしか出来ませんでした。