神のみぞ知る? その3
マルンの話しをよく聞いてみたところ……
タニアさんは元々
「フリオ様達がお戻りになることがわかった時点で帰りますからね?」
「えぇ、もう、それまでの間で十分ですから」
そういう口約束のもとでやってきていたそうなんです。
そこに、そのフリオさんが帰ってくるという連絡が入ったわけですからね、そりゃ帰られても仕方ないと言わざるを得ないわけです。
「……あのさぁ、マルン……そこはもう少しきちんとしておいてもらわないと……」
「いやぁ……面目次第もございません……」
あきれ顔の僕の前で、マルンは体を小さくしながらうなだれていました。
「で? 今もうオープンしてるんでしょ、コンビニおもてなし神界出張所? マルンがここに居ていいのかい?」
「え~……当然だめなわけなんです……」
「まだバイトも見つかってないんだよね?」
「えぇ……募集中です……」
「ならもう、一度閉店させるしか……」
僕が頭をかきながらそう言っていると、マルンはいきなり僕の手を握りました
「と、言うわけで、店長さん、ちょっとでいいんです! ちょっとだけ手伝いにきてください!」
「はぁ!?」
困惑する僕を無理矢理魔法陣の中へ連れ込んでしまいました……
◇◇
……そして3時間後
僕は神界にあるマルンの「ヤルメキススイーツの店」の2階にオープンしたばかりの「コンビニおもてなし神界出張所」のレジに立っていました。
コンビニおもてなしの制服を着ている僕は、せめてもの偽装ということで背中に羽の玩具を背負っています……ってか、こんな物でホントにごまかせるなんて思えないですけどね……相手は神様みたいな人達なんでしょ?
そんな感じで困惑しきりだった僕なのですが……この3時間というもの、幸いなことにお客さんである神界陣の皆さんから
「お前、神界人じゃないだろう!」
なんて指摘を受けることもなくレジ仕事をこなし続けていました。
オープンしたばかりのこのコンビニおもてなし神界出張所ですが、おおっぴらに看板をだしたりはしていないそうです。
……そりゃ、まぁそうでしょうね。普通に考えたら思い立ったが吉日とばかりに、バイト候補だったタニアさんの研修が終わった途端にオープンさせちゃったんですから。
そんな慌ただしいオープンだったから、というのも理由の1つなのですが、理由はもう1つあったようです。
このコンビニおもてなし神界出張所の主なお客さんはですね、ご主人である神界人の命令で、僕が住んでいるパルマ世界の中にある僕の店コンビニおもてなしへ出向くはずだった使い魔のみなさんなんです。
異世界であるパルマ世界へ時空移動するのって、結構な魔力を消費するそうなんですよ。
で、マルンはそんな使い魔のみなさんから
「マルンさんのお店はコンビニおもてなしさんから品物を仕入れているんでしょ? なんとかコンビニおもてなしさんの商品をここでも扱ってもらえませんかね? そうしてもらえたら僕達も膨大な魔力を使わなくてすむのですごく助かるんですけど……」
そうお願いされたのを受けて、こうしてお店をオープンしたわけです。
と、言うわけで……とりあえずの間は、この使い魔達の役にたてればいいわけなので、大々的に宣伝する必要もなかったわけです、はい。
「バイトが見つかってその人達の教育が終わったら宣伝するつもりです」
と、マルンも言っていたんですけど……そこだけはしっかり考えていたんだな、と少しだけ感心した僕だったのですが……そんなマルンの考えがすでに破綻している現状が僕の目の前にあるわけです。
ヤルメキススイーツのお店の2階にある、このコンビニおもてなし神界出張所の店内は使い魔達でいっぱいになっています。
使い魔の皆さんって、人の姿をなさっている方が多くはあるのですが、だいたいは人亜人(ワーピープル)のような方々なんです。
つまり、魔獣が人の姿をしているような方々、というわけです。
で、半分くらいの方は普通の人のサイズなのですが、残り半分くらいの方は明らかに人のサイズよりでかいんです……中には身長3m近いイエティみたいな全身毛むくじゃらの使い魔さんが来たりして、コンビニおもてなし神界出張所へ通じている階段でつっかえたこともありました。
そんな感じで初日はそこまでお客さんは来ないだろうと思っていたっぽいマルンの思惑は崩れさっているわけです……えぇ、すっごく忙しいです。
とまぁ、そんなわけで想定外なことが続きまくっている中、ひたすらレジうちと、魔法袋の中から商品を補充し続けている僕なわけです。
一応マルンとは、オープンしてしまった今日だけ手伝うけど、明日からは休業にすることで話はついてます。口約束ではなく、しっかりと文書にしてもらってサインももらっています。
なので、今日1日だけ、どうにか乗り切れば……というのが現状なのですが……
レジに商品を持ってくる使い魔の皆さんは、
「ありがとうございます。本当に助かります」
「まさか、転移しなくてすむようになるなんて思ってもみませんでした」
「もう、なんてお礼を言ったらいいのでしょうか」
来る使い魔さん、来る使い魔さん、みんな僕に向かって本当に嬉しそうに笑顔を浮かべながら商品を買って行かれているんです。
その様子を見ていると、明日からまた閉店させるのは申し訳ないかなぁ、と思わなくもないのですが、そんなことを言いましても僕も5号店の業務がありますしね、いつまでもこっちのお店を手伝い続けるわけにはいかないわけです。
それに、僕は本来この世界に長くいてはいけない人種ですからね……
なんでも、ここ神界には神界人か、神界人が自らの使い魔として契約した下部世界の生き物以外は滞在してはならないと言うルールがあるそうなんですよ。
で、それを破ると……って、そこまでは聞いてないんですけど、とにかくろくな目には遭わないでしょうね、きっと。
「そうね。ろくな目には遭わないわよ」
「え?」
僕が、あれこれ考えながらレジ作業をしている最中。
そのレジの前に立っている一人の女性がそんなことを言われました。
「悪いけど、ちょっと思考を読ませてもらったわ。あなた下部世界の住人ね? ちょっと一緒に来てもらえるかしら?」
「え……えっと、な、なんのことでしょう?」
「とぼけても駄目よ、もうあなたの思考をスキャンして証拠はあがってるんだから」
そう言うと、その女性は僕の前に手帳のような物をかざしました。
そこには、翼のようなマークと、その横にこの女性の顔が印刷されています。
「私はラウェ、神界警察の者よ。神界に不法に滞在している下部世界の住人を捕らえるのが仕事なの。さ、おとなしく一緒に来てもらうわよ、下部世界の住人、田倉良一さん」
その女性~ラウェさんに、こちらからは名乗ってもいないのに僕をフルネームで呼びました……こりゃ完全にばれてますね、何もかも……そう悟った僕は苦笑いを浮かべながら後ずさりしました。
そんな僕に向かって、ラウェさんは、自分の体の周囲に魔法陣を展開しながら近づいてきます。
「さ、おとなしく一緒にきてもらいますよ」
その時でした。
僕の体が後ろに引っ張られました。
僕が振り返ると、そこには魔法陣が展開していました。
その中にドアがありまして……その中からスアが身を乗り出して僕を引っ張っていたのです。
「……旦那様、こっち、よ!」
そのスアはそう言いました。
……ですが
「……あんた、誰?」
僕はそう言いながら、そのスアの手を振りほどきました。
すると、そのスアはびっくりしたような表情を浮かべ……ラウェさんの顔に変化しました。
振り返って見ると、レジにいたラウェさんの姿はいつの間にか消えていました。
「なんで?……私の姿形変化魔法は完璧なのよ?……今まで一度として見抜かれたことがないのに……」
困惑した表情でそう言うラウェさん。
そんなラウェさんに僕は言いました。
「いや、全然違ってましたよ。スアはもっと可愛いです」