第24話 初めての魔法開発
昼食を食べ終え、しっかりと休憩も取って英気を養う。
実験に集中していたから気づいていなかったが、魔法を多発していたこともあって予想以上に精神的に疲れていた。そうなるとあの場面で勢いに任せて続けていなくてよかったと今なら思う。
ってな訳で十分に休息を取って疲労も回復したので実験再開としよう!
もちろん今度はほどほどに。
午後からの内容としては主に先ほど手に入れた『魔法創造』スキルを使用した新しい魔法の開発になるだろう。前世の科学知識も活用できるということが分かったのでいろんな新魔法を生み出していこうと思う。
まずは右手に水魔法でサッカーボールサイズの水球を作り出す。
そして水球の温度をどんどん下げていき、水球から氷球へと変化させていく。
そう、最初に挑戦するのは『氷魔法』である。
魔法書にもちらっと書いてあったがこの世界にも一応だが氷魔法というのは存在しているらしいのだが、実はものすごく難易度が高い『複合魔法』という分類に属する魔法なのだそうだ。
風魔法と水魔法を組み合わせて完成させることが出来る高等魔法であり、しかもこの世界の人にとって氷というのは非常に珍しいものだということもあってなかなかイメージが出来ないらしい。そのため氷魔法を発動できる者は非常に限られてくるらしい。
しかし前世の科学知識を使えば複合魔法なんて高等技術を使わなくとも発動させることが出来る。
...まあ氷に関しては知識というか前世の経験から来るイメージ構築だけどね。
そして氷魔法を無事に発動できるということが確認できたので実用的な魔法を使ってみる。生み出した氷を槍状に変形させて発射する『アイスランス』、地面の表面を凍らせる『フリージングフロア』などなど様々な氷魔法を開発していく。
使ってみて分かるが氷魔法というのは非常に効果が強力なものが多い。もちろん威力も強いのだが、他の使い方として移動阻害などもあるというのは戦略の幅にも大きく影響するだろう。
《熟練度が一定に達しました。スキル『氷魔法』を習得しました》
そしてスキルとしての氷魔法も習得することに成功した。
これでさらにこの魔法を実践で使用できるようになるに違いない。
ではお次は『雷魔法』に挑戦してみようと思う。
この魔法も氷魔法同様に本来であれば土魔法と風魔法の複合魔法であるのだが、前世の経験を生かして複合の過程を吹っ飛ばして発動させてみようと思う。
正面にある岩に向かって意識を集中する。
右手をかざし、前世で見た雷のイメージを魔力に同調させる。
「......サンダーボルト!」
すると右手から強烈な稲妻が正面へと文字通り光の速さで放出される。向かっていった先にあった岩に直撃すると同時に強烈な爆発音とともに辺り一帯に爆風が吹き荒れる。再び平原に静寂が戻ってきた時には先ほどまで正面に合った岩は粉々になって消えており、その周辺の地面は大きく削り取られていた。
...ちょっと威力調整を間違えた、かな。
そりゃ前世の雷そのままをイメージしてしまったらこんな馬鹿げた威力になるよな。けど初めて発動させたから少しイメージ強度が弱かったことで威力はまだ弱かった方かな。今度からはリアルの雷よりもゲームの雷の方をイメージすることにしよう。
威力はさておき、雷魔法の発動は成功することが出来た。
ここからはさらにいろんな雷魔法のバリエーションを増やしていこうと思う。
先ほどの威力を調整して完成させた『サンダーボルト』、電気エネルギーを内包した球体を生成して発射する『エレクトリックボール』、両手に雷電を纏わせて攻撃する『チャージボルト』などの思いつく限りの雷魔法を開発していった。
こちらも威力が高くて、かつ麻痺(スタン)効果などを相手に与えられる魔法であるので実戦でこの魔法が活躍するのは目に見えて明らかであるだろう。雷属性は強いと相場で決まっているのだ。
《熟練度が一定に達しました。スキル『雷魔法』を習得しました》
これで『氷』に『雷』と比較的簡単に思いつく強そうな魔法の習得には成功した。他にも探せばいろんな強い属性があるだろうけれど、今は思いつかないから新たな属性への挑戦は今日はこの辺りで終わっておこうと思う。また思いつき次第、追加で実験していくことにする。
さて新魔法の実験はもちろん続けていく。
続いては戦闘で使える補助系の魔法についても実験していこうと思う。
全知辞書さんに聞いたところによると、現在広く使われている戦闘補助系の魔法は全部でバフ系5種類とデバフ系4種類の計9種類あるらしい。まとめてみるとこんな感じかな。
【バフ系】
『身体強化魔法』・・・・・自身の身体能力を向上させる
『ストレングス』・・・・・自分以外の攻撃力を上昇させる
『ディフェンシブ』・・・・・自分以外の防御力を上昇させる
『ラピッド』・・・・・自分以外の俊敏性を上昇させる
『オールライズ』・・・・・自分以外の攻撃、防御、俊敏性をすべて上昇させる
【デバフ系】
『パワーレス』・・・・・対象の攻撃力を減少させる
『アーマブレイク』・・・・・対象の防御力を減少させる
『スロウ』・・・・・対象の俊敏性を減少させる
『オールフォール』・・・・・対象の攻撃、防御、俊敏性をすべて減少させる
このようにもうすでにステータスに影響する類の補助魔法というのは大方存在している。しかしどれも習得難易度が非常に高く、なかなか使える人が少ないという風にゲングさんから聞いている。もちろんこれらの魔法を覚えることによって戦闘が有利に進むことは明らかなので実はゲングさんに協力してもらって全て習得は済ませてある。
使えるようになってみて分かったことなのだが、これらの魔法は必要な魔力が他の魔法と違って桁違いに多い。戦闘に影響が出る程度までステータスを上昇させたり、減少させたりというのは並みの魔力量の人であれば不可能であろう。ある程度の魔力量を保有している者であっても一回の戦闘中に使用できるのは一種類、多くて二種類が限界だろう。もちろん魔法を行使する対象数が多ければ多いほどより多くの魔力を使用するので普通なら自分のパーティメンバーにせいぜい一種類か二種類のバフを与えるぐらいで限界だろうな。
それはさておき、新しく俺が補助系の魔法として開発したいのはステータスの数値に関わるものではなく身体能力に関わるものである。現存している「身体強化魔法」の派生という形で考えていきたいと思っている。
まずは思考能力の強化である。
よく異世界転生系のお話でも登場する能力として言い換えると『思考加速』や『並列思考』に該当するだろう。もし自分よりも格上の相手と戦わなければいけない状況に陥ったとき、相手の行動についていけなければ一方的にやられて終わりである。それを防ぐためには相手の攻撃などを認識できなけばならない。そういったときのための補助魔法である。
思考加速については似たようなことは以前ぶっつけ本番で無意識で試したことがあるので早速試してみる。身体強化魔法の要領で全身の筋力ではなく、自身の心肺機能を上昇させるイメージで魔法を発動させる。体の隅々まで巡っている血液や酸素をより早く大量に、そして体への負担は最小限に。
「.......」
発動、出来たのだろうか?
思考加速は本当に出来ているのかどうかの確認が難しいな。
ふと空を見上げると数匹の鳥が気持ちよさそうに太陽の光を浴びて青空のもとを飛んでいるのが見えた。しかし明らかにおかしいのが、その鳥があまりにも遅いのだ。羽の羽ばたきが明らかにそんなんじゃ落ちるだろというぐらいにゆっくりとしている。
...あっ、これが思考加速の効果か!
自分の認識速度が格段に上昇しているために周囲の動きが遅く感じているのだ。こういう確認補法があることを失念していた。思ったよりも簡単に確認できるじゃないか。ということで無事に思考加速の魔法も開発に成功、だな。てかこの思考加速で見える世界って面白いな...!
《熟練度が一定に達しました。エクストラスキル『思考加速』を習得しました》
えっ、スキルであるんですか?!マジですか!!!
思考加速の『魔法スキル』じゃなくて『エクストラスキル』ですか!!!
これは思わぬプレゼントを頂いた気分だ!!!
何がプレゼントなのかというと、先ほども説明したが補助系の魔法は使用するのに必要な魔力量が桁違いに多いのだ。今使っていた思考加速も強化魔法の延長として使っていたので消費魔力が非常に多い。しかしスキルとなれば話が変わってくる。魔法スキルではないので能力発動に際しての魔力消費がないのだ!これはもちろんエクストラではなくても単純に魔法ではない『スキル』であるという点がネックなのである。
これでこの『思考加速』を魔力消費なしで使えるのでその分、戦闘中に他の補助魔法に魔力を回せる余裕が出来るという訳だ。非常にありがたい。何なら身体強化も魔法じゃなくてスキルであれば良かったと思うけどね。
さて続いて『並列思考』にも挑戦してみようと思う。
ただこれの習得には一つ問題がある。
先ほどの『思考加速』とは違ってどのように魔法として再現するか検討がつかないのである。『思考加速』は心肺機能を高めて脳への血流量を高めて認知機能を上昇させることによって再現したが、並列ってどうすればいいんだ?いわゆるマルチタスクってことなんだけど、どうすんの???
・・・・・・・・・・5分後。
・・・・・・・10分後。
・・・・15分後。
30分後。
はい、無理です。
分かりません!!!
並列思考ってどういう仕組み何だよ!!!
俺みたいな一般人がそんな脳機能の専門知識なんて持ってるわけないだろ!!!!!
.....ふぅ、とりあえずいったん落ち着こう。
並列思考の件に関しては一旦保留ということで。
やはり魔法というのは思考強度が大事だから明確に魔法で起こしたい現象をイメージできないものは発動できないか。逆に言えばどんな効果の魔法であってもイメージさえ確立出来れば発動できるということでもある。
いろんな実験や検証をやってみて魔法の秘めたる可能性に気づくことが出来たことは非常に大きいだろう。新たに習得できた魔法や能力もあれば、失敗に終わった魔法もあるけれどもこれらの経験は難しく強力な魔法を習得することよりもさらに何倍もの価値がある事である。
ゲームのような、前世とは違う不思議なシステムが存在するこの世界の仕組みについて少し理解を深めることが出来たような気がする。
最初は強くなるため、万が一のためという理由で始めてみたこの検証だが、意外と奥深くてとても興味深いことがたくさん見つかった。もちろん強くなるため、自分や大切な人の身を守るためにもだが、この世界のことをもっと知るためにも気になることはどんどん追及していきたい!
俺は赤く染まりかけている空を見上げながら、新たな目標を心に刻むのだった。