やってきたある男 VS コンビニおもてなしオールスターズ その3
「スア……マックスって、確か何百年も前にこの世界を救った勇者の名前じゃなかったっけ?」
僕の言葉に、スアはこくりと頷きました。
すると、スアはなぜかとんがり帽子を取り出しまして、顔を隠しながら
「……私は、直接あったこともみたこともないけど……そ、そう、何かの書物の挿絵にあった顔とそっくりだからそんな気がしたの……決して私が何百年も前から生きてたわけじゃないの……私、若いから」
スアは、声色を魔法で変えてそう言ってますが……
そんなスアの前で、外套の男……おそらく勇者マックスさんなんでしょう……彼はクスクス笑っています。
「ステルアム、そういうことにしておいてやるから、ちょっとその赤ん坊に触れさせてくれよ。確認するだけだからさ」
勇者マックスがそう言うと、僕からミクナスを受け取っていた魔王ビナスさんは身構えました。
そりゃそうですよね。さっきこれだけの大捕物を繰り広げた直後ですから。
すると、そんな魔王ビナスさんの横に、とんがり帽子を目深に被ったスアが近寄りまして、
「……私が横に立って、見てるから……」
そう言いました。
すると、ようやく魔王ビナスさんも
「店長の奥様がそう言われますのでしたら……」
そう言いながらミクナスを抱っこしたまま勇者マックスさんの前に歩み寄っていきました。
で
当然といえば当然ですが……元勇者のウインダさんを筆頭にしたコンビニおもてなしオールスターズの面々がその周囲を分厚く重囲していきます。
「あはは……信用無いなぁ」
勇者マックスさんは苦笑しながら周囲を見回すと、ミクナスの頭の上に右手をあてました。
すると、その接点から神々しい光が発しはじめました。
なんといいますか……見ていると心が安まるような、すごく暖かな光です。
「……うん、間違いない。確かにこの子は勇者と魔王、両方の血を受け継いでいるね。すごい魔力を持ってるよ」
そう言うと、勇者マックスさんは何やら詠唱を唱えていきました。
すると、ミクナスの周囲に神々しい魔法陣が展開していき、やがてそれがミクナスの体内に消えていったのです。
「今のはいったい……」
魔王ビナスさんは、ミクナスを見つめながら目を丸くしていました。
すると、その横に立っているスアが
「……神の祝福……強大な力が暴走しないように……何かあったら、神が手助けしてくれるように……そういう祝福……」
魔王ビナスさんへそう告げました。
「……ってか、ちょっと待ってよスア……この人、勇者マックスさんなんだよね? 神様じゃないんだよね? なんでその勇者さんが神の祝福をミクナスに与えることが出来てるの?」
僕は、首をひねりながらスアに聞きました。
すると、スアよりも先に、勇者マックスさんが笑いながら僕の肩をポンと叩きました。
「今の僕はさ、神界からこの世界の護衛を任されてる神様でもあるんだ」
「は?」
勇者マックスの言葉に、僕だけでなく、周囲に集まっているコンビニおもてなしオールスターズの面々全員はびっくりした声をあげていきました。
……で、勇者マックスさんの話を総合すると、こういうことになります。
勇者マックスさんは、かつてこの世界に侵攻してきた魔法界の軍勢を追い払った英雄でして、その功績を神界という神様の世界に評価されて、神界人になったんだそうです……つまり、神様になったってことらしいです、はい。
ただ、魔法界とこのパルマ世界は表裏一体の存在のため完全に切り離すことが出来ないそうで、常にどこかでつながっているんだとか。
「僕は、神界のえらい人に頼まれてね、この世界に魔法界がまた侵攻してこないように見張ってるんだよ」
そう言うと、勇者マックスさんは、ミクナスへ視線を向けました。
「でね、この子のように強大な魔力を持った子供は、何かの拍子に魔法界との間に門(ゲート)を作っちゃいかねないんだ。だから、そういうことが起きないように、危なそうな子供が生まれたら僕がチェックして、必要な措置を講じているわけさ。さっきみたいな祝福を与えてね」
そう言うと、勇者マックスさんはミクナスに魔法がきちんとかかってることを再度確認してから、後方に下がっていきました。
「そういうことでしたら、最初にきちんとお話してくだされば……」
魔王ビナスさんの言葉に、勇者マックスさんは苦笑しました。
「いやぁ、ちゃんとお話しようとしたんだけどさ、あの蛙人の女の子がいきなり土下座しちゃって『ミクナスちゃんがさらわれるでおじゃります~』って悲鳴あげちゃってさぁ……あとはもう、どうにもならない大騒動になっちゃったわけで……」
勇者マックスさんは苦笑しながら僕の後方へ視線を向けていきました。
僕が肩越しに後方を確認すると……その僕の後方、お店の出入り口のところで、ヤルメキスが地面に埋まるんじゃないかってくらいの勢いで土下座をしながら、
「は、は、は、早合点をしてしまい、ま、ま、ま、誠に申し訳ありませんでごじゃりまするうううううう」
そう言っていたわけです。
とはいえ、ヤルメキスがとった行為は、あながち間違っていたわけではありませんしね。
勇者マックスさんがただものでないことに気付いたからこそ、ヤルメキスはミクナスちゃんの危険を感じ取ってこういう行動に出たわけですから。
それがわかっていますので、ヤルメキスのことを責める人は誰一人としていませんでした。
で、勇者マックスさんはひとしきり話終えると、僕の前に歩み寄ってきました。
しばらく僕のことをマジマジと見つめていた勇者マックスさんは、
「へぇ……あの人間嫌いのステルアムの旦那さんだから、亜人か魔族か、はたまた神界人なんじゃないかと思ってたんだけど……まさか、なんの変哲もない、普通の人とはねぇ」
そう言いながら、楽しそうに笑い始めました。
すると、そんな勇者マックスさんと僕の間にスアが飛び込んできました。
「……用事が済んだのなら……とっとと帰って」
相変わらずとんがり帽子を目深に被りながら、スアは声色を変えたままそう言いました。
勇者マックスさんはそんなスアを見つめた後、僕の方へ視線を向けました。
すると、なぜか勇者マックスさんはその顔にびっくりしたような表情を浮かべられました。
「……失礼、訂正するよ。君はただの人じゃなくて、みんなから好かれている、すごい人なんだね」
そう言うと、二カッと微笑まれました。
言われた言葉の意味がよくわからなかった僕はきょとんとしながら背後を振り向いていきました。
すると、そこには……
箒を振り上げて肩を怒らせているシャルンエッセンス。
サラマンダー化して威嚇の姿勢を取っているパラナミオ
正拳突きの構えをしているエレ
ヒールの高いサンダルを両手に持って身構えているクローコさん
と、まぁ、騒ぎを聞いて駆けつけてくれたみんなが僕の背後にすごい数集まってくれていたんです。
当然、コンビニおもてなしオールスターズの面々もいます。
そんなみんなに囲まれている僕を見つめながら、勇者マックスさんは
「そんな君だから、人嫌いのステルアムが旦那さんに選んだのかもね」
そう言うと、自分の横に大きな転移ドアを出現させました。
「じゃ、今度こそ帰るよ。縁がまったらいつかまた……」
そう言うと、勇者マックスさんは転移ドアの向こうへ姿を消していきました。
勇者マックスの姿が消えると、周囲に集まっていたみんなが一斉に僕の元へ集まって来ました。
「パパ、大丈夫ですか!?」
「お兄様お怪我はございませんですの!?」
「ご主人様、今からでも追撃いたしましょうか?」
パラナミオ・シャルンエッセンス・エレをはじめ、みんなが一斉に僕に話しかけてきます。
「っていうか、僕よりミクナスちゃんでしょ、心配しないといけないのは!」
僕がそう声をあげると、
「ミクナスは、店長様のおかげで無事ですから」
魔王ビナスさんが笑顔でミクナスをみんなに見せていきました。
同時に、みんなから歓声があがっていきます。
すると、再びみんなは僕の周囲に集まって来て、僕の心配をしてくれました。
勇者マックスさんも言って言っていまいたけど……僕はどうやらみんなに好かれているといいますか、気にして頂ける存在ではあるようです。
僕は、みんなの好意に感謝しながら、心配して声をかけてくれるみんなに笑顔で言葉を返していきました。
そんな感じで、コンビニおもてなし本店前でわいわいしていると、どういうわけか街の皆さんに
「なんでもコンビニおもてなしの店長さんが子供を救ったらしいぞ」
と、今回の騒動の一部だけが伝播していきまして、
「店長さんすごいじゃないか!」
「さすが店長さんだね!」
と、僕に一言伝えようと、たくさんの方々が集まってこられました。
その皆さんは、ついでに、と、コンビニおもてなし本店で買い物までしていってくださったもんですから、今日のコンビニおもてなし本店はこの後すごい数のお客さんでごった返していきました。