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第4話(1)パートタイムサモナー

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「ふ~ん、普段は主にバハムート以外を召喚しているんだ」

「バハちゃんクラスを召喚となると、かなりの事態だよ。力もその分消耗するしね」

 馬を休ませている間、アパネとルドンナが話す横で、スティラが分厚い本を手に取る。

「ルドンナさん、これは? 山には持ってきていなかったですよね?」

「ああ、『召喚の書』だよ。召喚呪文がビッシリと書かれているんだ。でも逃亡の恐れがあるっていうから自警団に預けていたよ」

「ええっ⁉ とても大切な書物じゃないですか!」

「子供の頃から何千回、何万回と飽きる程読んでいるし、大体の召喚呪文は暗誦出来るから無くても別に問題ないよ」

「それでも召喚士として大事な書物なのでしょう? 自警団の人が、魔が差して売りに出したりしたら……どうするおつもりだったのですか?」

「はははっ、こんなのまず売り物にはならないって……見てみなよ」

 ルドンナが笑いながら本の適当なページを開く。スティラが覗き込む。

「これは古代文字……ということは判別出来ますが……」

「判別出来ても読めなきゃ意味ない、アタシら召喚士の一族くらいしかまともに読めないよ。解読を試みるもの好きもいるみたいだけど……」

「解読出来た場合は……」

「それでも召喚士としての才覚があって尚且つそれなりの修練を積んでなきゃ意味ないよ。素人が無理矢理召喚しようとしたらとてもじゃないけど体が保たないよ」

「そうですか……それでも大事なものなのでしょう?」

 スティラが微笑みつつ本を閉じ、ルドンナに手渡す。ルドンナは照れた様子を見せる。

「まあ、枕にするにはちょうど良い高さだね」

 本を受け取ったルドンナはそれを枕代わりにして荷台の椅子の部分に寝転ぶ。

「ちょっと、ルドンナ! 足伸ばさないでよ、スペース取り過ぎだよ!」

 抗議の声を上げるアパネにルドンナが笑顔で答える。

「移動中・休憩中・就寝中は契約時間外だから、アタシの好きにさせてもらうよ」

「契約時間外……?」

「そう、さっきも言ったようにアタシの召喚術は凄い力を消耗するんだよね。力っていうのは、純粋な体力や魔力のことじゃなくて、いわゆる生命力。つまり寿命を削っているようなもの。だからその分、キチっとしたギャランティーが欲しいわけ……ただ、フルタイムでアタシを雇うのは無理だってことだから、交渉の結果、戦闘を中心とした1日3時間程の契約となったわけ」

「そうなのですか? ショー様?」

「どういうことなの、ショー?」

 スティラとアパネが俺に視線を向けてくる。

「い、いや、それはつまり、そういうことです」

「ちゃんと契約書もあるよ、勇者ショー=ロークのサイン入りだ」

「ええっ!」

 驚くアパネに起き上がったルドンナが契約書を見せる。そう、いつの間にかご丁寧に契約書まで交わしてしまっているのだ。酔っているときに何をしているんだ俺は。

「……って、ボク、字はあんまり得意じゃないんだけど、スティラ、どうなの?」

「……確かにショー様の署名が入っています……わたくしたちは文句を言えません……」

「そう、そういうことだから……」

「だ、だけど、移動中や就寝中はキミを守る義務が無い訳だよね? ね、スティラ?」

「ちょっと意地悪な言い方をすればそうなりますね……」

「でもお優しい勇者様たちは可哀想な乙女をたった一人放っておけるはずも無く……」

 ルドンナは両手を胸の前に組んで、わざとらしい口調で呟く。こういう言い方をされてまさか本当に放っておけるはずも無い。俺はため息をつきながら彼女に告げる。

「私たち全体を危険に巻き込むような、無理・無茶な行動は慎んで下さいよ」

「ああ、出来る限り善処するよ」

「出来る限りですか……」

「というわけで、あらためてよろしくね、アパネ、スティラさん」

「う、うん、よろしく……」

「よろしくお願いします……」

 ルドンナは横になって目を閉じる。アパネは俺とスティラを連れて馬車を降りる。

「ホントに良いの? ショー?」

「契約書を交わしてしまいましたし……それに魔王の打倒に向けて、戦力は多いに越したことはありません」

「まあ、確かにあの召喚術は強力だけどさ……」

「それでも安易に契約書を交わすことは感心出来ませんね」

「ごもっともです、はい」

 俺はスティラの言葉に恐縮する。

「……それはもう良いとして、本当に時間限定で宜しいのですか?」

「余程の緊急時には働いてもらうようにはしてあります」

「緊急時ですか?」

「例えば、彼女自身が生命の危険を感じた時などですね」

「成程……」

「ただ、その分追加のギャランティーが発生します。彼女自身のミスで危険を招いた場合などはこちらの支払義務は生じませんが」

「パートタイムサモナーですか、聞いたことがありませんが……まあ、致し方ありませんね……アパネの言う通り、あの召喚術は大変強力かつ魅力的なものですし……」

 スティラがため息をつく。

「……『ご理解頂けたようで、なによりだよ』だって」

「うわ⁉ 何、妖精?」

 アパネが驚く。俺たちの周りに小鳥程の大きさの妖精が飛んでいたからである。妖精は話を続ける。どうやらテレパシーのようなものでルドンナの言葉を伝えているようだ。

「『だけど、内緒話は感心しないなあ』だって」

「ふむ、妖精……フェアリーも召喚出来るわけですか」

 スティラは腕を組んで頷く。俺たちは馬車に戻る。ルドンナは起き上がっている。俺は冷静に告げる。

「気を悪くしたのなら申し訳ありません」

「いいや、別にいいけどさ」

「聞き耳を立てるのは感心しないけどなあ」

「召喚術を除けば、非力な女の一人旅、情報が何より重要なんだよ」

 ルドンナはアパネに対し、悪びれずに話す。

「貴女をまじえて喫緊の課題について話しあいたいのですが」

「喫緊の課題?」

「そう、私の剣についてです。鎧や盾などは返して貰いましたが、こればかりは……」

 俺は無残に折れてしまった剣を取り出す。スティラが尋ねてくる。

「町にも武具屋はあったと思いますが?」

「勿論見に行きましたが、どれもあまりピンと来なかったもので」

「そ、そうですか……」

 俺の返答にスティラは戸惑い気味に頷く。ルドンナが笑いながら言う。

「木の魔法とやらで木剣でも生やせば良いんじゃないの?」

「それも検討しましたが、やはり丸腰という訳には参りません」

「検討はしたんだ……」

「どうするの? 次の大きな町までもうしばらくあるよ?」

「ちょっと待って、アパネ……うん、そうお願い」

「どうしたの?」

 ルドンナはしばらく黙った後に口を開く。

「……この近くの谷に腕利きのドワーフたちの里があるってさ」

「もしかしてあの妖精ちゃんが調べてきてくれたの?」

「そう、こういうお願い事もこなしてくれるってこと」

 ルドンナはウィンクする。

「ドワーフ……鍛冶技術に長けた種族ですね。そこに行けば刀剣など見つかるかも……」

 スティラの言葉に俺は頷き、皆に指示する。

「では、そのドワーフの里に向かいましょう!」

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