可愛くてキュアキュアな その2
コンビニおもてなし3号店の建物内の空き部屋に子供服売り場を作り、そこでテトテ集落で作成された子供服や魔法少女戦隊キュアキュア5のコスチュームや変身アイテムを扱ってはどうだろうと計画したわけですが、そのことをスアに相談したところ、
「……う~ん」
と、渋い表情をされてしまいました。
スアは、何度も首をひねりながら
「……転移ドアでつなぐのはつなげる、よ……でも、あんまり多くの人が一度に利用すると、接続が不安定になっちゃう、から……」
そう言いました。
なんでも、現状ではマクローコのお店と3号店のコンビニ部分をつないでいる転移ドアでの人の流れを維持するのが精一杯なんだとか。
ここは、予約でやってきたお客さんが待ち時間などを利用して、転移ドアを利用して深夜も営業している3号店のコンビニに行き、あれこれ買い物をしてもらうのに使用しているだけですので、多くても1度に
10人くらいか使用していません。
子供服売り場と各支店を転移ドアでつないだ場合、この数ではまず収まらないでしょう。
「……一時的には維持出来るかも、だけど……継続的には、難しい、かな」
スアはそう言うと申し訳なさそうな表情をその顔に浮かべました。
スアは伝説の魔法使いです。
僕がお願いしたことはほとんど何でも実現してくれるもんですから勘違いしそうになることが多々ありますが、万能なわけではありません。
当然、出来ることと出来ないことがあるわけです。
「ごめんねスア、無理言っちゃったみたいで」
僕は、スアに申し訳なく思いながら頭をさげました。
そんな僕に、スアは顔がもげるんじゃないかって勢いで顔を左右に振り、
「……ううん、私がだめなだけ、よ……もっともっと精進する、から」
スアはそう言ってくれましたけど……スアが駄目とか言い出すと、この世界に存在している魔法使いや魔道士のほとんど全員が駄目ってことに……いえ、これ以上は言わぬが仏ですね。
と、いうわけで、僕は別の案を考えました。
定期魔道船です。
現在、ガタコンベ――ブラコンベ――ララコンベ――ナカンコンベを結んでいる定期魔道船ですが、この停泊地に「魔法使い集落」を加えることを考えたわけです。
魔導船は日に6,7便運行していますので、定期魔道船でこの地にやってきた皆様も、ゆっくり買い物をして、後の便で帰ることも可能になるわけです。
この停泊地追加に合わせて、テトテ集落も新たに停泊地に加えることにしました。
テトテ集落も、すでに乗降タワーも設営完了していますし、準備万端でしたからね。
長のネンドロさんの話では
「農業体験や林業体験、森の中でのアスレチックなども楽しめるように、準備しておりますニャあ」
そう言っておられました次第です。
◇◇
僕は、このことを早速コンビニおもてなしの店長会議で相談しました。
「子供服はとってもイケてるしぃ!バッチリパナいと思うしぃ!」
舌出し横ピースしながら賛同してくれたクローコを筆頭に、みんなは満場一致でこの案を許可してくれました。
これを踏まえまして、僕はコンビニおもてなし本店店長代行のブリリアンと話し合いを行いました。
ブリリアンは、定期魔導船を操舵しているメイデンの身柄を管理していることもありまして、定期魔道船の運行管理もしてくれています。
最初この役目は他の誰かにお願いしようと考えていたのですが、
「お断りいたしますわ。この私に命令を出来るのはブリリアンお姉様ただ一人! この体はブリリアンお姉様以外の方には何人たりとも触らせるつもりはございません」
話し合いの場にいきなり現れたメイデンは激しい口調でそう言いながらブリリアンに抱きついていきました。
いつもでしたらここで『何すんじゃこのぼけなすが!』とか怒鳴り声を上げながらメイデンをぶん殴るはずのブリリアンなのですが、この時のブリリアンは
「まぁ……そういうことで」
その頬を赤く染めながら、これを了承してくれました。
僕の前で、仲良く抱き合うブリリアンとメイデン……2人の間に何か進展があったような気がしないでもないのですが、それ以上突っ込んで聞くのは、何かとんでもない発言を引き出してしまいそうな気がして、僕はブリリアンに定期魔道船の管理をお願いして話を終わりにした次第です。
そんなわけで店長会議終了後、
「ブリリアン、そういうわけで定期魔導船の航路変更に関する準備を整えてくれるかい?」
僕がそう言うと、ブリリアンは携えていた鞄の中から資料の束を取り出しまして
「はい、こうなると思っていましたので、すでに新しい運行予定表並びに運行計画変更にともなう予約受付作業の変更準備は整っておりますわ。こちらがその詳細になりますので、お目をお通しください」
そう言いながら、その資料を僕に手渡してくれました。
「いやぁ、さすがブリリアンだね、今晩中には内容を確認させてもらうよ」
と、僕が言うと、
「当たり前ですわ。ブリリアンお姉様ですもの、それぐらい朝飯前に決まっていますわよ!」
ブリリアンの後方にいきなり出現したメイデンが、満面の笑顔でそう言いながら、ブリリアンに背後から抱きついていきました。
以前でしたらここで『お前どっから出て来たこら!』とか言いながらメイデンをひっ捕まえて連行していくブリリアンだったのですが、
「……そう、今日の最終便の操舵が済んだのね、お疲れ様」
ブリリアンは冷静にそう言うと、メイデンに抱きつかれたままの姿で部屋をで出て行きました。
……うん、まぁ、深くは突っ込みませんけどね……やっぱり何か2人の関係に進展があったようにしか……
◇◇
ブリリアンから渡された計画書を一晩で読み終えた僕ですが……さすがブリリアンですね、完璧でした。
翌朝、ブリリアンにこの計画書通りに変更を実施するようお願いしました。
「こちらは3日あれば準備可能です。テトテ集落にも発着タワーがすでに完成していますので問題ありません。あとは3号店に発着タワーが出来れば……」
ブリリアンは、少し考えこんだ後、そう返事をしてくれました。
僕は、これを受けてすぐに魔法使い集落にありますコンビニおもてなし3号店へ移動しました。
「これはご主人様」
エレは、恭しく一礼しながら僕を出迎えてくれました。
「エレ、お疲れ様。昨日の店長会議で話に出た定期魔道船の件が動き出したんだ。例のアレを建物の上に設置してくれるかい?」
「はい、お任せください」
エレはそう言うと、軽く右手をあげました。
すると、その後方に3号店の店員、スシス・ワザン・チカラン・マスワンの木人形4人が集合しました。
コンビニおもてなしの店の入り口前に
『休憩中』
の看板を出したエレは、他の木人形達と一緒に建物の裏へと移動していきました。
そこには、巨大なタワーが置かれていました。
これ、ルア工房のルアが設計した各地の魔導船発着タワーの設計図を元にしてエレ達木人形がこつこつと作りあげた代物なんです。
「設計図さえあれば、何でも作れますわ」
エレがそう言っていたのですが、さすがです。
ただ、これを作成した際にはまだ魔法使い集落に定期魔導船の就航が決まっていませんでしたので、万が一他の場所への就航が先に決まった際にはそっちへ転用出来るようにと、あえて設置しないで保存していたわけです。
エレ達は、この巨大な乗降タワーに太い鎖を巻き付けていきました。
すると、建物の屋上にあがったチカランが、
「ふんぬうううううううううううううううううう」
気合いもろとも乗降タワーを引き上げていきました。
で、その引き上げられた乗降タワーを手先が器用なワザンが、テキパキと接合させていきました。
こうして、わずか1時間でコンビニおもてなし3号店の屋上に乗降タワーが設置されたのです。
これを受け、ブリリアン主導により定期魔道船の試運転を行った後、3日後に定期魔道船の新しい航路での運用を始めることにしました。
それに併せて、店内の改築も開始されました。
これは、接客能力に長けたデスワンが中心になって、作業を行っていきました。
「子供のお客様もいらっしゃるはずですわん。お遊戯スペースも設営するですわん」
そんなデスワンのお客様主導の思考に基づき、室内はどんどん改装されていきました。
ここには、テトテ集落から数名と、テレコの絵本作りを手伝っている魔法使い達がバイト扱いで接客にあたる予定になっています。
デスワンが補佐にあたる予定になっていますので、まぁ心配ないでしょう。
程なくして、店にテレコをはじめとした魔法使いの皆さんが商品を持ってやってきました。
「あの……こ、今回は本当にありがとうございます」
テレコ達は何度も頭をさげました。
「いえいえ、僕達の方こそよろしくお願いしますね」
僕はそう言いながら右手を差し出しました。
すると、テレコは嬉しそうに微笑みながら僕の手を握り返してくれました。
こうして、コンビニおもてなし3号店での、子供服の販売準備が急ピッチで進んでいきました。