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その女、打つ手なし? その1

 風俗街のお姉さんをお助けしたことが広まったことで、コンビニおもてなし美容室マクローコのお店のお客さんが一気に増加しました。
 ただ、もともとマクローコのお店は風俗街のお姉さん達だけを相手にしていたお店なのですが、その風俗街のお姉さん達をほぼ独占しちゃったって感じです。
 風俗街のお姉さん達が通っていた別の美容室も当然あったのですが、そういったお店の大半は昼間も営業していて、一般のお客さん相手にも営業していらわけです……っていいますか、ぶっちゃけそっちの方がお客さんが多かったらしく、マクローコのお店が風俗街のお客さん達を全部引き受けてくれたのをこれ幸いとばかりに、夕方以降の営業を取りやめる店が続出していきました。
 
 そんな中、マクローコのお店に3人の店員さんがお試しで入りました。
 全員、マクローコのお姉さんのクローコさんのお友達のダークエルフの皆さんです。
 以前から時間のあるときにクキミ化粧品の作成の手伝いをしてくれていた人達でして、皆さんそれはもう見事な髪型をなさっています……なんていいますか、こう、もりもりっと盛り上がっている、みたいな……
 皆さんはですね、以前は他の美容室に勤めていたことがある方ばかりでしたので即戦力なわけです。
「皆さん、よろしく! みたいな!」
 マクローコは張り切って皆さんに笑顔で舌出ししながらダブルの横ピースをしていきました。
 それに対して3人のダークエルフの皆さんも、
「「「あたし達におまかせ! みたいな!」」」
 と、3人揃って、どこかの可愛くてできゅあきゅあな女の子戦士達の決めポーズを決めていました。

 そんなわけで、いろんな事がうまく回りはじめたコンビニおもてなし美容室マクローコのお店は順調に営業を続けていくことが出来そうです。

 ちなみにですが……

 先日衛兵に突き出した暴行グループですが、全員即座に王都に送られて厳罰が課される見込みだそうです。
 で、そいつ達を捕縛したおかげで、そいつらにかけられていた報奨金を頂くことが出来たのですが、その報奨金はちょうどマクローコの店の改築にかかったお金とほぼ同額だったんですよね。
 本来であればスアが受け取るべきお金なのですが、そのスアが
「……私はいらない。お店の改築費用にしてあげ、て」
 そう言ってくれたもんですからそうさせてもらうことにしました。
 マクローコは最初
「奥さんちゃん、それはよくないと思うしぃ」
 と言いながら必死に受け取り拒否をしていたのですが、
「まぁさ、僕とスアからの開店祝いだと思って受け取ってよ」
 僕がそう言うと、マクローコは
「そ、そこまで言ってくれるのなら……」
 そう言いながら、ようやく報奨金を受け取ってくれました。
 結局そのお金は、店の改築費用を立て替えている僕のところにそのまま帰ってきたんですけどね。
 でもまぁ、このお金のおかげでマクローコのお店は借金ゼロで再スタートをきれることになったわけです。
 やっぱ、頑張っている人にはいいことがあるんだな、なんてことを思った次第です、はい。

◇◇

 そんな中、コンビニおもてなし5号店に、ナカンコンベ商店街組合のエレエがやってきました。
 連絡は、当然あのポルテントチップ商会の事でした。
「なんかですですね、ポルテントチーネの対応が一変したですです」
 そう言いながら、エレエは首をひねりました。
 
 今までのポルテントチーネは罪を全部すぐに認めて即座に罰金を支払ってすべての罪を即座に完結させ続けていたんです。
 そのため、エレエ達商店街組合で組織されている査察団もそれ以上突っ込んだ調査が出来なくなっていて、このままではポルテントチーネがすぐにでも釈放されかねない状態になりつつあったのです。

「それがですですね、急にお金を払えなくなったものですですから、懲役刑になる可能性が出て来たですです」
 そう言ってエレエは再び首をひねっていました。
 なんでもポルテントチーネは、
『お金はすぐに届くから、もうちょっとだけ待ってよ!』
 と、必死に懇願し続けているそうです。
「ただですですね、今、ナカンコンベ内にあるポルテントチップ商会の関連施設には罰金を支払えるほどの資金はどこにもないはずなんですです」
「ってことは、ナカンコンベの外から運び込んでいるってこと?」
「おそらく今までもそうしていたと思われるのですですが……そんなお金を積んだ荷馬車が城門や魔導船から出て来たとの報告はないんですです」
「……となると、どこかから忍び込んでたってことなのかな……で、そのルートがなんらかの理由で今使えなくなっているからお金がない……って感じだろうか……」
 僕とエレエがそんな会話を交わしながら互いに腕組みをして考えこんでいると、
「あれ、店長、今忙しかったかい?」
 そう言いながらルアが店に入ってきました。
「いや、大丈夫だけど、何か用かい?」
「ちょうどエレエもいるし、ちょっと聞いてもらってもいいかな」
 ルアはそう言うと、僕達の前に図面を広げました。
 今、内装を工事しているルア工房の図面です。
 で、ルアはその一角を指さしました。
「実はさ、この建物を改装してたらさ、床下に妙な空間があったんだよ」

 ルアが言うにはですね、店の奥の床板の一部が開く仕組みになってたそうでして、そこから地下に向かって階段が伸びていたそうなんです。
「でさ、そこを降りたら、地下に荷馬車の発着場みたいな場所があってさ。その空間がどうもナカンコンベの街の外へ通じてるみたいなんだよ」
 ルアはそう言って首をひねりました。
 そんなルアの前で、僕とエレエはハッと目を見開きました。

 ルア工房の前身は、高級食堂ポルテントチップです。
 言わずとしれた、あのポルテントチップ商会の関連施設です。
 おそらくですが、ポルテントチーネはこの地下通路を利用して街の外から罰金に使用するお金を運び込んでいたのでしょう。
 その出所は、ポルテントチップ商会の街の外の視点か、そのバックについていると噂されている闇の嬌声じゃないかと思われます。

「……ポルテントチーネがこの建物を手放そうとしなかったのは、これが理由だったのかもしれないな」
 僕の言葉に、エレエとルアは大きく頷いてました。
 エレエは、ルアに
「すぐに衛兵を連れて行くですです」
 そう言い、慌てて店を出ていきました。
 それを受けてルアも工房へと戻っていきました。
 僕は、そんな2人の後ろ姿を見送りながら、これでポルテントチップ商会絡みの案件が片付くことを心から祈っていました。

◇◇

 ほどなくしてルア工房に到着したエレエと衛兵達が、ルアに案内されてその穴の調査を行いました。
 それによりますと、穴はルアの言ったとおりナカンコンベの外にまでつながっていたそうです。
 ところが、一同が穴の出口から顔を出すと、そこにデラマウントボアがいたそうなんですよ。
 どうもですね、デラマウントボアがこの通路の街の外にある出入り口の真ん前に巣を作っていたらしくて、誰も近寄れない状態になっていたそうなんですよ。

 で、その一報を受けたイエロとセーテンが早速討伐に向かいました。

 時間にして、およそ1時間。

「店長、大量でござるよ!」
「3頭仕留めたキ」
 イエロとセーテンは、でっかい荷馬車に3頭のデラマウントボアの死体を乗せてコンビニおもてなし5号店前に戻ってきました。
 その周囲には、大勢の観衆が集まっています。
 で、観衆の皆さんは
「今日も宴会があるのかい?」
「もちろんあるよね?」
 僕に向かって口々にそう言いながら目を輝かせていました。
 ……そうですね、この期待を裏切るわけにはいきませんね。

 と、いうわけで

 この日も、コンビニおもてなし5号店前でデラマウントボア鍋による宴会を開きました
 野菜やスアビールを無料で振るまっていますけど、害獣退治の報奨金で十分お釣りがきますのであまり気にはなりません。
 街の皆さんに喜んでいただけてさらにお店の宣伝にもなるわけです。
 僕達はコンビニおもてなし5号店の店員総出で、集まってくださったみなさんのお相手をしていきました。
 ただ、殊勲者であるイエロとセーテンの2人は宴のど真ん中でみんなに酒をつぎまくられていますので、戦力にはなりません。
 するとそんなところに今日の営業を終えた他の支店のみんながこの宴会のことを聞きつけたらしくどんどん手伝いにきてくれましたので、なんとかなった次第です、はい。

 この日も、明け方近くまで宴は続いていきました。
 そして、コンビニおもてなし5号店の屋上に、デラマウントボアの頭部が新たに追加されていきました。

 ……っていうか、5つも並ぶとさすがに怖いものがありますね。

 ちなみに例の地下道ですが、エレエと衛兵達がすべて埋め戻してくれましたので、今後利用される心配もなくなりました。

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