魅惑のダブル横ピース その3
マクローコ達は早速美容室の内装を整えていきました。
スアがつきっきりで手伝ってくれることになったので、以前と同じ状態に戻すだけであればすぐに出来上がるはずです。
ところがマクローコは、わざわざ一度コンビニおもてなし5号店まで戻ってくると、
「店長ちゃん、折り入ってご相談がね、あるみたいな？」
そう切り出しました。
マクローコが言うにはですね、
「マクローコ美容室をさ、コンビニおもてなしちゃんのお友達にしたい、みたいな」
「お友達……あぁ、系列店ってことかい？」
「バチッとそう！」
いわゆる、おもてなし食堂エンテン亭やおもてなし酒場みたいな形にしたいってことみたいです。
「でね、コンビニおもてなしちゃんのクキミ化粧品をね、使わせてほしいみたいな？ あ、もちろん仕入れさせてもらうし！ お金払うし！ 借金のお金は戻ってこなくなったっぽいけど、クローコお姉ちゃんのお店でバイトしてたから少しはお金あるし！」
マクローコは両手を激しく上下させながら嬉しそうに話しています。
「となると、看板を新しくしないといけないね……じゃあ早速ルアにお願いを……」
僕がそう言いかけると、マクローコは大げさに両手を振りながら僕を止めました。
「あとねあとね、マクローコからもう一個お願いがある、みたいな」
「もう一つ？」
「これはね、クローコお姉ちゃんも賛成してくれてるんだけどね、店長ちゃんの許可をバチッととらなきゃ駄目だお！ってクローコお姉ちゃんに言われてる、みたいな」
そう言うと、マクローコは両手を一生懸命動かし始めました。
何か四角い物を空中に描いているようです。
「あのお店ってば、こんな感じっぽい。でね、2階は倉庫とマクローコ達のお部屋だったのだ」
そう言いながら、マクローコは自分が身振りで作っていた四角の上の方を一生懸命指さしています。
どうやら、マクローコは両手でお店を表現していたようですね。
「そこにね、クキミ化粧品の工場を作りたい、みたいな？」
マクローコはそう言いながら、僕に向かって両手を振り回しています。
そういえば、クローコさんが以前言っていました。
今、化粧品生成工場として使用している巨木の家の実の部屋ではかなり手狭になっているって。
で、まぁ、この話はすでにクローコさんも了承済みみたいですし
「うん、いいんじゃないかな」
僕はそう返事を返しました。
その言葉を聞いたマクローコは
「だから店長ちゃん、大好きっぽい！」
そう言うやいなや僕に抱きついてきました。
すると、当然のようにスアが転移してきまして、マクローコを街中に流れている用水路の中へと魔法で放り投げていったのは言うまでもありません。
「……私の、なの……」
スアは、そう言いながら僕にピトッと抱きついてきました。
◇◇
程なくして、びしょ濡れになって戻ってきたマクローコを着替えさせてから、僕はマクローコと一緒にルア工房へ向かいました。
あいにくルアは商店街組合の手続きのため不在だったのですが、パラランサがいました。
ヤルメキスの旦那さんです、はい。
「あ、店長さん。ヤルメキスちゃんがいつもお世話になってます」
僕の姿を確認したパラランサはにっこり笑って僕とマクローコを出迎えてくれました。
「どうだい、この建物は？」
「まだ改装中ですが、とてもいい感じです。真正面が美味しい食堂なのもいいですね」
パラランサはそう言って笑っていました。
パラランサが言っている美味しい食堂というのはピアーグのことです。
ちなみに、このピアーグでヤルメキススイーツの取り扱いを始めたんです。
ヤルメキスの作るスイーツが大好物のパラランサですからね。食堂の料理以上にスイーツを堪能している姿が目に浮かびます。
で、そんな会話を交わした後、僕は本題を切り出しました。
「マクローコ美容室の2階をクキミ化粧品の製造工場に改造したいんだけどさ、その相談にのってもらえないかな。あと、新しい看板も作ってほしいんだ」
僕がそう言うと、パラランサは
「あ、はいわかりました」
と、あっさり了承してくれました。
「ルアがいないのに、いいのかい？」
「えぇ、師匠からも『コンビニおもてなしさんの案件は絶対に断るな』と言われていますので」
パラランサは笑顔でそう言ってくれました。
ルアの事ですから、僕が出来ないことは言わないとわかっているからこその指示なのでしょう。
ホントにありがたいことです。
で、その場でパラランサとマクローコで打ち合わせを行ってもらいました。
どんな設備が必要で、どんな風に配置したいのかとかは、美容室の経営者で実際に使用することになるマクローコが直接話をした方が確実ですからね。
例によって身振り手振りに独特なギャル語を交えながら一生懸命説明していくマクローコ。
それを、パラランサはふんふんと聞きながら、マクローコの要望内容をその場で図面に落とし込んでいます。
ちなみに、スアがやれば一瞬で出来ちゃう案件ではあるのですが……スアの場合少し問題があるんですよね。
といいますのも、スアは壊れた物を元の形状に戻すのは得意なのですが、デザインセンスとかがちょっと一種独特といいますか、かなり独創的な仕上がりにしてしまう傾向があるんですよ。
巨木の家のように素材の巨木をそのまんま利用する際には問題ないのですけど……
まぁ、そんなわけで今回はデザインのプロでもあるルア工房にお任せしたわけです、はい。
5号店の営業のことがありますので、僕は途中でルア工房を抜け出してコンビニおもてなし5号店へ戻りました。
案の定、コンビニおもてなし5号店はすごい人だかりになっていました。
デラマウントボア弁当の人気がすごいんですよね。
今日の誘導係のグリアーナが一生懸命魔法誘導灯を振り回しながら頑張ってくれているのですが、なかなかうまくこなせていません。
僕は慌てて店内に戻り、グリアーナの手伝いをしていきました。
◇◇
結局、この日もコンビニおもてなし5号店は1日中お客さんが殺到し続けました。
閉店時間をかなり遅らせてなんとかすべてのお客さんの対応が終わったほどです。
その際
「あ、コンビニおもてなしがまだやってるわ」
「きゃ、うれしい！」
そう言いながら、結構な数の女性のお客さん達がやってきました。
風俗街に出勤していく途中のお姉さん達です。
バッチリメイクを決めているもんですから、店内にすごい化粧の匂いが充満しちゃったりしたんですけど、皆さん喜んで買い物をしておられたのが印象的でした。
なんでも、
「私達ってさ、朝方まで仕事して、帰って寝て起きたら夕方なわけ。だからこういったお店が開店してる時間はいつも寝ちゃってるのよねぇ。だから今日はすごくラッキーだわ」
「それにさ、このお店で販売しているクキミ化粧品ってのも、すごく具合がいいしね」
皆さん、口々にそう言っていました。
◇◇
そんなわけで、今日もどうにか無事営業を終えたコンビニおもてなし5号店です。
「みんなホントにお疲れ様」
僕はみんなを見回しながらそう声をかけました。
すると、いきなり巨大な音が聞こえてきました。
同時に、床が揺れたような気がしました。
「な、なんだぁ！？」
僕や、店内のみんなは思わず目を丸くしながら周囲を見回していったのですが
「おーい店長殿ぉ」
店の外からイエロの声が聞こえました。
カーテンを閉めてあったドアを開けて外に出た僕は、その場で固まりました。
僕の眼前では、イエロとセーテンが嬉しそうに笑っています。
その後方……そこには、見覚えのある代物が転がっています。
……デラマウントボアが……しかも2頭も……
「いやぁ、まさかこんな大物にまた出会えるとは思わなかったでござるよ」
「今日はアタシも1匹仕留めたキ」
2人はそう言いながら笑い合っています。
その周囲には、今日もすごい数の人々が集まり始めています。
……この調子だと、今日もボタン鍋祭りをする羽目になりそうですね……
