魅惑のダブル横ピース その1
デラマウントボアのボタン鍋をメイン料理とした宴会は結局明け方まで続きました。
パラナミオら子供達や、夜遅くまで起きているのが苦手なヤルメキスとケロリン達は早めに退散したのですが、入れ替わるようにおもてなし酒場エンテン亭のテンテンコウ♀と猿人四人娘達や、2号店のシルメール達が、店が閉店したので、と、お手伝いに加わってくれたものですから人手的には十分でした。
夜半を過ぎると店からの帰りらしいナカンコンベ風俗街に勤務していると思われる化粧の濃いめなお姉さん達が大挙して宴会の輪に加わってこられたりしたのですが、
「……あのさ、あたし達がお邪魔しても大丈夫かい?」
と、そのリーダーらしい狐人の女性の方が僕のところにお伺いにこられたんですよね。
といいますのも、ナカンコンベの中にはこの風俗街で働いている女性の方々を露骨に差別する方々がおられるんですよ。
それで気を遣ってくださったようなんですよね。
僕自身はそういった方々を差別する気持ちは一切持ち合わせていませんので
「えぇ、歓迎しますよ、どーぞどーぞ」
と迎え入れました。
そのせいで宴会場から姿を消した方々もいましたけど、あえて気にしませんでした。
元々ナカンコンベの皆さんに楽しんでもらおうと思って始めた宴会ですし、風俗街のお姉さん達もナカンコンベの住人なわけですから特に問題があるとは思いませんでしたので。
そう言うと、そのリーダーらしい女性の人は
「……あんた、変わった人だねぇ」
そう言って笑っていました。
「あんた気に入ったよ。アタシはエラネラってんだ。風俗街の狐楼閣(ころうかく)へ来てくれたら、アタシが直々に相手してやっ……」
笑いながらそう言ってくださったエラネラなんですが、そこで転移してきたスアが僕とエラネラの間に割り込んできまして、エラネラに向かって「う~」ってうなり声を上げ始めました。
「なんだい、この可愛いのは?」
「あ、僕の妻です。妻がいますのでお世話になることもないかと思いますので、どうもすいません」
僕はそう言うと、スアを抱き寄せました。
スアは、僕の手を両手で抱きしめながら相変わらずエラネラに向かってうなり続けていました。
そんな僕達を見ながら、エラネラは
「あはは、こりゃごちそうさまだねぇ」
そう言って楽しそうに笑っていました。
そんな人達も集まってきて、宴は終始楽しい笑い声に包まれていました。
◇◇
お開きになる頃には、すでに空が白み始めていました。
風俗街のお姉さん達が大挙して片付けを手伝ってくださったおかげで、店の前はすぐに綺麗に片付きました。
片付けを手伝ってくださった方々にはお礼としてスアビールを1人1本お配りしたんですけど、皆さんすごく喜んでくださったんですよね。
「このビールすっごい美味しいね。最高に気に入ったよ」
エラネラをはじめ、皆さんすごく嬉しそうにスアビールを抱えて帰って行かれました。
ちなみに、店の前に1つだけやっかいな物が残っています。
デラマウントボアの外皮です。
これ、魔法をはじく特殊な皮膚な上にすっごく硬いもんですから、魔王ビナスさんの魔法の巨大包丁や、スアの魔法でもまったくどうにもならなかったんですよね。
ただ、魔法をはじく皮膚なわけですから、うまく加工出来れば魔法を受け付けない鎧や盾が作れちゃうんじゃないかなとか考えた僕は、ビニーをオデン六世さんに任せてこの宴会に加わり後片付けも手伝ってくれていたルアに相談してみたところ、
「確かにそれは面白そうだな」
ルアはそう言うと、ルア工房の職人さん達を大挙して引き連れてきまして総出で外皮を解体していきました。時間はかかりますが、力任せでならどうにか切り分けることが出来たんですよね。
もっとも、竜の鱗性の刀やナイフ、包丁でないとまったく歯が立たなかったのですが……
イエロの剣ならもっと簡単に切り刻めたかもしれないのですが、そのイエロがですね、風俗街のお姉さん達に
「強い女性は好きですわぁ」
「さぁさぁ、飲んで飲んでぇ」
と、いった具合にしこたま飲まされてしまって珍しく酔い潰れてしまっているんですよね。で、今はセーテンと一緒に店の2階のおもてなし寮の空き部屋の中で休ませているんです。
ちなみに、おもてなし寮は机・ベッドなどの家具付きなんですよね。
デラマウントボアの外皮はほどなくしてルア工房のみんなの手で無事解体撤去されたのですが
「この頭は立派だしさぁ」
と言うルアの判断で、原型をとどめている頭の部分は防腐処理を施した上でコンビニおもてなし5号店の屋上部分、魔導船乗降タワーの横にでーんと設置されました。
◇◇
数時間後。
コンビニおもてなし5号店の営業が始まりました。
デラマウントボアの肉はボタン鍋の要領で野菜と一緒に煮込んだものを弁当に仕立ててみました。
今日は試験販売ですので、5号店だけで販売します。
「新商品でしたら、このルービアスの出番ですね!」
と、ウナギ又のルービアスが気合い十分な様子でトレーに乗せた試食を片手に店の外へと出て行ったのですが
「おぉ! この店が例のデラマウントボアを倒して振る舞った店か」
「何!? デラマウントボアの弁当があるだと!?」
「で、これが試食か!?」
といった具合でですね、ルービアスの周囲はあっという間に黒山の人だかりになりました。
そんな中でも、ルービアスは笑顔を絶やすことなく
「はいはい、皆さん焦らないでくださいね~、試食ですよ~、コンビニおもてなし5号店限定のデラマウントボア弁当の試食ですよ~、お気に召されましたら店内で商品をご購入くださいね~」
と、宣伝トークを続けながら試食を配り続けていました。
もみくちゃにされながらも、トレーの水平もきっちり保ち続けています。
さすが、コンビニおもてなし試食担当を長いことやってくれているだけのことはありますね。
デラマウントボアの噂を聞きつけたお客さんで、今日のコンビニおもてなし5号店は朝一からすごい数のお客さんが押し寄せてこられました。
ルアが設置してくれたデラマウントボアの頭もいい広告塔になってくれています。
「あれがデラマウントボアか……」
「噂は本当だったんだ……」
「しかも、その肉を使った弁当が売られているらしいぞ」
とまぁ、そんな感じで次々に新たなお客さんを呼び寄せてくれている次第です。
今日のお客様誘導係のジナバレアは『デラマウントボアありマス』と手書きされた白地のシャツを着て魔法誘導灯を振り回してくれているのですがとても一人ではさばききれる数ではありません。
かといって、店内のみんなもそっちの手助けに回り余裕がありません。
(他の店にヘルプを頼むか……)
僕がそんなことを考えていると、通りかかった女性の方が数名ジナバレアの手伝いをしてくれ始めたんです。
よく見ると、その女性達は昨夜の宴会に参加していた風俗街の女性の方々でした。
「あたし達、今日はお休みでさ。せっかくなんでコンビニおもてなしに寄ってみようと思ってさ」
「そしたら千客万来じゃん、あやかりたいから手伝わせてよね」
女性達はにっこり笑ってそう言ってくれました。
ちなみに、この女性の方々……宴会参加中はド派手な化粧をしていたのですが、今日はお休みってことでノーメイクなんですよね。
そのため、どこにでもいる普通の女の子にしか見えないわけです。
「……店長様、あの女性の方々はどなたなのでしょう?」
「シャルンエッセンスも昨夜話をしてたじゃないか、宴会に来ていた風俗街の人達だよ」
「えぇ!?……お、お化粧をなさっていないからでしょうか……まったくわかりませんですわ……」
「そう? そんなに違わないと思うけど……」
そういう僕を、シャルンエッセンスは目を丸くしながら見つめていました。
はて? そんなに違うのかな?
そんな予想外な助っ人も加わってくださったおかげで、今日のコンビニおもてなし5号店は大きなトラブルもなく営業を行うことが出来ました。
ちなみにデラマウントボアの肉ですが、昨日あれだけ皆さんに振る舞って、さらに今日弁当が飛ぶように売れまくったにも関わらず、まだ全体の十分の一も減っていません。
まぁ、こんな大物、滅多に取れることもないでしょうし、いいストックになったと思うことにしようと思っています。
◇◇
今日手伝ってくださった風俗街のお姉さん達に、スアビールとデラマウントボア弁当を差し上げていると、商店街組合の職員の蟻人さんが
「タクラ店長さんですです? 組合長からお手紙ですです」
そう言って、手紙を届けてくれました。
中身を確認すると、マクローコの美容室の建物が正式に返還されたことが書かれていました。