Memory4.振り向くとそこには……
僕はクルル街の、このあたりでは一番大きな屋敷を見上げた。
一見、何十人も使用人がいそうな程の屋敷だが、実際はフレディとディディー、あともうひとり、フェブという女しかいない。
人間の僕に使えたいという者は、ほとんどいないのだ。
いや、いたとしても使えない奴らは追い出してやるが。
クルル街は、僕が住む街の名前。
ハイルス王国に5校しかない学園のうちの一つが、この街にあったりして、あたりは子供が多い。
僕も通っていたけど、9歳で両親が死んでからは不登校だ。
勉強なら家でもできるし、行く理由などなかった。
僕は自分の格好を見下ろす。
綺麗好きな僕の上着とズボンは汚れ、髪も乱れていた。
この姿を見たら、フレディとディディーはなんというだろう。
門を開けると、すぐにフレディが出迎えた。
そして、少し驚いたように僕を眺めた。
「······おかえり、レイリア。あれ、リュカ君は?今日泊まるんだろう?」
なんだ、やっぱり何も触れないか。
いや、触れてほしかったわけではないが。
僕はイライラと髪をかきあげ、屋敷の中に入った。
「ああ、もうリュカとは縁を切ったよ。そんなことよりフレディ、お風呂の用意を」
「えー。喧嘩したの?せっかくご馳走作ったのに」
「謝らなくていいのか」
ディディーがこちらを見ずに言った。
「謝る?謝るようなことを、なぜ口に出す必要がある?」
僕は、ずっと気づかないふりをしていたことに向き合ったんだ。
自分はそんなに立派な人間ではないと言うことに。
結果、父さんたちのお金で食べ物や服は配るものではないし、偽物の友人なんてものもいらないと言うことになった。
フレディはやれやれと料理を片づけながらため息をついた。
「子供だねぇ。ま、君がそれでいいならいいよ」
子供だと言うところは気に食わないが、フレディはいつだって物わかりがいい。
でもディディーは、
「あまり自分の行動を正当化しようとするなよ。友達なくすぞ」
腹が立つ。
「は?ディディーに言われたくないんだけど。君だって友達いないじゃないか。あ、それと、フレディ、君には他に血を提供してくれる人を探してあげる。だから、出て行きたかったら出ていってもいいよ。ディディーもだ」
二人は目を見張った。
「僕に仕えているのは、父さんたちに恩があるからだろう?でも僕はいつまでも君たちを縛らないよ」
「······凄まじいひねくれようだねぇ。僕は別に······」
フレディの言葉が途切れたのは、ディディが僕を殴ったからだ。
僕はイスに倒れ込んだ。
「何をする!」
「お前は、俺達に出ていってほしいのか?」
「······お前達に選べと言っているんだ!」
フレディがわって入った。
「ディディー、やめな。レイリアは辛いのさ」
「別に辛くなんてない。ただ、偽物はいらない」
「本物なら、ほしいと?」
「······」
黙って立ち上がり、部屋を出ると勢いよくドアを閉めた。
そんなこと、どうでもいい。
話すだけ無駄。
自分の部屋につくと、少しホッとした。
天蓋付きのベッドに腰掛けてそのまま仰向けになる。
今日はもう、お風呂はいいか。
頭に血が上っていたけど、だんだんと冷えていく。
別に、ディディー達に出ていってほしかったわけではない。
いたほうが当然助かるけど、わがままな僕に仕えさせるのは、可哀想だと思っただけだ。
それに、あの二人はどうせ僕に興味なんてない。
それが、嫌だった。
ディディーが怒ったのは、僕の言い方の問題なのだろうか。
僕は天井を見つめ深く息をはいた。
「明日、か」
明日、住人5人捕まえて穴まで連れて行く。
一瞬無理だろうと思ったが、1つ方法があった。
ムクリと起き上がり、書棚から一冊の本をとった。
ぶ厚い背表紙の、白い本。
これがあれば······。
ぎゅっと本を握りしめると、ふと、部屋が明るくなった気がした。
なんだ、後ろから光が?
さらに、後ろで気配を感じた。
バッと振り向き、僕は驚愕した。
「ーえ······!?どうして······!」
長く白い髪に、この世のものと思えない程の美しい顔立ち。
ポワポワと白く輝く光に包まれ浮遊する国王が、僕を見下ろしていた。
「ど、どうして······お前がここに?」
「君なら、きっと······」
国王はなにか独り言のようにつぶやき、そして僕に指先を向けた。
魔法を使われると気づいた僕は、慌てて両腕をかまえた。
「や、やめろ!」
指先から青い光があふれ、ぼくを包んだ。
くそっ、眩しい······!
「君は、一番大切なものをもっている」
え······?
だめだ、光で何も見えない······。
だんだん、意識が遠くなっていった。