みんなで休日 その1
今日はお休みです。
先週は5号店のプレオープンがあったり、ピアーグで騒動があったりしたもんですからずっと忙しかった僕ですが、今日はしっかりお休み出来るように調整しています。
ベッドで目を覚ますと、僕の左右にはパラナミオと少年姿のリョータがガッチリと抱きついていました。
で、頭の上には赤ちゃん姿のアルトが抱きついて寝ていまして、同じく赤ちゃん姿のままのムツキがお腹の上にのっかっています。
……どうりで妙な夢を見るわけです、何かに押しつぶされるような……そんな夢を起きる前に見ていたように思いますので。
僕が目を覚ますと、子供達も一斉に目を覚ましました。
皆には、今日はナカンコンベへ遊びに行くよってお話してありますので、全員楽しみで仕方なかったのでしょう。
パラナミオは開口一番
「パパ、おはようございます!今日はナカンコンベに行くんですね!」
そう言いながら、僕の腕を再度抱きしめてきました。
他の皆も、そんなパラナミオに続けとばかりに、僕にギュッと抱きついてきた次第です、はい。
なんと言いますか、ホント子供達に愛されていてありがたいといいますか、とりあえずムツキは降りてくれないかな、と思ってしまうといいますか……
その後、みんなで食事を終えた僕達は、早速準備に取りかかりました。
今日は、移動に定期魔道船を使用します。
定期魔道船の試験運航を兼ねて家族みんなで空の旅も楽しもうというわけです。
僕がスアと2人して巨木の家のリビングで運航航路を確認していると、その横に子供達が一列に並んで集合してきました。
「パパ!みんな準備出来ました!」
背中にカラフルなリュックサックを背負ったパラナミオが僕に向かってビシッと敬礼してきました。
それに合わせて、魔法で少年少女化しているリョータ・アルト・ムツキの3人もビシッと敬礼しています。
リュックサックは、テトテ集落の皆さんがコンビニおもてなしで販売する用に試作した品物でして、僕が個人的に買い取らせてもらいました。
この世界で市販されているリュックサックって大人用も子供用も地味な色合いの物ばかりなんです。ですが、今パラナミオ達が背負っているリュックサックは、赤だったり青だったりの原色がふんだんに使用されています。
街中で使用するには、華やかでお洒落な感じの品物になっています。
これは、僕が元いた世界でよく見かけていたお洒落系のリュックをですね、テトテ集落の皆さんに商品化してもらった品なのですが、昨日僕からそのリュックサックを受け取ったパラナミオ達はみんな目を輝かせて喜んでいましたので、どうやらいい感じみたいですね。
家族全員が揃ったのを確認した僕は、家族みんなで魔道船「コンビニおもてなし丸」の発着場があります川の上流へ向かって歩いていきました。
今日はコンビニおもてなし丸も運休日ですので、勇者ライアナも、メイデンもいません。
メイデンに関しては本店の店長業務をこなしてくれているブリリアンがしっかり面倒をみてくれているはずです……とはいえ、神出鬼没的にどこからともなく現れては自虐的といいますかドMな発言を繰り返すメイデンは……
「失礼な! 誰がドMだというのですか! 私はただ、自分の置かれている状況を正確に把握しこれから自分の身に降りかかるであろう七難八苦を事前に察知してですね……」
「お~い、ブリリアン! まぁたメイデンが脱走してるぞぉ!」
「あぁ!? て、店長すいません! まったくメイデンってば、あれだけ拘束していたというのにどうやって逃げ出したっていうのよ」
いきなり僕の背後に出現したメイデンは、こうして今回もブリリアンに回収されていきました。
さて、気を取り直しまして……
魔道船の操舵は、今日はスアがしてくれます。
今日は、僕達家族の貸し切り状態です。
「うわぁ! 久しぶりの魔道船です!
パラナミオは目を輝かせながら船室の中を駆け回っています。
その後方を、リョータ達も笑顔で追いかけています。
いつもは何百人といった人々でごった替えしている船室は、今は僕達一家の貸し切り状態です。
パラナミオ達がはしゃぐのも無理はありません。
程なくして、魔道船コンビニおもてなし丸は湖から上昇し、ナカンコンベに向かって移動を開始しました。
コンビニおもてなし丸の周囲を、景色がすごい勢いで流れていきます。
馬車だと1週間近くかかるナカンコンベですが、この魔道船だと1時間程度で到着してしまいます。
今回は、航路の下調べも兼ねていますので、途中少し遠回りをしてブロロッサムの木が群生している丘の上を通過していきます。
僕が元いた世界では5月、この世界で言うところのメイの月になっていまして、普通ブロロッサムの木はもう花を散らしているのが常なんですよね。
で、この丘も普段は新緑で覆われているんです。
が
魔道船コンビニおもてなし丸が近づいていくと、その光景が一変します。
丘一帯が一斉にピンク色に染まっていくんです。
ブロロッサムの木の妖精達が、枯れ木に花を咲かせましょうとばかりに、一斉に花を咲かせていくんですよ。
目立ちたがり屋なブロロッサムの木の妖精達は、魔道船コンビニおもてなし丸がやってくる度に「さぁ今回もあの船の乗客共に、妾達の優美で妖艶な姿を見てもらうのじゃ!」
「「「のじゃ!」」
そうやって気合いを入れている様子が、手に取るようにわかるわけです、はい。
対価として、ハニワ馬のヴィヴィランテスにお願いして毎日コンビニおもてなしのお弁当を届けてもらっているんですけど、ブロロッサムの木の妖精達は、このお弁当をことのほか気に入ってくれていまして、時々お客さんの振りをして転移ドアをこそっとくぐって本店に買い出しに来たりしているんですよね。
で、今日もそんな感じで、緑一色だった丘一帯が、魔道船が近づくにつれて一斉にピンク色に染まっていったわけです。
「うわぁ……すごく綺麗ですねぇ」
リョータが、その光景を見つめながら目を丸くしています。
パラナミオ達も、笑顔でその光景を見つめていました。
ブロロッサムの木の丘を過ぎると、ほどなくして魔道船コンビニおもてなし丸はナカンコンベへと到着しました。
今日の試験運航のことは、ナカンコンベ役場にも申請済みですので、衛兵達に咎められたりすることもないはずです。
魔道船コンビニおもてなし丸が街の上空を舞っていると、眼下の街中の人々がコンビニおもてなし丸を指で指し示しながら見上げているのがわかります。
その数はどんどん増えています。
そんな街中の人達は、5号店に向かって進んでいく魔道船を追いかけるようにしながら眼下の街道を移動しています。
で、5号店に到着するころには、その数はかなりのものになっていました。
魔道船を降りた僕は、スアとパラナミオ達を店内で少しまたせまして、その間に店の前へと出て行きました。
「お騒がせして申し訳ありません。今日は魔道船コンビニおもてなし丸の試験運転をしているんですよ」
僕が笑顔でそう言うと、街の人々は
「ほう、となるとその魔道船とやらで空を飛んであちこちに行けるようになるというのか?」
「そりゃすごい!」
街の人達は口々に感嘆の声をあげながら、5号店の乗降タワーに接岸している魔道船コンビニおもてなし丸を見上げていました。
近日中にこのナカンコンベに魔道船コンビニおもてなし丸が就航されることと、乗船チケットを近日中に販売開始することを皆に告げると、ようやく魔道船を追いかけてきていた人々も散り散りになっていきました。
とはいえ、物珍しい魔道船だけに、結構な数の人達が残ったままでして、店の周囲から魔道船コンビニおもてなし丸を物珍しそうに見上げ続けていました。
そんな皆さんの眼前で、空中に浮かんだ状態で停泊している魔道船コンビニおもてなし丸は、赤茶色をベースにしたいわゆるコンビニおもてなしカラーで塗装されていまして、その帆にはでっかく
「コンビニおもてなし」
って書かれています。
これ以上ない宣伝ってわけです、はい。
そんなコンビニおもてなし丸を5号店に残して、僕達は街中へと繰り出していきました。