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13話

6月になった。丁度月曜日だ。
昨日、ライラ陛下から届いたメッセージに、報酬の振り込みが完了したということも書かれていた。
リックからは、今日届ける時にいただく手はずになっている。

「ママーおわった?」
「うん、これで終わりだよ」

午後のおやつの準備とジャムの熱処理が終わったところで、ニコがトコトコと歩いてくる。
この2週間で、大分言葉を覚えてきた。長い会話はまだ難しいが、二言三言交わすぐらいなら問題なくできる。

「じゃあお出かけするよ。どの服がいい?」
「おきがえ!なににしよう」

階段を駆けていくニコを、見守りながら追いかける。
短い会話が出来るようになると、意思の疎通も図りやすくて助かる。

「ママー」
「ん-?どれがいいか決まった?」

ニコが手に取っていたのは、青地に小さな花が全体的に描かれたワンピースだ。
希望通りそれと、薄手のカーディガンを着せる。
そして日除けの帽子を被せて、自分も軽く整えて、準備完了した。

「今日はまた、初めてのところにお出かけするからね」
「はじめて?」
「そ。大事な大事な用事があるの」

数日前、ハロルドと話をした。
名前も定着したし、会話も可能になった。初対面の人にはまだ少し警戒するがココロがいれば問題ないし、何度か顔を合わせた人になら平気になってきた。
そろそろ、導き手のおじいさんに会わせてもいいんじゃないかという事で、タイミングを合わせて行くことになった。
ちなみに、ニコがこの世界に来てから3週間弱経っているが、その間やってくる人はいなかった。ニコの対応がまだ終わっていないと世界が判断したのだろうと、ハロルドは菅賀れているらしい。
それでも特にあわてる必要も無いというが、タイミングも良かったので、今日行くことにした。

「それじゃあ、行こうか」
「はーい」

クッキーの引く馬車に揺られて、街まで行く。
リックの家まで行くと、表のドアが開いた状態になっていた。月初めで丁度いいから、今日オープンすると言っていた。
時間的に開けたばかりだろうか。開放的な窓(オープン前はカーテンで仲は見えなかった)からは、チラホラと人が見える。

「帰り、まだ空いてたら寄っていこうか。開店祝いに」

裏口から回って、厨房に顔を出す。今日オープンすると話を聞いたときに、店を開けている間に用事がある場合は、ここに来てくれと言われていた。

「リック君」
「あ、ココロさん」
「お邪魔してます。今大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ちょうど注文が途切れたところです。ニコちゃん、こんにちわ」
「…こんにちわ」

リックに声をかけられて、まだ恥ずかしいのか、ココロの足に隠れながら挨拶を返す。
挨拶を返せたことを褒めるように頭をなでると、嬉しそうに笑顔になった。

「はい、じゃあ今週のジャムです」
「あ、ありがとうございます」

チリン

ジャムを渡したところで、お客さんがやってきたのか、ベルの音が鳴る。
これ以上引き留めてはいけないと、またあとで寄ることを伝えて厨房を後にした。

「えっと…ハロルドはまだかな」

導き手のおじいさんの所に行くには、ハロルドの案内が必要になる。
場所は中央のライラ陛下のいるオフィスなのは分かっているが、そこに通じる扉は一人ではとおれない。というより、開けられない。
たとえ開けられたとしても、その先をどう行けばいいのか分からないから、意味がないのだが。

ひとまず、来るまで待とうと思ったときに、タイミングよくハロルドがやってきた。

「あれ、早いね」
「少しだけね。リック君の邪魔にならないようにって思って来たから」
「あぁ、今日からだっけ」

一度、厨房の扉から中をのぞく。声をかけるかと思ったが、忙しくしていたのか、何も言わずに戻ってきた。

「邪魔しちゃいけないな」
「そうだね。オープンするの、楽しみにしてたから」
「…ん?」

ハロルドが何かに気が付いて、視線を下げる。
いつの間にか、ニコがハロルドに近寄って服をクイッと引っ張っていた。

「…こ、こんにちわ」

そう、小さな声で告げたと思うと、ぴゃーっという感じにココロの所へ戻ってきた。
その様子に、2人で顔を見合わせ、笑みをこぼす。

「こんにちわ、ニコちゃん」
「!!」

そっと、顔だけ出して反応を見ていたニコは、返事を返してもらえて、パァッと顔を綻ばせる。
ニコが、ココロ以外で自分から声をかけたのは今回が初めてだ。その成長が嬉しくて、思わずニコを抱きしめる。

「さぁ、そろそろ行かないとだよ、お2人さん」
「あ、はい」

ついついニコとじゃれあっていると、苦笑をこぼしたハロルドにそう告げられた。
ニコと手をつなぎ、扉を開けて待っていたハロルドの後に続いて、本日の目的地に向かった。


「あ、今日は直接渡しにいくんだっけ?」
「あ、そうそう。今日ここに来ること伝えたら、せっかくだから話がしたいって」

今日はまだ、ライラ陛下にジャムは送っていない。せっかく来るのなら、お茶に付き合って欲しいそうだ。
おそらくだがそれは建前で、ハロルドからニコの話を聞いているのだと思う。

「けど、先に曾爺さんのところかな」

そう言って、ハロルドは曾お爺さんのいるところへ向かう。
ココロは一度来たことがあるが、もう道順は覚えていない。ゆっくり歩くハロルドの後を、ニコの手を引いて追いかけた。


ハロルドが扉を開ける。
薄暗い部屋の中、その人は以前と変わらない様子で中にいた。
その様子に、ニコは驚いてココロにしがみつく。

「一緒に行ってあげて」
「いいの?」
「その方が、どっちも安心できるでしょ」

それは確かに。怖がる必要は無いと分かってるのはココロだけで、ニコは何をされるのかと怖がっている。
それなら一緒にいてあげたほうが、ニコも安心出来るだろう。
「おいで」と腕を広げればすぐにその中に納まってきたニコを抱き上げて、一脚の置かれている椅子に、そのまま座った。

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