第7話(4)五色合身! フュージョントゥヴィクトリー!
「FtoVや! ホンマモンのFtoVや!」
隼子が興奮気味に叫ぶ。
「「誰?」」
大洋と閃が不思議そうに振り返る。
「いや、なんでFtoV知らんねん!」
「記憶喪失なもんで……」
「幼少から研究一筋だったもんで……」
「大洋はともかくとして、オーセンは知らんとマズいやろ! ウチらが子供のころから第一線で活躍しているロボットやぞ!」
「子供のころからって言うのは、妙に引っかかるからやめてくれる?」
巨大ロボの方から落ち着いた女性の声が聞こえてきた。その声に対し隼子は取り乱す。
「そ、その声は、FtoVの左脚担当、火東聖(かとうせい)さん! ウチ、子供のころから……」
「だから、その子供のころから~って言うのをやめてよ!」
「火東さん、怒るとお肌に悪いわよ~」
もう一人の女性の声にも隼子は敏感に反応する。
「FtoVの右脚担当、殿水仁美(とのみずひとみ)さん! チームのエース格!」
「良いこと言うわね。見所あるわ、あの娘」
「……殿水がエースならアタシは何なのよ?」
「えっと……スター格ですかねえ?」
火東の唐突な問いに隼子は戸惑いながら答える。
「スター……まあ、悪くはないわね」
「そんなんで喜ぶなんて流石に単純過ぎない?」
「アンタに言われたくないわよ」
「おい、下半身コンビ! くっちゃべってねえで、さっさと脚を動かせ!」
男のダミ声が周囲に響き渡った。火東と殿水が即座に言い返す。
「ちょっと、言い方!」
「セクハラで訴えるよ!」
「うるせえ! 給料分はしっかり働け!」
「そもそも給料の配分がおかしいのよ!」
「出るとこ出るわよ!」
「あ~あ~なんでも良いから、脚部ブースター噴かせ!」
ダミ声の男がウンザリした様子で命じる。
「ちっ……」
「今に見ていろ……」
頭部と首回りの部分は赤色、右腕と右半身が青色、左腕と左半身が黄色、右脚が桃色、左脚が緑色という、やや、いや、かなり奇天烈なカラーリングの『FtoV』と呼ばれたロボットが急加速し、巨大ロブスターへと迫る。回線をオープンにしているのか、大洋たちにもそのやりとりが聴こえてきた。
「よし! ミサイル発射だ、木片!」
「ZZZ……」
「馬鹿野郎! こんなときに寝るな!」
「! ミ、ミサイル発射!」
FtoVは左腕からミサイルを数発、発射した。ミサイルは全て巨大ロブスターに的確に命中した。巨大ロブスターはFtoVに狙いを定める。
「和(かず)さん、砲撃で奴の眼を潰す、許可を求める」
男の冷静な声が聞こえてくる。和さんと呼ばれたダミ声の男が答える。
「よし、任せるぞ! 土友!」
FtoVが今度は右腕に付いた砲口から二発砲撃する。これが巨大ロブスターの両眼部分を正確に射抜いた。
「メインカメラを潰されて混乱しているはず。仕掛けるならば今だ……」
「上出来だ!」
ダミ声の男が快哉を叫ぶ。
「5人で別々に操縦しているのか?」
戦況を見つめながら大洋が疑問を口にした。何故か隼子が誇らしげに答える。
「せや! 『五色合身! フュージョントゥヴィクトリー』、通称FtoVのお馴染みの戦闘スタイルや!」
「一見、てんでバラバラのようだけど、不思議と息が合っているね~」
「それは歴戦の強者、『ザ・トルーパーズ』だからこそ出来る芸当やろうな~」
閃の感想に何故か隼子が胸を張る。
「『ザ・トルーパーズ』?」
首を傾げる大洋に対し、隼子はパネルを操作して、5人の男女の顔画像をモニターに表示させ、大洋に問いかける。
「これが老若男女に人気の5人組パイロット『ザ・トルーパーズ』や! どうや? アンタにもなんか見覚えないか?」
「う~ん」
尚も首を傾げる大洋を見て、隼子が説明を始める。
「まず、左脚部分を担当するのは、ショートボブが特徴的な火東聖さん。長年に渡って、グリーンフットの艦長を務めている」
「グリーンフット?」
「あの緑の潜水艦のことや」
「ああ……」
「それで、右脚部分、戦艦ピンクフットの艦長を務めているのが、ロングヘアーが特徴的な殿水仁美さん。約7年前に前任者から引き継いで現職に就いている。この二人のコンビ、通称『下半身コンビ』の繰り出す見事な推進移動がFtoVの機動性を大いに高めているんや」
モニターには続いて、大柄ではあるが、太り気味な男性の姿と、眼鏡を掛けた細身の男性の姿が映し出された。
「この大柄な方が、大型トレーラーイエローアームのドライバーを務めてはる木片義一(このかたぎいち)さん。やや間の抜けた行動をとるのが玉に瑕やが、ムード―メーカーとしては必要不可欠な御方! そして、戦車ブルーアームに搭乗しているのが、土友孝智(つちともこうち)さん。常に冷静沈着でチームの中で参謀の様な役割も果たしている!」
最後にモニターにさほど大柄ではないが、ガッシリとした体格の男性が映し出された。
「この御方が『ザ・トルーパーズ』のリーダーにして、戦闘機レッドブレインのパイロット並びに、FtoVのメインパイロットである小金谷和久(こがねやかずひさ)さんや!」
「そ、そうか、いや、なんというか……」
「わりと5人の平均年齢高めだね~?」
閃の発言に隼子は少し慌てる。
「な、何を言うてるんや、さっきも言うたやろ、うちらが子供の頃から第一線に立って。活躍されてきはったんや、そりゃあ年季も違うってもんやわ」
「第1世代のエッセンスを残しつつ、第2世代の技術をふんだんに盛り込んだ、実に興味深い機体ではあるね」
「せやろ⁉」
「見ろ、戦況が動くぞ!」
大洋の言葉通り、巨大ロブスターは海面をのたうち回るかのように動いていたが、やがて落ち着きを取り戻し始めたかのように見えた。小金谷が叫ぶ。
「とどめをさすぞ!」
FtoVが背中から巨大な剣を取り出した。
「奴の装甲は固い! それを破るにはこの剣が必要だ! 5人の意志を一つにしなければ、このビッグソードの力も十二分には引き出すことは出来ない! 分かっているな!」
「だからそれは何回も聞いたっての……」
「火東!」
「あ、はい!」
「ギャラを上げてくれれば意志でもなんでも合わせるっつうの……」
「殿水!」
「はいはい!」
「ZZZ……」
「だから寝るな! 木片!」
「! は、はい!」
「美味しいところは自分で持って行って、ギャラも一人だけ大目に貰うと……」
「土友! 余計なことは言わんで宜しい!」
「はい!」
「……では行くぞ! 喰らえ! 『ビクトリービッグソード‼』」
FtoVが大剣を勢い良く振り下ろすと巨大ロブスターは成す術もなく、胴体を切断され、二手に分かれて爆発した。その様子を見下ろしながら、小金谷が勢いよく叫ぶ。
「悪は俺たちFtoVが倒した……平和へむけたビクトリーロード、またも一歩前進! 次回もまた一所懸命頑張ります! ごきげんよう!」
「出た! 決め台詞!」
隼子は興奮気味にモニター越しに拍手を送る。閃はやや呆れ気味に大洋の方を見ると、大洋が何やら深刻な表情を浮かべていた。
「大洋……?」
「……ああいう決め台詞、俺らも欲しいな」
全然深刻ではない言葉に閃はガクッと俯いた。