第97話 未知の脅威
「ここからが深層のさらに奥、未踏の領域となります。とはいえ、数日分は僕とミーアで事前調査として魔獣の確認は行いました。ここから先しばらくの間ではグラントータスとアースドラゴンが脅威のメインです。この2種に関しましては少々時間がかかりますが討伐可能です。ただし、討伐中に別の魔獣が乱入してきますと危険度が上がります。そういうことの無いよう僕たちが魔獣と対している間はお静かに願います。師匠はその間、調査団の直掩をしてください。そしてその先はまだどのような魔獣がいるのかさえ不明な領域になります。魔獣に対抗する手法さえ手探りでの先行きです。そして調査団の方々は植生など様々な調査をされると思いますが、ルートと異なる場所に行きたい場合は黙って行かずに必ず僕かミーアを護衛に連れて行ってください。場合によっては本隊の進行を調整していただく必要があるかもしれません。みなさんの安全と確実な調査のためこれは確実に守ってください。いいですね」
珍しく長くしゃべった僕は少々気疲れをしたけれど、それでも周囲の警戒を怠るわけにはいかない。探知を最大で展開しつつ先導する。
「すみません、あそこの木を調べたいので護衛お願いします」
「はい、いいですよ」
「むう、ここの湧き水は変わった魔力を感じる。採取して持ち帰りたい。フェイ殿お願いします」
「樽で良いですか」
「いえ、大きめのガラス瓶でお願いします」
なんとか安全に先導していたのだけれど、アクシデントはむこうからやってくるもので
「む、魔獣の反応が。速いな、通常の魔獣の動きじゃない。何かに追われているのか。調査を一時中断して集まってください。何かが急速に近づいてきています。ミーア前に出るよ。師匠は直掩を」
「あい」
ミーアの可愛らしい返事。森の中では集中するからか少し以前に近い表情になる。
「もちろんだ。直掩は任せろ」
師匠も頼もしい。
「こちらに気付いているわけではないようです。移動先も少しずれていますので、大人しくしていれば……」
そこまで僕が口にしたところで後続が探知に入った。やはり追われているようだ。
「少しルートを右にずらします。魔獣の移動してくるルートから少しでもはなれますよ」
調査団を出来る限り安全な場所に誘導するのも僕の役目だ。逃げている方の魔獣のルートがズレ始めた。よりによってこちらに近づいてきている。このままだと200メルドも離れていないところを通りそうだ。ミーアも気付いたようだ。少し表情が曇った。高速で移動している上位魔獣はその巨体故に厄介だ。できれば遭遇したくない。幸いにして逃げている魔獣はこちらに来る気配はない。そのまま追跡側も一緒に行ってくれると良いのだけれど。それでも状況を確認しないわけにはいかないので、僕とミーアは、魔獣の移動ルートを監視できる位置に移動した。驚いたことに逃げているのはアースドラゴンだった。
「アースドラゴンが逃げ出す相手って……」
ミーアも嫌な予感がするようだ。探知の中で追跡側の魔獣のルートが微妙に変わった。
「ミーア」
僕が声を掛けるとミーアも頷いて、最速で調査団に戻った。
「追跡していた魔獣がこちらに進路を変えました。逃亡していたのはアースドラゴンでしたのでそれ以上の魔獣と思われます。最悪の場合、僕とミーアが迎え撃っている間に退避してもらうことになります。その場合進路は東へ、先導は師匠、お願いしますね」
探知で見ているとかなり接近してきている。この勢いだと森の中で弓を使っている余裕はない。僕とミーアはアイコンタクトを交わしそれぞれの剣を手に立ち上がった。
「見つかったみたいだね」
「ええ、そのようね」
「背中は任せた」
「もちろん。最後まで一緒よ」
「師匠。僕とミーアが出たらタイミングを見て退避を」
「わかった、死ぬなよ」