第73話 派閥
「まあ、そんな感じで。おそらく聖国とあまり変わらないだろう」
グラハム伯の言葉に僕もミューも頷く。
「あと気を付けるのは派閥だな」
「派閥ですか」
僕は自分の眉が寄るのを感じた。
「まあ、そう毛嫌いするな。人が集まれば、どうしたって派閥はできるものだ。それが健全な競争をしている間は悪いものでは無いぞ。それに帝国の危機には力を合わせることはできているしな」
「そう、ですか」
僕が気に入る気に入らないは、ともかくとして、現実に派閥というものは存在している以上否定をしても始まらない。
「帝国の派閥は、大まかに言って3つある。ひとつは皇帝陛下を中心とする皇室派だ。そしてふたつめは、主に大貴族を中心とした貴族派。そして最後のひとつが商人を中心とした市井派だな。だが市井派については、あまり考えなくていい。彼らは基本的に利によって動くだけで利を与えておきさえすれば敵対することはない」
そうしてグラハム伯は帝国内の派閥についての基本的な知識を教えてくれた。皇室派は、皇帝による施政を最重要とし他の介在を嫌う。対して貴族派は、元老院という上級貴族による施政機関を至高として皇帝に対し影響力を行使するとのこと。
「ところでグラハム伯は、どこの派閥に所属しているのですか」
「ふふ、俺は独立に近い皇室派だ」
「独立に近いですか」
「まあ、独立に近い立場を確立できたのは、お前たちのおかげでもあるがな。元々俺は辺境伯という立場上、皇帝陛下とは対等に近い付き合いをしてきたのだがな、そこにお前達が俺を後ろ盾として活動をしてくれたおかげで立場を大幅に強化出来た。」
「僕たちの活動がですか」
「そりゃそうだ。お前たちに唯一直接活動を依頼できるんだからな。たった2人で上位魔獣のスタンピードを止め、上位魔獣の転じたアンデッドを討伐できる。そんな戦力を手元に置いていると見られているし、実際にお前たちは帝国各所で実績を積んできている。お前たちの存在は、お前達自身が考えるより大きなものになっているということだ。まあお前達にとっては不本意な部分もあるだろうがな」
「いえ、もともと武力以外の力により故郷を追われた僕たちですから、そういった力をつけることが出来てきていると考えれば、あながち全てを否定できるものでは無いです」
「ま、独立に近いとは言え皇室派だからな、皇室派とは割と良い関係を保っている。そして、悪いがお前たちは必然的に皇室派というか、俺とセットとして考えられている。そこは容認してくれ」
「はあ、まあ帝国内の派閥でと言われればグラハム伯につくのは当然ですのでそこは構いません」
「という事で、注意すべきは貴族派な訳だが、現状すぐに何かちょっかいを出してくることは無いと考えている。何しろお前たちと敵対するということは魔獣との脅威への対抗する強力な手段をひとつ放棄することになるわけだからな。まあ、あって細かい嫌がらせくらいだろう。揚げ足をとってお前たちの立場を相対的に下げようとしてくるのはありうるので、そこは注意していてくれ。とは言え、罠を全部踏み抜くくらいの失態でなければ俺がなんとかしてやるから、そこまで重く考えなくていい」
「分かりました。その時は申し訳ありませんが、お願いします」