第4話~この娘は野生児……!?~
太陽が上り始めた頃に俺は目を覚ました。上体を起き上がらせて胡坐をかいて座りながら大あくびをする。そしてガクリと首を下に傾けながらあくびで出てきた涙を拭う。もう慣れているとはいえ3ワー程度の睡眠ではやはり足りない。しばらくこうして座っていたい、なんなら二度寝したいところだがさっさとルーゲを出た方がいい。だらけていると際限なく時間が過ぎてしまう。
よし出ようと思った辺りで寝起きで少しボヤけていた視界が戻り始めた。隣で眠っている少女の姿が目に入る。左半身を下にして横向きで上体を丸めながら眠っている。静かに寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている。あどけない彼女の寝顔はかわいらしく、とりあえず今は安心して眠ってくれているようだ。
すぐ出発するわけではないため、とりあえず彼女は眠らせたままでルーゲを出ることにした。
「おはようございます!」
「お、おはようございます」
「おはよう……ミリア、顔が赤いが風邪か?」
ルーゲを出ると見張りをしていたアンとミリアが挨拶と共に迎えてくれる。しかしミリアの様子がどこかおかしい。熱でもあるのか顔を真っ赤にしているし、何故かすぐに俺から目を逸らす。急にどうしたのだろうか。俺は気になって彼女に尋ねたが
「な、何でもないです!元気です!」
「アン、ずっとこんな様子だったのか?」
「いえ、私がブレイド殿と――」
「――わぁーっわぁーっ!!ア、アンちゃん!ホントに何でもないから!そ、そう言えば!昨日のあの娘はまだ眠ってるんですか?」
「そうだな。ぐっすり寝てた」
「よほど疲れていたのでしょうね」
「食事もほとんど摂れていなかったようだったしな」
ミリアは叫びながらアンの言葉を遮る。何か俺と関係のある話らしいがよほど聞かれたくないようで、露骨に話を変えて昨日藪から現れた少女について尋ねてきた。さっきの話は気になるところだが、これ以上聞いても絶対に答えてはくれそうにないので俺もそれ以上尋ねるのはやめて、起きた時に視認したありのままを伝えた。
話が途切れたあたりで朝ご飯の準備をすることにした。まずは水が必要になるので水汲みを兼ねて順番に顔を洗いに行くことにする。分担してご飯の準備をしていると、ルーゲの中から音が聞こえてきた。どうやら匂いに釣られて少女が目を覚ましたらしい。
まだ眠そうに目を擦りながらルーゲを出てきた少女。まだ目覚めきっていないようで両腕を前に突き出し、覚束無い足取りで朝ごはんの準備をしている俺たちの方へ歩いてきた。
彼女は鼻をヒクヒクと動かし、匂いを嗅いでいるようだ。相当鼻が利くようで目当ての匂いをかぎ分けると俺の方に一直線に向かってくる。そしてそのまま彼女は俺の胸に身体を預けるようにくっつき、両腕でしがみつくように抱き着いて来る。しかし幼い割には中々力が強い。
「おはよう」
「んみゅ……おは…………よ……」
小さな子に甘えられることは孤児院に居た頃たまにあったので、その頃を思い出しながら少女の頭を撫でながら挨拶してみる。彼女は俺の声に反応してこちらを見上げてくる。まだ眠気眼だったが目は覚めたようで俺の挨拶に返事をする。しかしそれ以上は何も言わずただ俺を見つめるだけ
「ブレイド殿、準備ができましたが……」
「そ、そうか。ご飯の準備ができたみたいだ。ちょっと離れてくれないか?」
アンは俺と少女の様子を見て苦笑いのような気まずいような表情を見せながら準備ができたと俺に報告する。相変わらず離れてくれない少女にご飯ができたと言うとご飯という単語に反応して、鼻をヒクヒクさせて匂いを嗅ぎ始め、確かにご飯があると分かったようでミリアとアンの方向に首だけを向ける。
「ミリア、この子の分を頼む」
「はい!」
鍋の近くにいるミリアに少女の分のご飯の盛り付けを頼む。ミリアは返事をすると少女の分の皿に朝ごはんを盛りつける。味付けは多少変えたが昨日と同じような汁物だ。
ミリアが「はい、どうぞ~」と言って切り株の上に皿と匙を置いて彼女の分のご飯をあげる。ここで少女はやっと俺から離れてくれ、切り株の前に腰を下ろす。ぐっすりと眠ってお腹が空いているのだろう。
「ありがとう、ミリア」
「はい!」
「んみゅ……?みゅっ!」
俺の分も盛りつけて渡してくれたミリアに感謝の言葉を伝える。その時少女がこちらに向かって声を発する。どうやら俺を呼んでいる様子。ご飯が目の前にあるというのに一体どうしたのだろうとそちらを見てみると、彼女は匙を持ち、舌を出しながらこちらを見ている。心なしか涙目になっているように見える。
「これは……」
「匙の使い方が分からない、でしょうか?」
おそらくミリアが言った通りだと思う。匙の使い方が分からず一応持ってみて、そして直接食べてみようと舌を皿に差し入れたが、彼女には熱すぎて舌を軽く火傷してしまったといったところか。
昨日彼女を初めて見た時から文化や風習が違うのだろうとは思っていたが、この言動を見ている限り彼女はおそらく
「野生児か……?」
「やせいじ……ですか?」
「ああ、何らかの要因で人間社会で育たなかった子どもだな」
彼女を親元に帰してやるのは困難を極めるであろうことはよく分かった。