あれこれあれこれ その1
どうにか無事ナカンコンベにコンビニおもてなしを開店するための建物を確保することに成功しました。
今回ドンタコスゥコから買い取った債権には、この建物だけでなく建物内に残されている品物全てが含まれています。
つまり、棚や家具なども全部自由に使えるということです。
とりあえずどれくらいの物が使用出来るかは改めて確認することにして、僕は一度ガタコンベへ戻ることにしました。
「……ちょっと待って、ね」
すると、魔女信用金庫のポリロナとマリライアと何か話をしていたスアが僕の元へ戻ってきまして、何やら詠唱し始めました。
「スア、何してるんだい?」
「……用心のために、一応結界を張っておく、ね」
「あぁ、なるほど。それは助かるよ」
僕がそう言うと、スアは嬉しそうに微笑みながら頷きました。
ほどなくして、結界を張り終えたスアと一緒に、僕はガタコンベへ戻って行きました。
ドンタコスゥコ商会に臨時で設置させてもらった転移ドアは消滅させて、新しく手に入れた建物の中に新たな転移ドアを作成し、コンビニおもてなしの厨房に続く廊下の壁に新しい転移ドアの出口を作成してもらいました。
しかし……店から厨房につながっている廊下の壁もそろそろ一杯ですね。
今回新たに設置したナカンコンベ行きの転移ドアで、壁は扉で一杯になった感じです。
次に転移ドアを作成する際には、どこか別の場所を考えないといけませんね、これは。
コンビニおもてなし本店に戻った僕は、すぐに別の転移ドアをくぐり、おもてなし商会ティーケー海岸店へ向かいました。
残金をファラさんに返金するためです。
僕が転移ドアから姿を見せると、ファラさんは店内を掃除しているところでした。
「あら店長、無事終わりましたか?」
「えぇ、おかげさまで」
僕は、ファラさんに向こうであった出来事を話しながら、残金の入った布袋と契約に使用した書類を手渡していきました。
「……なんとまぁ、そんなことがあったのですね。そうとわかっていれば私も同行してちょっと威嚇してやりましたものを」
「あはは、まぁとりあえずスアのおかげでどうにかなったんで」
ファラさんは『ちょっと威嚇』と言ってますけど、ドラゴンのファラさんですからね、威嚇するとか言いながら、どっかのドラゴンの親娘のように周囲を破壊しまくるような大げんかをふっかけようものなら収拾つかなくなってしまいますからね。なので、同行してもらわなくてよかったと思ってしまうわけです、はい。
「そう言えば……」
僕は、布袋と書類を確認しているファラさんへ声をかけました。
「前から気になってたんだけどさ……ファラさんはこの金貨をどこに保管してるんだい?」
「あぁ、それでしたら……」
ファラさんはそう言うと、右手を前方に差し出して詠唱し始めました。
すると、ファラさんの手の先に魔法陣が展開していき、その中に重厚な扉が出現しました。
で、ファラさんはその扉を押し開けると
「どうぞお入りください。普段人は入れないのですが、まぁ店長さんならいいでしょう……」
そう言いながら、僕をその扉の中へと誘(いざな)いました。
その扉の中は、どうやら洞窟の中につながっているようです。
「ここはティーケー海岸のあるパルマ世界とは異なる世界……異次元の狭間に私が構築した異空間です」
ファラさんによると、この世界にはこの洞窟しか存在していないそうで、ファラさん以外の生き物は一切干渉出来なくなっているんだそうです。
で、その奥に進んでいくと……
「え?」
洞窟の奥には、巨大な空間が広がっていました。
そして、その中には巨大な木箱が理路整然と並べられているのですが、その木箱からのぞいているのはすごい量の金銀財宝なんですよ……
で、その金銀財宝の周囲を、ファラさんが召還しているらしい骨人間(スケルトン)達が忙しそうに動き回りながら掃除を行っているようです。
「ファラさん、こ、これは一体……」
「あぁ、私はですね財宝の番人の龍でもあるんですよ」
「財宝の番人の龍?」
「えぇ、財宝を守ってもらいたい王や貴族、豪商などに召喚呪文によって呼び出されては財宝を預かり、こうして守ってあげているのです」
「じゃあ……いつかは、誰かに返す品物てことなんだ……」
「一応そうなのですが……人間の寿命は短いですからねぇ。その子孫が財宝を私が預かっていることを知らないことも考えられますし、例え知っていたとしても私を呼び出す方法を知らない可能性もありますので」
「え?……じゃ、じゃあこの財宝はどうするんだい?」
「守ります……私にこの宝を預けた者達との契約ですからね。我が命ある限り、ここにある財宝はすべて守ります」
そう言うと、ファラさんは僕へ向かってにっこり微笑みました。
「店長さんのコンビニおもてなしの資産もここでお守りしていますよ。店長さんは現存なさっていますので資産の出し入れも自由ですし、私の暮らしている世界に住まわれていますので召喚呪文も不要です」
ファラさんはそう言うと、歩み寄って来た骨人間(スケルトン)に、僕の金貨の入った布袋を手渡していきました。
骨人間(スケルトン)はそれを手にすると、金銀財宝の詰まっている木箱の方へと歩み寄って行きまして、その中にある木箱の1つの中へそれを入れていきました。
なるほどなぁ。
なんかの本で、龍の中には洞窟の中で財宝を守っているヤツがいるって読んだことがあったけど、ファラさんもそんな龍の1匹……いや、一人だったんだ。
なんでも『守護の龍』の称号をもっているファラさんを呼び出す呪法は7lいろんな世界に流布されているそうで、今でもたまに呼び出されて、金銀財宝を託されることがあるそうです。
その逆で、預かっている金銀財宝を引き出すために呼ばれたことは、今までに2度しかなかったそうです、はい……
◇◇◇
ファラさんからは、
『洞窟のことは他言無用ですからね』
そう念押しされた後、僕は転移ドアをくぐって本店へと戻りました。
まぁ、あそこまでしっかりセキュリティがなされているのであれば安心ってことですね。
しかしあれです。
もし今後、ナカンコンベでの卸売りの件数が増えるようでしたら、ファラさんにもナカンコンベで勤務してもらって、対応してもらった方がいいかもしれません。
ティーケー海岸店は、基本的にアルリズドグ商会のみとの取引ですのでそう難しくありませんから、新しく人を雇ってそっちの対応をしてもらうのもありかな、と。
また、魔道船の乗降タワーを店に作るとなると、乗降するお客さんの荷物チェックをするために衛兵に常駐してもらわないといけないでしょうね。人の出入りをあれだけチェックしているわけですから。この件に関しては、ナカンコンベの衛兵部隊に事情説明とお願いをしにいかないといけないでしょう。
すでに航行中のガタコンベ・ブラコンベ・ララコンベには、すでに元セーテンの部下だった猿人衛兵団を回してもらうよう話が出来ているのでこっちの対応はばっちりです。
さらに、ナカンコンベでオープンするコンビニおもてなし5号店で勤務する人も募集しないといけません。今のままでは確実に人不足ですからね。
乗降タワーの設置をお願いする業者の手配もしなきゃならないし、5号店で扱う品物用に、商品の増産の計画もたてないといけません。
「……うわぁ……こりゃ、やらなきゃならないことが山積みだな」
僕は、あれこれ考えながら思わずそう呟きました。
すると、そんな僕の手を誰かがひっぱりました。
僕がそちらへ視線を向けると、そこにスアがいました。
恐らく、僕が戻ってきたことを察知して迎えに来てくれたのでしょう。
スアは、僕の顔を見上げながら、
「……私も頑張る、よ。一緒に頑張ろう」
そう言い、コクコクと頷きました。
「そうだね……全部僕だけでやろうと思ったら大変だけど、スアも一緒なら心強いよ」
僕は、そう言うとスアの頭を優しく撫でました。
そうですね。
まずは皆を集めて話合いをしてみようと思います。
一人で考え込むよりも、みんなで一緒に考えた方がいい知恵が浮かぶかもしれませんしね。
そう、決意した僕。
そんな僕の横で、スアが静かなんですが……よく見ると、スアは僕の方へ顔を向けたまま目を閉じてジッとしていました。
どうやら、僕にキスのおねだりをしているようです。
僕は、そんなスアを抱き寄せて唇を……
「あ、パパ!お帰りなさい!!」
……寄せかけたところで、僕を見つけたパラナミオが廊下を駆けてきまして、僕に抱きついてきました。
スアは、そんなパラナミオを横目で見ながら少し残念そうな表情を浮かべていましたけど、相手がパラナミオなもんですからすぐに笑顔になっていました。
よく見ると、廊下の向こうからはリョータやアルト、ムツキまでもが駆けてきています。
今日のところは、家族のみんなの対応をしないといけないようですね、こりゃ。