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第4話(4)VS卓越

 特設会場で大洋たちと増子たちが向かい合う。

「ふん、逃げずによく来たとね!」

「別に逃げも隠れもしませんが……それよりも……」

大洋がジッと増子たちの姿を見つめる。

「なんね? 何かウチの顔に付いているとね?」

「いえ……どこかサイクリングでも行かれるのかなと思って……」

大洋が言ったように、増子たちは自転車競技の選手が着るようなユニフォームをその身に纏っていた。

「これがウチらの戦闘服たい! なんか文句あると?」

「そうですか……こう言ってはなんですが、少し珍妙ですね」

「フンドシ一丁のアンタが言うな!」

 隼子の声に曽我部がホッとしたように胸を撫で下ろす。

「あ~良かった。ひょっとして俺だけ見えてない服を着てんのかな~って思ってたから、内心マジで焦ったわ~」

「おかしいと思ったことはドンドン声に出して言うて良いんですよ⁉」

 審判員が怪訝な表情で尋ねる。

「えっと……二辺工業の疾風選手、本当にそのままの格好で戦うんですか?」

「提出した光のデータのコックピット関係の欄をご確認下さい。パイロットの安全性については十二分に保障されています。この大会は安全性や耐久性等に問題が無ければ、服装については不問なはずです」

 大洋の冷静な説明を受け、審判は改めてデータを確認する。

「ふむ……確かにこれなら問題ありませんね」

「納得してもうた!」

「……それでは両チーム正々堂々と、フェアプレー精神を持って試合に臨んで下さい」

「はい!」

 審判の言葉に隼子以外の三人は力強く頷いた。

「それでは、礼!」

「「お願いします!」」

「お願いします……」

 大洋と隼子は陣営に戻り、それぞれ機体に乗り込んだ。閃が声を掛ける。

「じゃあ、手筈通りに……バトルフィールドは思った以上に広くはないし、相手のスピードもあるから、こちらの想定以上に早く接敵することになると思うよ~」

「了解した」

「了解」

「そろそろ時間だね、それじゃあ、健闘を祈るよ~」

 閃が通信を切り、大洋たちは指定されたバトルフィールドへ向かって機体を移動させた。隼子が大洋に声を掛ける。

「大洋、一応やけど最終確認や。モニター上に表示されている地図の一部分が赤い線で四角に囲まれているな?」

「ああ、このラインの中でのみ戦闘を行うんだろう?」

「そうや、一度中に入ったら、外に出た時点で負けになる。後は……」

「どちらかの機体を戦闘不能状態にする、もしくはどちらかが降伏を宣言したら決着……だったな?」

「そうや。状況によってはレフェリーストップがかかる場合もあるけどな」

「だが、いわゆる反則行為というのは基本的には存在せず、なんでもありって訳だろ?」

「なんでもあり、って言うのはちょっと言い過ぎかもしれんけど……まあ、大体そうやな。大会運営に申請許可を得ていない武装を使用した場合や、人道的にもとる行為をとった場合などは反則行為に該当するけどな」

「その点は大丈夫だ、俺は曲がったことが大嫌いだからな」

「ふふっ、……さあ、ラインを越えるで、試合開始や!」

 光と石火、両機がバトルフィールドに入った。ほどなくして閃の言葉通り、大洋たちは相手チームの機体、卓越を視認する。隼子が冷静に分析する。

「全長18m、こちらよりやや大きい。予選と同様に重火器の類は装備していない模様……完全に近接戦闘に特化した機体やな」

「さて、どうやって攻めてくるか……?」

 大洋が呟いたと同時に卓越が背部のバーニアを噴出させて一気に加速し、大洋たちに向かって突っ込んできた。

「小細工無しに正面から来るか! 隼子!」

「分かっとる!」

 隼子は石火を上昇させて、空中から卓越を狙い撃った。ちなみにビームキャノンは模擬戦用の砲弾へと換装してある。卓越は素早い反応を見せ、石火の放った数発の砲弾を難なく躱してみせた。

「はははっ、狙いが甘いとよ! 卓越のスピードではそんなヒョロヒョロ弾になんぞ当たらんたい!」

 回線をオープンにしているのか、増子の声が大洋たちにも聞こえてきた。隼子はニヤりと笑って答えた。

「いいや、狙い通りやで?」

「何⁉」

「ヤバい! 増子さん、誘い込まれた!」

 サブパイロットの曽我部が叫ぶ。卓越が砲撃を躱したその先には名刀光宗(仮)を構える光の姿があった。

「もらった……!」

「曽我部君!」

「分かってます!」

「何⁉」

 光は刀を横に薙いだが、卓越はしゃがみ込んでその攻撃を躱した。そして、機体の体勢を戻すと同時に、拳を数発叩き込んだ。

「ぐおっ!」

 大洋はややたじろいだものの、すぐさま反撃を試みて、光のヘッドバルカンを発射させた。しかし、既に卓越はその射程圏外に退いていた。

「想定以上の反応スピードだ!」

 再び、卓越が光に向かって突っ込んできた。隼子が再び空中から砲撃を加える。辺りに土煙がもくもくと立ち上る。

「大洋、左に10時の方向や!」

「よし、今度こそ……!」

 だが、そこには卓越の姿は無かった。

「居ない⁉」

「二度も同じ手は食わんたい!」

 光の背後へと回り込んだ卓越が右脚で思い切り蹴りつける。背中を蹴られた形となった光は堪らずうつ伏せに倒れ込んだ。

「くっ……土煙で視界が遮られることを利用して、一瞬の内に背後を取ったのか……!」

「す、すまん大洋! 余計なことをしてもうた!」

「いや、構わん隼子! 次も奴が突っ込んできたら砲撃を頼む!」

「ええっ⁉」

「但し……!」

 卓越が三度光に突っ込む。石火が砲撃を放つ。増子が鼻で笑う。

「ふん! だから同じ手は……⁉」

 増子は驚いた。石火は光の周囲を砲撃したのだ。土煙が派手に立ち上る。

「増子さん、視界が! 奴が見えねえ!」

 曽我部が叫んだと同時に、卓越の左前方から光が刀を斬り付けた。

「曽我部君!」

「ちぃ!」

 曽我部が操作して、卓越は咄嗟に機体を後退させた。左腕部に直撃を喰らったものの、致命的なダメージはなんとか回避した。それでも左腕部は機能を失い、ダラっと垂れ下がった状態になった。

「くそっ! 胴体を狙ったが外した!」

 悔しがる大洋に隼子が声を掛ける。

「せやけど、模擬戦用の刀とはいえ、想定以上のダメージを与えられた! 機動性を重視して、装甲は薄くなっているんや! 次の一撃で決められるはずや!」

 左腕部を抑えながら立つ卓越。曽我部がオープンになっていた回線を切って、増子に語りかける。

「左腕は完全にダメか……どうします? 増子さん?」

「……曽我部君、あれで行くたい」

「ええっ⁉ あれは極力温存するって⁉」

「こげな所で負けてられんたい!」

 卓越が動きを見せる。大洋は光を身構えさせる。

「来るか!」

 卓越は四つん這いの姿勢を取った。大洋が戸惑う。

「……何だ⁉」

 卓越が両腕と両脚をそれぞれ重ねると、合わさった腕と脚が車輪へと変形した。増子が笑いながら叫ぶ。

「はははっ! こいが卓越のもう一つの形、『二輪車モード』たい!」

「いや、何で回線オープンにしちゃうんですか!」

「『二輪車モード』だと⁉」

「これを見るとね!」

「いや、映像まで繋いじゃったよ⁉」

 大洋たちのモニターに自転車の様な形状になったシートに座る増子と曽我部の姿が映し出された。

「そ、それは……⁉」

「このモードになることによって、卓越の速さは更に一段階上がる。『極東の快速列車』と呼ばれたスピード、とくと味わうたい!」

 そう言って、増子は物凄いスピードでシートペダルを漕ぎ始めた。その凄まじい回転速度に大洋が目を見張る。そして、卓越は一瞬で光の正面に迫った。

「しまっ……!」

 卓越は上半身を上げる。バイクで言うウィリー走法の様な形となった。そのまま車輪を光にぶつける。光は後方に吹っ飛んだ。

「どわっ!」

「ははっ! 良い恰好たい、もう一度行くとね!」

 増子は先程よりもペダルの回転速度を上げる。

「地元の急坂、釈迦岳をママチャリで登って鍛え上げたこの脚! 止められるもんなら止めてみんしゃい!」

卓越は再びウィリー走法で光に襲い掛かる。

「くっ……⁉」

「⁉ な、なんね⁉」

 卓越が大きくよろめいた。石火の砲撃が胴体に命中したのである。

「確かにスピードは上がったかもしれんけど、肝心の動きが直線的でかえって読みやすくなったで!」

「お、おのれ!」

「隼子、ナイスだ! 喰らえ、両輪斬り!」

 光が卓越の前輪を斬り付け、返す刀で後輪も斬り付けた。両輪、つまり両腕と両脚を破壊された形となった卓越は地面に叩き付けられた。審判が即座に判定を下す。

「卓越、戦闘継続不能と判断! よって、勝者、二辺工業!」

「やったで!」

 喜ぶ隼子の声を聞きながら、大洋は静かにガッツポーズを取った。



 戦いが終わり、撤収作業を行う大洋たちの下へママチャリに乗った増子がやってきた。

「いや~負けた負けた、完敗たい!」

「お疲れさまでした」

 大洋が一礼する。

「気持ちよか試合が出来たと! 思い残すことはなか……」

「え?」

「会社との契約はロボチャンが終わるまでだったたい。つまり今日敗退した時点で終了……おばちゃんは普通のおばちゃんに戻るたい……」

「増子さん……」

「それじゃあ、健闘を祈るたい」

 去っていこうとする増子を自転車に乗った曽我部が呼び止めた。

「待って下さい! 増子さん! 俺……まだまだ増子さんに教わりたいことが山ほどあるっす! だからお願いです! 辞めないで下さい!」

「曽我部君……ふっ、よ~し、それじゃあ、あの夕日に向かってダッシュたい!」

「はい!」

 増子たちは猛然と去っていった。大洋はその姿に拍手を送る。

「感動させられた! なんて美しい師弟愛なんだ!」

「師弟なんか……? ってか感動するポイントあったか? まあ、ええけど……」

「ぶっちゃけ、『二輪モード』にならない方が厄介だったよね~隙が大き過ぎるよ~」

「オーセン、それは言ってやるなや……」

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