バルロスとクルテル{済}
獣たちは牙をむきだし大きな口を開け、要と涼香めがけ一斉に飛びかかった。
「イヤァーーー‼︎」
「クソォッーー⁉︎」
要は涼香をかばいながら左手から炎を放とうとしたその時、どこからともなく、
《バルデフラム‼︎》
そう呪文らしき言葉が聞こえたと思った瞬間、無数の炎が弾丸のごとく獣たちに降りそそいだ。
獣たちはその攻撃をうけ、
「ガ、ガオォォォー‼︎」
と雄叫びをあげ、獣たちはバタバタと倒れていった。
それをみた要と涼香は、呪文らしき言葉が聞こえた方に顔をむける。
そこには小さめの紫のトンガリ帽子に、いかにも魔法使い風の紫の服をきた小柄で糸目の男性が立っていた。
その魔法使い風の男は2人の側にくると、じーっと涼香をみた。
「あらあら。かわいそうに」
その魔法使い風の男は、自分が持っていたフード付きの紫の服を涼香にわたした。
涼香はその服を受けとる。
「あのぉ。これって?」
「そのままの格好じゃまともに外を歩けないだろうから。それを着るといい」
「あ、ありがとうございます」
涼香はお礼を言うと岩陰にかくれ着替えはじめた。
「えっと。助けてくれてありがとうございます。でも、なんで涼香をみても驚かなかったんですか?」
「んーそうだなぁ。なんでだろうね。ククク……」
そう言うと魔法使い風の男は軽く笑った。
涼香はもらった服に着替え戻ってくると、
“涼香。その男と話がしたい。少しの間、代わってくれぬか?”
(知ってる人なの?)
“ああ。少しばかりな”
(うん。いいよ)
そう心の中で言うと涼香の雰囲気が一変した。
「涼香……。じゃ、ねぇよな」
「ああ。すまぬが。その男に用があり代わってもらった」
「んー……。これはこれはバルロス様。ククク……。いえ、失礼しました」
「クルテル。相変わらずのようだな。それで、まさかとは思うが。お前、この前の一件みていたわけではないだろうな?」
「さあ。ククク。どうでしょう」
「お前、分かっていたなら。何故、今ごろ現れたのだ」
「バルロス様。いえね。流石に。ククク……。あの光景をみて。ククク。笑いがとまらなくなってしまい。やっと落ちついて追いかけてきてはみたのですが」
クルテルは自分の口を塞ぎ笑いを堪えている。
「クククククク。今も笑いを堪えるのがやっとなのですよ」
「クルテル‼︎いい加減にしないと、どうなるか分かっているのだろうな」
「ふぅ〜。申し訳ございません。しかし……。はぁ。なんとか堪えてみます」
「それで、なんの用があって我に会いにきた?」
バルロスがそう問いかけるとクルテルは笑いを堪えながら、
「あっ!そうでした。こんなことをしている場合では……」
クルテルは深呼吸をすると気持ちを落ちつかせた。
「バルロス様。一大事でございます。龍の里がブレグラン国の兵たちに攻め入られました」
「クルテル⁉︎まさか、あり得ん!防ぎきれなかったというのか?」
「はい。それが何者かが、龍の里の龍が住む山里に結界を貼り、龍たちを封印してしまったらしいのです」
一呼吸おきクルテルは再び話しはじめる。
「そのため我々種族のみが残ってしまい。どうすることも出来ず……」
「ふむ。それは困ったことになったな。我は少し人間をみくびっていたかもしれん。そうなると、このまま龍の里にいくのは危険という事になるが」
バルロスはクルテルにそう聞かされ考えこんだ。
ふと要は、バルロスとクルテルの話を聞いていて疑問に思った。
「聞いてて不思議に思ったんだけど。バルロスは龍神なんだよな?」
「うむ。確かにそうだが」
「そして毎年、生贄の女を喰ってたんだよな?」
「ああ。それがどうした?」
「んー。なんか話を聞いてる限り。どうも分からないことがある」
「分からないこととは、私のことか?」
「それもあるんだけど。生贄の女を喰らってるような龍が。どうして、龍の里の心配をしているのかが分からない」
「なるほどな。さて、そのことをどう説明するかだが」
「バルロス様。私の方から順を追って話をした方がはやいかと」
「うむ。そうだな」
そしてクルテルは、そのことについて話しだした。