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いざナカンコンベへ! その2

 翌日、お昼の混雑が終了したところで、僕は本店の営業を店長補佐のブリリアンに任せて、ナカンコンベへ向かって出発しました。
 移動には、スアの魔法の絨毯を使用しています。
 絨毯には、ボクとスアの他に、学校が春休み中のパラナミオと、リョータ・アルト・ムツキの子供達、さらにルア工房のルアがビニーと一緒に乗っています。
 ルアは、ナカンコンベで魔道船の乗降タワーを建てるのに適した場所を見つけるために同行してもらっています。
 実際、人口密集地にあるブラコンベの2号店に乗降タワーを設置する際にも色々配慮してくれたのがルアでした。
 ブラコンベの職人さん達に
「あぁ、こっちはこうして、で、ここはこうやって……」
 と、臨機応変に設計図を調整して、周辺の建物への影響をほぼ無くしてくれたんですよね。
 そんなルアですから、ナカンコンベの街並みを見ながら乗降タワーの設置に適した場所を見つけてくれるんじゃないかと思っているわけです。

「しっかし、この魔法の絨毯ってすごいなぁ、魔道船より早いんじゃないか?」
 ルアは赤ちゃんのビニーを抱っこしたまま、周囲を笑顔で見回しています。
「ほんとですねぇ!景色が後ろに飛んでいってます!」
 僕の横では、パラナミオ達がルアと同じように顔を輝かせながらルア同様に周囲を見回し続けています。
 そんな皆を乗せたスアの魔法の絨毯は、すごい速さでナカンコンベへ向かっていきました。

◇◇◇

 時間にして数時間。
 まだコンビニおもてなしが閉店していない時間に、ナカンコンベの城壁が見え始めました。

 ナカンコンベの城壁はガタコンベやブラコンベのような木製ではなく、石造りのしっかりした作りになっています。
 僕達の進行方向にちょうど城門が見えますが、そこには多くの人々が列を作っています。
 おそらく都市に入るための検閲を受けるための順番待ちをしている人々なのでしょう。
 ブラコンベやガタコンベでも検閲はありますが、あんなに長い列が出来るほど人が殺到することはありません。
「おや?」
 よく見ると、その列の先頭付近に見慣れた顔がありました。
 ドンタコスゥコです。
 どうやら、ドンタコスゥコ達がちょうどナカンコンベへ入るところに出くわしたみたいですね。
 スアに、魔法の絨毯をナカンコンベから少し離れた場所へ着地させてもらうと、僕達はそこから徒歩でドンタコスゥコ達の元へと歩み寄っていきました。
「やぁ、ドンタコスゥコ」
「あ、あれ? て、店長さんですかねぇ? っていいますか、な、なんでここにいらっしゃるのですかねぇ?」
 ドンタコスゥコは、僕やスア達が目の前に出現したことに明らかに動揺しています。
 で、そんなドンタコスゥコに僕は、
「こないだ話になった魔道船の乗降タワーのことでさ、まずはナカンコンベの街を見学してみようってことになって、ちょっと来てみたんだよ」
 そう言い、笑顔を向けました。
 すると、ドンタコスゥコは、
「そういうことでしたら一緒に街に入るのがいいですねぇ。この列に並んでいましたら、この分だと夜中になりかねませんからねぇ」
 ドンタコスゥコはそう言うと、僕達を馬車の中へと誘ってくれました。

 ドンタコスゥコの話しによると、このナカンコンベは24時間城門が開いているそうです。
 夕暮れと同時に閉門して、日の出まで開門しないガタコンベとはかなり違います。
「街には大きな繁華街がありますのでねぇ、夜中でもたくさんのお店が営業しているんですねぇ」
「へぇ、そうなんだ」
 僕は、ドンタコスゥコの横に座って、ナカンコンベのことを色々聞いていました。

 ほどなくして、ドンタコスゥコ達の検閲の順番が来ました。
 ドンタコスゥコは、ナカンコンベの街の優遇入場許可証というものを所持していまして、それを検閲を行っている衛兵に見せると
「あぁ、ドンタコスゥコさんか。さ、入りな」
 と、ほぼスルーパスで街の中へと入れてもらえました。
「すごいんだね、その優遇入場許可証って」
「あぁ、これですかねぇ? これは最低10年、この街で何のトラブルも起こすことなく商売を続けた商人にのみ配布される物なんですねぇ。それだけ信用されているってことなんですよねぇ……もっとも、それだけに、もし万が一何か問題を起こしたら、とんでもなく重い罰を受けることになるんですねぇ」
 ドンタコスゥコは、そう言いながら苦笑していました。
 ガタコンベでは、結構おどけたといいますか、ファラさんとの骨肉の争い~基本フルボッコ~をしている姿しか見た事が無いドンタコスゥコですけど、今のドンタコスゥコは、周囲の知り合い達に気さくに声をかけ、手を振っている街の名士風に見えなくもありません。
 やっぱ、ドンタコスゥコもこの街では結構な商売人なんだな、と感心しきりだったわけです。

 僕達を乗せたドンタコスゥコの馬車は、そのまま街の中央通りを進んで行き、ナカンコンベ役場の前を通過すると、そのほど近くにある大きな建物の裏へと回っていきました。
 その建物には『ドンタコスゥコ商会』と刻まれているでっかい看板が掲げられていました。
「ここがドンタコスゥコのお店なんだ……」
 僕は、その建物を感嘆しながら見上げていました。
 ブラコンベにある一番大きな商会の建物の、およそ1.5倍はありそうな建物です。
 しかも、裏に回ると、ドンタコスゥコ達が乗って戻って来た馬車群の3倍はあるんじゃないかってほどの大量の荷馬車が係留されていまして、荷馬車の周囲をドンタコスゥコ商会の店員らしい人々が忙しそうに右往左往しながらこっちで荷物を積み降ろし、あっちで積み込んだりしています。
 ドンタコスゥコは、乗ってきた荷馬車を空いている一角に誘導すると、
「では店長殿、街をご案内しますかねぇ」
「え、でもドンタコスゥコ、積み荷を降ろしたりしなきゃならないんじゃないの?」
「そんなの店員が勝手にやってくれますねぇ。それに、いつもお世話になっている店長さんがこうしてわざわざ出向いてくださったんですからねぇ、そのご案内をするのは当然ですねぇ」
 ドンタコスゥコは、その顔に笑顔を浮かべながら僕達の前に立って歩き始めました。
 僕達も、その行為に甘えさせてもらうことにしまして、その後ろについて歩いていきました。

「で、店長さん、魔道船の乗降タワーは、我がドンタコスゥコ商会の建物の上に作ってくださるんですかねぇ?」
「そのことなんだけどさ……」
 僕は、嬉しそうに微笑んでいるドンタコスゥコに対して、少し困惑気味な表情を向けると、
「実は……このナカンコンベにコンビニおもてなしの支店を出せないかな、って思ったりしているんだ……で、魔道船の乗降タワーはそこに立てたいかなって思ったりしてて……」
 僕がそう言うと、ドンタコスゥコはその場でピタッと停止しました。

 そりゃ、そうなりますよね。
 ドンタコスゥコは、今まで僕達コンビニおもてなしの商品を購入して、このナカンコンベで販売してたはずですから。そこにコンビニおもてなしが出来てしまうと結果的にドンタコスゥコ商会の商売を邪魔することになるわけですし……

 僕が、そんなことを考えていると、ドンタコスゥコは
「なるほど、そうですかねぇ……なら、適当な空き店舗を探さないといけませんねぇ」
 そう言いながら、考え込み始めました。
「え? ドンタコスゥコ、コンビニおもてなしがこのナカンコンベに出来てもいいのかい?」
「あ、はい、むしろありがたいですねぇ。仕入をここでさせてもらえるのであれば、その分、新しく出来る王都のお店で販売する品物を仕入れて運搬する時間を大幅に短縮出来ますからねぇ」
 そう言って、にっこり微笑みました。

 この時初めて知ったのですが、ドンタコスゥコは、コンビニおもてなしで仕入れた品は、このナカンコンベでは販売していなかったんです。
 と、いいますのも、ここより西にありますバトコンベっていう辺境都市へ持って行って販売した方が、倍以上高く売れるからだそうで……
「しかも、バトコンベでの噂が噂を呼んでいましてですねぇ、王都でプレオープンした際にも飛ぶように売れたんですよねぇ、コンビニおもてなしで仕入れさせていただいた品々が」
 そう言い、ドンタコスゥコはその顔をウフウフさせながら、頬を赤く染めていました。
 ま、まぁ、ドンタコスゥコがそう言うのなら、いいかな、と思う事にした次第です。

 そんな会話を僕とドンタコスゥコがかわしていると、1人の女性店員がドンタコスゥコの側に歩み寄って来ました。
 で、2人はしばらく何事か話をしていたのですが、その話の途中でこちらへ視線を向けたドンタコスゥコは、
「店長殿、いい物件がちょうど出たんですねぇ」
 笑顔でそう言うと
「さ、善は急げですね、すぐ行くですね」
 僕の手を引っ掴み、いきなり走り出しました。

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