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ドンタコスゥコ商会と魔道船と その3

 結局、僕がいる間に3度連れ戻したにもかかわらず3度戻って来たメイデンを交えて朝までドンチャン騒ぎを繰り広げたドンタコスゥコとドンタコスゥコ商会の皆さん。
「こんらりあらしを酔わせておいて……そうか、このままこのあらしを陵じょ……」
「いいからもっと飲むでありますよ」
「げぼほほほほほほほぉ……」
 明け方様子を見にいくと、まだドンタコスゥコとメイデンがそんな感じで酒を飲んでたわけです……
 よく見ると、そのメイデンに腰紐をつけたブリリアンがメイデンの後方で腕組みしたまま居眠りしているのですが、僕がいない間にどれほどの攻防が繰り広げられたのかを考えると、なんかもうお疲れ様としか言葉が浮かんできませんでした。

 この後、しこたま酔っ払っていたメイデンなのですが、
「このあらしに酔いを覚ませというんれすねぇ……それはつまりこうしろと……く、屈辱……」
 そう言いながら酒場の裏手に流れています川の中に自ら入って行きまして頭まで浸かっていきました。
 で、それをたっぷり1時間繰り返した後。
「こ、こ、こ、これで目は覚ましたぞ、これで良いのでしょう? そしてまたあの部屋に私を閉じ込めて陵じょ……」
「いいから行くぞ!今日は私も一緒に行くからな」
 そのままブリリアンに連行されて魔道船へと連れて行かれたメイデンだったわけです、はい。

 今日は休日ですのでお店は休みですが、ドンタコスゥコ達がやってきていますのでコンビニおもてなしの商品を卸売りしなければなりません。
 そのため、ファラさんが早くからコンビニおもてなしに顔をだしていました。
 で、ドンタコスゥコはといいますと、明け方までメイデンと酒を飲んでいたせいでまだ眠っているらしく、まったくやってくる気配がありません。
 まぁ、約束の時間までまだあるんですけど、すでにファラさんは臨戦態勢でドンタコスゥコを待ち構えている次第です。
 そのまま一時間経過。
 約束の時間ぴったりにドンタコスゥコがコンビニおもてなしへと顔を出しました。
「あら、逃げないどころか時間通りにくるなんてやりますわね」
「ふっふっふ、このドンタコスゥコ、商売絡みの約束の時間に遅れたことはありませんですよ」
 そう言いながら、ファラさんとドンタコスゥコは互いに不敵な笑みを浮かべています。
 で、しばらく卸売りする品物とその数をチェックしていた2人。 
 その間は、まぁ数の確認だけですので
「あ、今回はこの疲労回復薬を2箱増やしてほしいですねぇ」
「2箱なら問題ないわ。在庫を回してあげる」
「感謝感激ですねぇ」
 といった具合で終始和やかに話が進んでいきました。

 で

 その和やかな雰囲気が一変したのは品物の数の打ち合わせが終了した瞬間でした。
「……で、今回もこんだけ買うのですからねぇ、これくらいは値引きしてほしいですねぇ」
「は? 馬鹿言ってもらっちゃあ困るわね。それじゃあ皆のお給料も払えないじゃないのさ。あとこれだけ上乗せね」
「むむ~、それは前回よりも高いではないですかねぇ? せめてこれくらい」
「今回増加した商品はコンビニおもてなしでも売れ筋商品だからねぇ、これ以上は一切まからないよ」
 と、まぁ、品物の数の打ち合わせから値段交渉に移行した途端に、ファラさんとドンタコスゥコは喧々囂々丁々発止やり合い始めたわけです。
 で、そのまま小一時間は言い合いを続けた後、
「……どうやら、最後は今回も勝負で決着を付けるしかなさそうでありますねぇ」
「いいわよ。アナタのお望みの方法で勝負してあげるわ」
 ある程度、値引率をすり寄せ合った2人は、もう一息というところで勝負し、
 ドンタコスゥコが勝てばドンタコスゥコ有利な割引率で
 ファラさんが勝てば、コンビニおもてなし有利な割引率で今回の取引を行うことになりました。
 ドンタコスゥコは、ポケットから一枚のコインを取り出すと、
「今回はコイントスで決めるですねぇ」
 そう言いながら、コインを親指ではじいて宙に放り上げ、激しく回転しながら落下してきたコインを自らの左手の甲の上で受け止めると同時に右手で蓋を……

 ガシッ

 ……しかけたところで、ドンタコスゥコの右腕をファラさんが掴みました。
「……ちょっと、このコインを確かめさせてもらってもいいかしら?」
「ギク」
「『ギク?』何かまずいことでもあるのかしら?」
 見るからに動揺しているドンタコスゥコ。
 そんなドンタコスゥコの右腕を掴んだまま、ファラさんはドンタコスゥコを睨み付けています。
「あのさ、龍人の動体視力をなめてるんじゃないかしら? ねぇ? さっきアナタが放り上げたコインさぁ、なんでどっちも裏だったのかしら?」
「い、いえ、そ、そ、そ、そんなことはその……」
「そう、私の見間違いだっていうのね? じゃ、もしこのコインがどっちも裏の偽造コインだったら、定価の倍値で今回の……」
 ファラさんがそう言いかけると、ドンタコスゥコはファラさんに右腕を掴まれたままの状態でその場に土下座していきまして、
「こ、今回もファラさんの言い値で買い取りさせていただきますので、どうか倍値は勘弁願うのですぅ」
 そう言いながら何度も何度も頭を下げていったわけです、はい。

 ……なんというか、今回はズルをしようとしたわけなので、ドンタコスゥコに弁解の余地はないわけですけど、ホント毎回手を変え品を変えして、ドンタコスゥコも頑張るなぁ、と思った訳です。
 その情熱で、優秀な交渉人を雇った方がいいんじゃないかとも思ったんですけど……ま、それはドンタコスゥコが決めることなので、あえて僕は何も言いませんでした。

◇◇◇

 今回の品物を荷馬車に積み込みながら、ドンタコスゥコは
「と言うわけで店長殿、あの魔道船の件、ぜひともよろしくお願いしたいのですねぇ」
「そうだね、こっちでもみんなと相談した上でどうするか決めさせてもらうよ」
 僕はドンタコスゥコにそう答えました。
 今日は休日なので、明日にでも商店街組合のエレエ達にも話をしてみて、その上でどうするか正式に決めるつもりでいます。
 で、もしナカンコンベまで魔道船を就航させることが決まったら、乗降タワーをナカンコンベの中のどこに作るかなどをドンタコスゥコと相談しながら決めないといけませんからね。
 ドンタコスゥコは、
「ナカンコンベでの手続きは、このドンタコスゥコが責任を持ってお手伝いさせていただきますので、大船にのったつもりでいてほしいですねぇ」
 そう言いながら胸を叩きました。
 とはいえ、イカサマをしようとしたドンタコスゥコですからねぇ。
「ズルはなしで頼むよ」
「しないしない、しようとしたことも……」
「あ?」
「あ、いえ……ごめんなさい、すいません、許してください」
 間に割り込んで来たファラさんを前にして、再び土下座して平謝りするしかないドンタコスゥコでした。

 その後、品物をすべて積み終えたドンタコスゥコは
「来月こそ勝ってみせるでありますよぉ」
 ファラさんに向かってそう言っています。
「楽しみにしてるわよ、まぁ、次回もきっちり返り討ちにしてあげるけどね」
 そんなドンタコスゥコに、ファラさんは余裕の笑みを浮かべ続けています。
 なんのかんの言いながら、この2人ってば月に1度のこの勝負をどこか楽しんでいる節がありますからね。

 僕は、そんな2人へ交互に視線を向けながら、思わず苦笑していったわけです、はい。

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