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エッザールの家に迎えられて、早くも一週間が過ぎた。
エッザールの親父さんも弟も兄貴もみんな戦士の家系だから、腕はかなりのもの。正直エッザールより強いんじゃないかって思えてしまうくらい。
ってなわけで早速頼み込んで俺も更なる努力! そりゃあ誰よりも強くなりたいさ。いつか親父を……ってこれは誰にも言っちゃいけねえんだよな。
「だいぶ振る速度が上がってきたね、またボクと手合わせしてみる?」
悪戯っぽい笑みを浮かべて俺にそう言ってきたのは、エッザールの弟のマースネスだ。まだ髪もヒゲも生えていないつるりとした顔だ。とはいえやはりエッザール仕込みの剣技は兄貴に引けを取らない。何度打ち込まれたことか数えられないくらいだ。
「悪い、次はあたしにやらせてくれないか?」
「え、姉ちゃん……」前置きもなく、突然俺たちの前に現れたパチャに、弟の声が上ずった。
「ま、まあいいけどさ、でもこの前フィンに負けたじゃん。いわゆるリベンジってやつ?」
「そうじゃないさ。やっぱり自身の本当のスタイルでやりたくってね」
そんなパチャの手には、幅広のサーベルを模した木剣二振り握られている。もしかして……本当は二刀使い!?
「そーゆーこと。あたし本来両利きだし」
そんな中、ふとマースネスが俺に耳打ちしてきた。
「姉ちゃん本気だぞ、気をつけてね」
そういえば、婚礼の決闘の時は一本の剣を右に左に持ち替えて駆使してたっけ……つまりはこれが本来のパチャってわけか。
「木剣とはいっても斬られれば骨も折れるし、手は抜くンじゃねーぞ。迷いは一切捨てて構わないからな」
なんだろう、パチャの言葉の端々に怒りのような……イライラにも似た感情が見えてきた。
「パチャ、いったいさっきからなに怒ってんのさ」
「ちっ、うっせーな。お前にはカンケイねーよ!」
ほら、そうは言うもののやっぱり機嫌が悪いし。
ってことでマースネスが審判に立って、俺とパチャの再試合が幕を切った。
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………………
…………
「やめて姉ちゃん! もう倒れてるじゃん! それ以上やったら危険だって!」
激痛で意識が朦朧とする中、マースネスの声だけが聞こえた。
始まってまだ全然だってのに、パチャのやつ……ものすごいスピードで一気に打ち込んできやがった。
一瞬だった。手の甲とすねと、つま先とわき腹と鼻先にものすごい痛みが、剣筋すら見えなかった……
「けっ、だから迷うなって言ったじゃねえか、これが結果だ」
「だからってここまでやっていいワケないだろ! 姉ちゃんの旦那さんだろ!?」
「ハア? お前にそれを言う権利なんてあんのか?」
「なにやってんだパチャ! お前……なぜフィン君にここまで!」
「兄貴までいちいちうっせーんだよ! こいつにあたしの本気を叩き込んだだけさ」
パンッ! と誰かの頬を叩く音が響いて、急に静かになった。
そして……痛みに我慢し続けて張りつめていた俺の意識も、プツリと途切れた。