14話
翌日。
残しておいたみかんと梅をジャムにしていく。
梅の実は昨夜洗って下手を取り、冷凍しておいたものを砂糖と合わせて火にかける。
実を潰しながら種を取るので少し手間だが、生のままより美味しくできるので、その手間を惜しまない。
みかんは皮をむき、フードプロセッサーで細かくして砂糖と煮る。
どちらも灰汁を取りながら、トロミが少し付くまでに詰める。
できた物を再度瓶に詰めて鍋で沸騰。
取り出して慎重にフタを開け閉めし、そのまま置いておく。
「楓の樹液かー。シフォンケーキにでもしようかな」
今日のおやつは何にしようかなと、使えそうな材料を探すために収納場面を覗くと、最近採れたのか楓の樹液が表示されていた。
シフォンケーキはすでに一度作ったが、最初はやはりプレーンだろうと思い何も入れなかった。
メープルのシフォンケーキはしっかり味が付くわけではないけれど、ほんのり甘くなるのが気に入っている。
それなら今日はそれにしようと、樹液をメープルシロップとメープルシュガーに加工する。
普段なら砂糖を使うところでシロップとメープルシュガーに変えるだけで楽にできるシフォンケーキ。
ひたすらに混ぜる作業が続くけれど、食べた時の幸せは格別だ。
混ぜ終えた記事を型に流して、オーブンへ。後は焼き上がりを待つだけだ。
「あ、そろそろ冷えたかな」
先ほど作っておいたジャムを確認する。
触って確認すれば。蓋がベコッとへこんでいるので安心した。
「さて、このジャムどうしようかな」
予定の物は作り終えたとはいえ、まぁはっきり言って作りすぎではある。
とは言え何か作らないと溜まっていく一方ではあるので、腐りはしないが勿体ない。
例の月末のどこかの国で開催される市に出すというのも一つの手ではあるので、そちらを検討しておく。
しかし、目下の悩みといえば、目の前(と冷蔵庫)にあるジャム。
これはすでにスキルの永久保存からは外れてしまっているので、どうにかしないといずれだめになってしまう。
「ココロー、どしたの?」
うーん、と悩んでいれば、それに気が付いた妖精たちが集まってきた。
調理中は、ユキが近くに来ると危ないので、遊んで気をそらすグループと、お手伝いのグループへと別れている。
ユキは今は、遊び疲れて眠ってしまったようだ。
「ん?このジャムたちをね、どうしようかと思って。一度には使えないし」
一度は冷凍保存も考えたが、瓶一杯にジャムを詰めてしまっているので、控えた方がいい。
次作る時は、少し少なめに入れるか、冷凍保存しもていい容器を探してくるかしておこう。
なんて考えていると、イトが目の前にやってきた。
「なかこおらせる?」
「え?うん。それができればいいけど、これじゃあ冷凍庫入れられなくて…」
「まかせて!」
「え?」
瓶のもとへ飛んで行ったイトは、ちょんと瓶に触れる。
2つとも同じように触れるが、何か変化が起きたのか分からない。
「え、今なにしたの?」
「こおらせたの!」
「え?」
そういえば、未だイトの能力は判明していなかったなと思いながら瓶を持ち上げる。
見た目は何も変わっていない。特に冷たくも…ない。
ん-?と首をかしげながら蓋に触れると、確かに直前まで感じなかった冷気があった。
「わ、すごい!」
まさしく瞬間冷凍。それも容器は冷たくならず中身だけ。
直接触ってみたくて蓋に手をかけると、イトが待ったをかけた。
「あけたらとけちゃうよー」
「えー」
何と残念。
という事は、容器自体が冷凍庫の役割があるという事だろうか。
何にも入れていない物はどうなるかは、また今度試してみることにして。
便利ではあるが、ポイント消費を忘れてはならないので、多用は控えよう。
昨日作った5つのジャムのうち、ブルーベリーを残して冷凍してもらった。
そうこうしている間に、シフォンケーキが焼きあがった。
オーブンから取り出し、ひっくり返して空瓶に乗せる。粗熱が取れれば完成だ。
「と、そうだ。今のうちに出掛けてこようかな」
大きい瓶に入れたジャムは冷凍してもらったが、小さい瓶に入れたジャムはそのままだ。
こちらは気持ち程度だけどお世話になっている人にお礼として渡そうと思う。
今思い浮かべるのは第一にハロルド。そしてその弟のリック。
一度コーダイさんも考えたが、彼はこちらで結婚しているそうなので、個人で会うのは気が引ける。
リアラは…むしろ直接食べれるものの方が喜びそうだから、次にユキを連れていくときに何か作っていくのがいいだろう。
なので、今日はリックの家へ行くことにした。
「こんにちわ」
「あ、ココロさん。こんにちわ」
表を通っていくと、彼は丁度入り口前の掃除をしていた。
こちらに気づいてクッキーを裏へと誘導してくれる。
馬車を降りれば、ニコニコと出迎えてくれた。
「お出かけですか?」
「ううん、今日はハロルドとリック君に用事があって」
「僕…ですか?」
ちなみにハロルドは、今日ここへは来ないらしい。
どうやら兄弟内で独自のやり取りがあり、早い段階で来るか来ないか、どこへ行くのか分かるそうだ。
「いつも家の中通らせてもらってるから。小さくてお礼にはならないかもだけど、ジャム作ったから」
「ジャム、ですか?」
一瞬、目がきらりと光った気がしたけれど、気のせいだったかすぐに元に戻った。
「もしかして嫌い、だった?」
「あ、いえ!よく使うのでありがたいです」
「そっか、よかった。じゃあ、これ。ハロルドにも渡してほしいんだけど…」
「はい、それじゃあ確かに預かりました」
「ありがとう、おねがいします」
嬉しそうに受け取るリックにこちらも嬉しくなりながら、とんぼ返りにはなるが牧場へ戻った。