8話
翌朝。
まだ日が登りきっていない時間帯に目が覚めたのは、やはり以前の癖が抜け切っていないからだろうか。
固まった体を軽くほぐしながら身支度を整える。
整え終えて、キッチンへ向かう。
妖精たちはそれぞれ好みの場所を寝床にしているが、ココロが起きてきた事に気がついて徐々に集まってきた。
「ココロおはよー」
「おはよー」
「おはよう、みんな」
まだ眠そうに目をこすっている子も、懸命に目を覚まそうとしていて微笑ましい。
「ごはんー?」
「そうだよ、これから朝ごはん。昨日の味噌汁とご飯が残ってるから、後はお魚でも焼こうかな」
とは言え、ただ焼くだけでは味気ない。
アルミホイルを用意してその中に鮭の切り身と、カットしてある玉ねぎ、シメジを入れて塩コショウで味付けする。バターを乗せてアルミホイルで包み込んで、グリルへ入れた。味噌汁も温め直す。
空いた時間にマンゴーとバナナ、オレンジを取り出す。
マンゴーをカットして数個残し、食べやすくカットしたオレンジと一緒に器へ並べる。残りは冷凍するために専用の袋へ入れて冷凍庫に仕舞った。
最後にヨーグルトを取り出し、大まかにカットしたバナナと一緒にミキサーへ。程よく混ざったところで深めの器に移す。
そうしていると、グリルのタイマーが聞こえてきた。皿へ移し、ご飯と味噌汁を器へ盛れば朝食の完成だ。
いただきますと手を合わせて食べ始めると、昨夜同様、妖精達が周りへ寄ってくる。
「そうだ、ココロー」
「んー?」
「みんながね、もういーよーって」
「うん?」
何ともざっくりしたルトの報告に、頭にハテナマークが浮かんだ。
一体何のことだと、急いで口の中を飲み込もうとしているともう一人…
「あ、おんなじのきいたー。」
「え、待って何が‘もういい’の!?」
ハイハイ!と、元気よく手を上げたのはレツ。
最初のルトの言葉だけだったら、「妖精の皆」という意味で受け取れるから、レツの言葉を聞いて少し混乱した。それだと噛み合わなくなるのだ。
一方で、他の妖精達はよく分からないという顔をしている。
どうやら分かってる(と言っていいのかは不明だが)のはルトとレツだけのようだ。
正直、彼らの話し方はかなり拙い。変な言い方になってしまうが、語彙力も低い…無いと言っても過言では無いかもしれない。
場合によっては、話してる内容から意味を汲み取るのが困難になる。今がそうだ。
主語、述語を…と言っても、揃って首をコテンと傾げる姿が簡単に思い描かれた。
「えーと、ルトが土で、レツが植物…ん、んん?」
その2つから導ける物と言ったら何だろうか。
「もういーよー」と言うとまず思い浮かべてしまうのは超メジャーなあの遊び。やったことの無い人がいるのだろうか。何人かはいる気がする。確認した事ないが。
…脱線した頭を元に戻す。
「もう」と言う事は、すでに着手していて、けどまだ準備が整っていないから中断しているという事。
そして土と植物。答えは簡単だった。悩んでなどいない、決して!
「肥料が出来たの!?」
「ひりょう?」
「ひりょうってなーに?」
嬉々として聞いてみれば、思わず椅子から転げ落ちそうになる。
それは知らないのか。いや、さっき語彙力がどうとか考えてたのだから当然と言えば当然だが…。
「ええと…庭に埋めた、燃やした雑草。あれで作ってたのが肥料なんだけど、わざわざ掘り返さなくても、もういいって分かるの?」
「うん!なんかねー、キラキラしてたからきいたら、うめたのがいいカンジで、うれしいからキラキラしてたんだって!」
と言うのはルトだ。肥料が出来上がって、栄養が行き渡ったと言う意味だと予想が付く。
そしてレツは、
「やっとひつようとしてもらえる!って、ココロがひりょうにするっていったときから、よろこんでたよー」
長い間伸び放題生え放題だった雑草達も、妖精からしたら意思を持っているのだろうか。単に駆られて燃やされただけではなく、肥料として土に帰れるのは、雑草としても本望だろう。いや、分からないけど。
とにもかくにも、畑の準備が整ったのならやる事は1つ!…では無いけど、農作へ一歩前進だろう。
しっかり噛みつつ素早く食事を終え、片付けをしてから畑へ向かった。
サッカーグラウンド約2.5個分+1メートル四方のなんとも中途半端な大きさの畑が目の前に広がる。
最初はサッカーグラウンド約1個分(今となってはそれだけでも広すぎる)だったが、検証のために倍以上になってしまった。
目指すのは野菜を育てて売って収入を得る農家!ではなく、あくまでも自給自足を目的とした家庭菜園なのだから、この広さは正直…。
けれど、使い道がないわけではない。
当初の目的は『野菜作り』だったのだが、野菜だけでは無く別の物も育てればいいだけの話。
まぁ、その為にはまだ準備が整っていないので、今日は、整備だけする事にする。
「よし、じゃあまずは土を作りたいから…」
「まぜればいーい?」
「うん、お願い」
「はーい!」
ルトが、元気よく土の中へ潜っていく。言葉で伝えると難しいだろうから、理想の土と畑の形を思い描く。
しかしルトにだけ作業をお願いすると他の子たちが手持ち無沙汰になってつまらなさそうだ。畑に関してできる事はまだ他に無い。と思っていると、グリも飛び出してきた。
「いっしょにやるー!」
「あ…!」
と、呼びかける前に、ルトを追いかける形で潜ってしまった。グリは農具の能力。鍬も当然その仲間だ。
二人仲良く土を耕してもらっている間に、別の作業…と言うよりかは、馬の世話をやってしまおうと馬小屋へ向かう。
中へ入ると、鼻を鳴らして歓迎してくれる。昨日は一昨日より長く歩かせたが、特に疲れは見られない。
エサ箱をキレイにて、新しい餌を入れる(餌を刈るようにハロルドが小ぶりのカマを置いていってくれた。)
水飲み場もキレイにして新しい水を入れ、ブラッシングへ移る。
昨日と同じく、ロズが心の声を代弁してくれた。
ちなみに妖精達の中には、能力に見合った対象と意思疎通が取れるものがいる。その最もたるが、ロズとレツ、ルト。他はまだ聞かないから分からない。ちなみにFPの消費は無かった。