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5話

馬車に揺られながら、周りを見回す。
今通っているのがこの街の大通りなのだろう。いろいろな店が軒を並べている。
先程まで大都市にいたので小さく見えるだけで、それなりに大きな街なのが分かる。

しばらく行くと、教えられた農業センターが近づいてきた。
馬車を停めるスペースを見つけ、そちらへ向かう。同じように馬車を停める人が何人か見かけた。この街の農家の人だろうか。
馬車を降りて農業センターへ足を踏み入れる。

「おぉ、色々売ってる!」

そこそこの広さの中には、見覚えのある物が色々売っていた。
目的の種や苗はもちろん、肥料や農具等たくさんある。

「あー、そう言えば、育てる物によって、必要な道具とかあるんだっけ」

耕したり刈ったりするのは、妖精の力を借りれば問題ないだろう。
しかし、蔦のある植物等は支柱がいるし、マルチシートも必要になるだろう。
そう思いつつ、入り口近くに置いてあった農作業の専門書を手に取る。これで1つ目的は達成した。

中はホームセンターのように種類ごとに区間分けされていて必要なものを探しやすくなっている。
農具に関しては必要ないのでそのまま通り過ぎ、支柱やシート等比較的重要な道具を揃えていく。

「ここは種量り売りなんだ」

両親の実家が、それぞれ農家をやっていたのでそこそこ知識はあるが、野菜の種はスーパー等で見かけるタイプを思い浮かべてしまう。
もちろん種蒔きの手伝いもした事だってあるが、直接種を渡されるだけで、祖父達がどうやって種を用意していたのかは分からない。

周りを見てみると、同じ種類の野菜の種をたくさん仕入れていく人達ばかり。その人達はおそらく農家で、できた野菜を店に卸している人達だ。
ココロはとりあえず自分用に作れればいいと考えているので、なるべく多くの種類を、少しずつ買うことにした。苗も然り。
そして、苗を選び終わったその先で、少し悩む事になる。

「んー、どうしよう…果物の苗木…」

充実し過ぎだろう!と、勝手な事で怒ってしまいたくなったのは数分前。
たまたま通り掛かった通路に、苗コーナーの看板を見つけてしまったのだ。
それから買おうか悩んで数分経つころ、ふと思い出す。

「そういえば昨日…」

昨日の朝、妖精達が持ってきてくれた果物があった。
そして次に思い出すのは、あの妖精達は土地から出られないと言う事。
すぐに、果物の苗木を今買うのは早計かもしれない事にたどり着き、その場を後にした。


会計に向かおうと角を曲がったときだった。棚で死角になっていたので、そちらから来る人に気が付かず、ぶつかってしまった。

「ご、こめんなさい!大丈夫でしたか!?」
「いやぁ、こっちも邪魔なトコに立ってたから。ん?」

気にするな!と言いながら顔を上げたのは、『ザ・農家』という格好をした男性だった。先日会ったコーダイさんよりは年下だろうか。

「珍しいなぁ、嬢ちゃんみたいな若い娘がこんな所に。遣いか?」
「あ、いえ、個人的に…」

物珍しそうに眺めてくる男性は、ふとココロの頭の上に目を止める。
何を見て?と思うも、すぐにいつもと何か違う事に気が付いた。

「あ、帽子…」

どうやら、男性にぶつかった拍子に脱げてしまっていたようだ。
つまり、男性が見ているのは頭部に生えた(?)猫耳。動物耳がある人は、この世界では大して珍しくは無いというのは、この2日で身にしみた。
ハロルドにコーダイさん、化粧品フロアにいた案内役の女性。それ以外にも、買い物客の中にチラホラと見えていた。

「なるほど、嬢ちゃんもその口か」
「?」

頭にハテナを浮かべるココロに対し、男性は軽く被っていた帽子を持ち上げる。けれど、あまり周りに見せたくないのか、すぐにかぶり直してしまった。
その一瞬だけ見えた物で合点がいった。
どうやら彼もらしい。何の耳かは分からなかったが。

「俺はこういう店に、種や苗を卸してるライジスってんだ。もしなにか欲しい種があれば、作れるから遠慮なく言ってくれ。店のもんに言付けりゃいいからよ」

安くしとくぜ。と笑顔で言いながら、ライジスさんは去っていった。
少しばかり呆気にとられながら、その背中を見送る。
それからすぐに、他の人の邪魔にならないように、当初の目的地である会計へ向かった。


会計を済ませて、帰路につく。来る時はのんびり景色を眺めてきたが、せっかくだから買ってきた本を見ようとタブレットを取り出す。
本の類は、購入時にタブレットへ吸収させるかどうか選択が現れた。どういう事だろうと1度させるを選択して確認してみた所、つまるところ電子書籍にするか、紙面として取り出せるようにするかという事だったので、置き場所に困らない電子書籍にしていった。

表示した本は、この世界について。世界地図も載っているので、位置確認しやすい。
まずこの世界には、『地球』のような名前は無い。理由等も載っていなかった。
そして、ハロルドに教えられたように、国は東西南北と中央の5つ。
中央は『セントラルカントリア』、東は『イーストカントリア』、西が『ウエストカントリア』というように、方角にカントリアと付けたのが国名となっているようだ。ちなみに後2つは『サウスカントリア』『ノースカントリア』

国は5つだが、大陸は大きく分けて3つ。セントラルカントリア、イーストカントリアとサウスカントリア、ウエストカントリアとノースカントリアだ。セントラル以外は、小さな島も周囲に点在している。
隣国なら陸地が繋がっているので行き来は自由。しかし場所によっては数日掛かるらしい。
別の大陸へ行くには転送ゲートのある街へ行かなければならず、さらに許可証が必要。けれど、許可証は申請すれば誰でも会得出来、目的地近くを選択できるので、日帰りも可能な場合が多い。
ちなみに転送ゲートの数は少なくなく、小さな町でない限り設置されているのだとか。

「わー、これだけ見るともうゲームの世界…」

異世界だから当然と言えば当然なのだろうか。
異世界というと中世ヨーロッパ風のイメージが強いので、近未来に近いこの世界の有り様が不思議なくらいだ。便利だからいいのだが。

興味深い中身を見ながら頭に入れていく。
サウスカントリアはココロの予想通り農業が盛んな国。そして地続きのイーストカントリアは畜産業や漁業が盛んな上、森や山も多く、野生動物が数多く生息しているので、繁殖しすぎないように狩りも充実しているのだとか。
どちらも食事に関するものだが、南が植物系、東が動物系と別れているようだ。
ちなみにココロが住んでいるあの土地は、国境近くに位置しているのを知ったのは、GPSのような機能がタブレットに入っている事に気づいてからだった。

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