8話
鍵穴があった所から、そっと中を覗く。外側は綺麗に整備されているが、中は鬱蒼と草が生えている。
まずはどうやって中へ入ろうかと悩んでいると、喜びの舞を終えた妖精達が近づいて来た。
「ココロ、入らない?」
「んーと、入らないというか入れないと言うか…」
けもの道でも出来ていればまだ通れなくもないだろうが、それも見当たらない。
どう進めば良いかと考えていると、グレーの妖精と青…最初に声を掛けてきた妖精より濃い青だ…の妖精が前に出てくる
「「まかせて!」」
何をするのかと見ていると、まずグレーの妖精が草の中へ飛び込んでいく。
その場から草が倒れ始め、すぐに辺り一面の草は全て地面へ横に倒された。どうやら草刈りをしてくれたようだ。
それから濃い青…藍色の妖精が、空中で指揮をするように手を動かす。すると風が発生し、刈られた草が全て1箇所へ集まった。
「す、すごい!」
わぁ!と感嘆の声をあげる。
数分も経たないうちに、草で覆われていた地面が顔を出す。
2人の妖精は得意げな顔をしている。
「それじゃあ、おじゃまします」
歩きやすくなったその土地へ、一歩踏み入れる。
最初に感じたように、空気が澄んでいるのが分かる。
妖精達が周りに集まってくる。中には肩や頭に乗ってくる子もいた。
「ココロ、こっち!」
「え?」
最初に声を掛けてきた青の妖精が、ココロの手を引く。
どうやら来て欲しい所があるようだ。
導かれて着いていく。その後を、他の妖精達も追いかけてきた。
しばらく歩くと、何か見えてきた。
目の前まで行くと、かつて家だったものの跡地だと分かる。その背後にはたくさんの木々が生い茂っている。
かなり時が経ったのか、朽ち果てて久しいのが分かる。
「ここ、ココロのお家!」
「え、ここに住めってこと?」
だがそこにあるのは家だったもの。住めるわけが無い。
が、気がつくと空は赤く染まり始めている。夜が近い。
このままでは外で寝ることになるだろう。それは避けたい。
「ここ、ココロのお家、建てる」
「え、今から!?」
「みんなでやれば出来る!」
そう言って胸を張る。
みんなとは、妖精達の事だろう。
なんとなくだが、服と帽子の色によって使える能力があるのだろうと思う。
青の妖精は水、藍色の妖精は風。黄色の妖精は光だろうか。
グレーの妖精は草刈りをしてくれたが、ピンと来るものは無い。
「ココロ、どんな家が良い?」
「え?そうだなー」
希望すれば叶えてくれるのだろうか。
どんな家が良いか…前の家は帰って寝るだけの狭い賃貸アパートだった。居心地はイマイチだった。
当然思いつくのは住みやすい家だ。
考えている間にも、動き出した妖精が居た。グレーの妖精だ。
生い茂った木の一本へ向かうと、その周りをクルリと一回りする。その瞬間、木は木材へと変化していた。
次に赤とオレンジの妖精。
赤の妖精が朽ち果てていた元の家に手をかざすと炎が生まれ、残っていた家を焼き尽くす。灰と化したその場所にオレンジの妖精が潜ると、灰は土の中へ消えていった。
青や黄色の妖精は、グレーの妖精が作った木材を、家があった場所へ運んでいる。
木材が集まったところで、濃いグレーの妖精がココロの前に出てきた。
「形、どんながいい?」
「形かー。木造ならログハウスだよね、やっぱり」
思い浮かべるのは、幼い頃に見たアニメの場面。
山の上に住むおじいさんの家だ。あ、工房みたいな所は必要ないけど。
「分かった!」
「え?」
頭に思い浮かべただけだが、その妖精は心得たと言わんばかりに木材の山へと向かう。
何をしたのか分からないが、次の瞬間には大き目なログハウスが立っていた。
「わ、すごい!想像通り!」
三角屋根に丸く空いた窓。あそこから顔を出すのは憧れだった。
階段を上っ先に扉があり、そこから中を覗く。木の香りが辺りに漂っている。かなり広い。
中へ踏み込む前に、一部を残し床を数センチ高くしてもらう。そこに靴を脱ぎ、中へ入る。
しかし左側に階段はあるが、他は当然ながら何も無い。出来たのはまだ外見だけのようだ。
どうやら妖精達はココロの思い描く物を作ってくれているようだ。
次は?次は!?と目を輝かせてこちらを伺っている。
初めに中央奥寄りにドアと壁を作り、奥にお風呂等の水回りを集中させる。木の腐敗を心配したが、問題ないようだ。妖精パワーか何かだろう
せっかくなのでお風呂は温泉風にしてもらった。窓を大きくして外を眺められるようにする。覗きの心配も無用だ。この家には誰も近づけない。
手前側に戻る。
キッチン周りは充実させたい。IHコンロ(3口)に備え付けのオーブン、食器洗浄機、冷蔵庫等、地球を真似て作られた物が街に売っているそうなので、買えるまで我慢することにする。食器や調理器具も同様だ。それらを収納できる棚は先に作っておいた。
食事にはテーブルと椅子もも必要になる。
広く空いたスペースにラグを置き、ローテーブルと座り心地のいいソファーをその上に設置する。
壁にはエアコンでも取り付けられそうだ。
「よし、これぐらいで良いかな」
シンプルだが、1階はこれで充分だろう。必要なものがあれば随時追加していけばいい。
それにしても、妖精は従順な上に有能だと、ココロは心の中で感心した。