おもてなし診療所 その1
……というわけで、スアが魔法を使用してあれこれ制限をかけてくれているおかげで、仕事中のメイデンは傍目からはごくごく普通に……というか、かなり優秀なペースで仕事をしてくれています。
視察にきた辺境駐屯地のゴルアも
「……辺境駐屯地(うち)であれほど手を焼いたメイデンがここまで……」
と、心の底から感心した様子です。
なので、
「くれぐれもウチの店で社会貢献活動をさせようなんて思うなよ?」
と、僕は念押しをしておきました。
「ば、馬鹿な事を言わないでいただきたい。あ、あくまでもテストケースの1つとして想定してみただけであってですね……」
ゴルアは、慌てた様子でそう言ったのですが、テストケースとはいえ想定していたのは事実のようです……まったく、油断も隙もあったもんじゃありません。
◇◇
コンビニおもてなしの現在の大まかなラインナップは……
・弁当や惣菜
・パン類
・酒・ジュース類
・ヤルメキススイーツ
・赤ちゃん用品
・スアの薬品
・ペリクド工房のガラス細工
・ルア工房の武具・台所用品
・魔女魔法出版の本
ざっと上げるとこんな感じになります。
調味料や食材の販売などもしていますが、どれも好調に推移しています。
時折、僕が元いた世界でやっていたように季節の行事を導入してフェアを開催したりもしていますが、クリスマス以降、どのフェアも予想以上の結果が出ていて僕としても安堵しきりなわけです、はい。
最近契約したルシクコンベから定期的に入手している良質な布を、テトテ集落の皆さんに子供服を中心にして仕上げてもらっているのですが、こちらも試作品が順調に仕上がってきています。
今は、店の常連のママさん達に試作品を見てもらったり試用してもらったりしながら、あれこれ意見をもらいつつ改良作業を進めている段階です。
そして魔道船ですが……
今は、王都からの返事待ちの状態なので迂闊なことは出来ませんが、簡単な修復作業は許可が下りていますので、スアが時折魔道船まで行ってあれこれ作業をしてくれています。
王都から正式に払い下げの許可が出たら、内装なんかを一気に改造する予定にしているんですよね。
魔道船の中にコンビニおもてなしの出張所を作って、魔道船を利用するお客さんにあれこれ買ってもらおうとか考えている次第です。
あとは、この魔道船の定期運行を受け入れてくれる都市を探さないといけません。
まだ正式ではありませんが、すでに商店街組合のエレエが各地の商店街組合の蟻人達と内々に連絡を取り合ってくれていて、
ブラコンベ
ララコンベ
以上の2都市からはすでに内諾をもらっています。
ルシクコンベのグルマポッポにも一応話をしてはいるのですが、
「外部の方々が大挙して訪れるのはちょっと困りますぶひぃ」
とのことで、あまり色よい返事はもらえていません。
まぁ、このルシクコンベは昔から閉鎖的な都市ですし、今は布を仕入れることが出来るようになっているだけでよしとしておかないとダメでしょう。
あと、ティーケー海岸のアルリズドグさんが、この話を聞きつけて
「おいおい、そんな面白そうな話、こっちにもよろしく頼むぜ」
って、おもてなし商会ティーケー海岸店のファラさんに打診してきていますので、これも前向きに考えたいと思っている次第です。
あとは、ブラコンベを中心にして形成されている辺境都市連合の他の都市と連携出来るかどうかってとこですかね。
「……そう言えば、辺境都市連合に加盟している辺境都市って、あといくつあったっけ?」
僕は、いつものように街関係の書類を店にまで持って来てくれていたエレエに聞きました。
「あぁ、それでしたらあと2つですです。東のリファサコンベと南のクイレコンベですです」
このリファサコンベとクイレコンベですが、このガタコンベからはどちらもちょっと遠いのと、都市の人口が若干少ないってのもあったもんですから、とりあえず出店に関しては見送っていたんですけど、魔道船の就航に関しては打診してみるのもいいかもしれません。
「では、向こうの商店街組合に打診してみるですです」
「うん、悪いけどよろしく頼むね」
と、いうわけで、エレエにこの件を依頼したところで、今日の仕事も無事に終了って感じです。
◇◇
僕が元いた世界では、コンビニおもてなしは24時間年中無休で営業していました。
ですが、今のコンビニおもてなしは試行錯誤の末、朝の7時頃に開店し夕方5時頃に閉店しています。
といいますのも、この世界の住人の方々は夕食の時間を過ぎるとほとんど外出しないんですよ。
酒を飲みたい人々が酒場に行くくらいで、それ以外にはほとんど人通りがなくなるんです。
これでは開店していてもどうしようもありません。
コンビニおもてなし本店と2号店に併設していますおもてなし酒場は深夜まで営業していまして、その店内の一角でコンビニおもてなしの商品を扱っているのですが、急に発熱したとかで薬品を求めに来たり、赤ちゃん用品が急になくなったとかで補充しにくる人々がたまに利用されています。
まぁ、それでも利用者は日に何人もはいませんので、わざわざコンビニ本体を稼働させるほどではないかな、と思っている次第なんです。
で、そんな中で利用の頻度が非常に高くなっているのがスア製の薬品です。
何しろ、この近隣には診療所が存在しないんです。
以前は近くの集落でブリリアンが診療所を開設していたのですが、
「スア様の薬品があれば十分」
とか言い出して診療所を閉鎖して、今はスアに弟子入りすべく日々努力を……
「し、失礼な! 店長殿、私はすでにスア様の一番弟子の地位をですね……」
「……認めてない、よ」
「な!? す、スア様なんてことをぉ!?」
と、まぁ、急に割り込んできたブリリアンにダメだししているスアもいたりしますが……
で、この世界の医療なんですけど、スアのように治癒魔法や薬品を作成出来る魔法使いが診療所を開設していたり、ブリリアンのような薬草学に長けた人種が診療所を開設したりするケースが多いんだそうです。
で、コンビニおもてなしでは、その前者の方、薬品を作成出来るスア製の薬品を店内販売しているわけです。
薬品には、スア製の丁寧な説明書きが添えられていますので、薬を欲しい人はそれを読んで症状にマッチした商品を購入していくのがパターンです。
……ですが、最近ちょっと困っているんですよね……正確には嬉しい悲鳴なんですけど。
この薬品を購入しにやってくるお客さんがどんどん増加しているんです。
スアが薬を作成して店頭に並べれば、すぐに売り切れていく次第なんですよ。
これは、スア製の薬がよく効くと評判になったもんですから、
「ぜひ置き薬に……」
とか考えて、家に備蓄するために多めに買う人が増えたってのもあると思います。
あと、冒険者の間でも
「あの店の薬の品揃えは、マジすげぇぞ」
って評判らしいんです。
そのおかげで、遙か王都からもわざわざウチの店の薬品を買いに来る冒険者がいるほどですからね。
これには、ドンタコスゥコ商会も影響していると思います。
ドンタコスゥコ商会は、月に1度、ウチの店の商品を仕入にきていて、仕入れた商品を王都近くの辺境都市にまで売りに行っています。
で、その辺境都市でスアの薬品を手にした冒険者達が口コミで噂を広めてくれている感じなんですよ。
ただ、そのせいで店頭にない薬を相談されたり、どの薬を飲めばいいのかわからないといって相談してこられるケースが結構増えています。
で、スアは例によって超絶対人恐怖症がありますので、その対応はスア製の薬品をすべて記憶しているブリリアンにお願いしているわけですが、最近ではブリリアンの前に行列が出来てしまうことも少なくありません。
「……う~ん……さすがにこれはちょっと対応を考えた方がいいかもしれないなぁ」
僕は、ブリリアン前に今日も出来ている大行列を見ながらそんなことを考えていました。