親友と合鍵を交換します。
ファミレスからの帰り道、遼と結衣の二人は家電量販店に来ていた。
「お、あったぞ。これだよな?」
「うん、それそれ」
ゲームソフトを手にはしゃぐ高校生二人。
今日は二人が楽しみにしていた、マリオの最新作の発売日だった。
「んじゃ藤くん、それ二つ取って」
「え、二つ?一つでいいんじゃないか?」
「え、藤くんは買わないの?」
「いや、買うけど。そうじゃなくて、俺だけ買ってお前もうちでやればいいだろ」
「・・・・・・」
その選択肢は結衣も考えなかった訳では無い。
でもそうすれば結衣は遼の家に入り浸る事になる訳で。
そんなことに問題は無いはず、無いはずだけれど何だかはばかられたのである。
(まさか私にも、今更遼に遠慮する気持ちがあるなんてね)
結衣は自分のこの感情を、とりあえずそう結論付けた。
「どうした?もしかして、好きな時にやれないことを心配してるのか?それなら大丈夫だ」
そう言うと遼はポケットに手を突っ込み、小さな物を結衣に放り投げた。
「鍵?」
「うちの合鍵だ。俺が居ようが居なかろうが好きな時にやってもらって構わない」
「・・・・・・」
手元の鍵を見つめながら固まる結衣。
いくらなんでも。いや、親友ならこれが普通?どうして藤くんは何ともないの!?
そんなことを考えていると
「どうした?」
遼のその言葉でハッと我に返った結衣は
「・・・・・・何でもない。私もお金半分出すよってこと!」
鍵を握りしめた結衣は明るくそう言うと、レジに向かって歩き出した。
「・・・・・・変なやつ」
遼もそう呟くと結衣の後を追って歩き出した。
家電量販店を後にした二人は、二人の住むマンションの玄関までやってきた。
「今日早速やるだろ?」
「うん、もちろん」
「ん、了解」
それだけ言葉を交わすと、二人はそれぞれの家に入っていった。
遼が自分の家のソファーに座り早速ゲームをやっていると、ガチャりとドアの開く音がした。
(遅かったな)
荷物を置いたらすぐ来ると思っていた親友の到着は、さっき解散してから30分以上経ってからだった。
「やっほ~。あ、先やってるずるい!」
「お前が遅いからだろ」
「うるさい!」
結衣はそう言うと、ドカッと遼の隣に座った。
身体が当たり、フワッと良い匂いが香る。
遼は結衣が服を着替えていることと、髪が少し濡れていることに気付いた。
「シャワー浴びてきたのか?」
「え、あ、うん。ちょっとね」
そうきいてくる遼の耳が赤いように思えた結衣は
あれ、もしかしてやっちゃった?
そう考えた。
先程変なことを考えてしまったので、シャワーを浴びて平常心を取り戻したつもりの結衣だったが、部屋に来る前にシャワーを浴びて来るなんて、逆にめちゃくちゃ意識しているみたいである。
(この雰囲気は気まずい、茶化して誤魔化そう)
「もしかして、エッチなこと期待しちゃった?ごめんね、期待に応えられそうはないの」
「言ってろ」
よしよし良い感じ。これでこそ私たち。・・・・・・合ってるよね?
そんなことを考えた結衣はそのまま、意を決して口を開く
「はいこれ」
「ん?・・・・・・ってこれ鍵じゃないか」
「うん、私だけ合鍵貰ってるのはフェアじゃないからね」
「まあそうだが・・・・・・」
遼としては男の自分の家の鍵は渡しても、結衣の家の鍵を貰おうなどとは考えていなかったのだが、くれると言うなら断る理由もない。
(俺の事を意識していないのは分かるけど、もうちょっと警戒しても良いと思うんだけどなあ)
遼が親友からの厚すぎる信頼にそんなことを考えていると
「これを利用して悪いことしようとしないでよ?」
「泥棒とかか?」
「夜襲いに来るとか」
「来て欲しいのか?」
「・・・・・・うん、実は。ってそんなわけないでしょ?」
「これはまたベタなノリツッコミだな」
よしよし良い感じ。下ネタのひとつも言えないで何が親友って感じだよね。
結衣は心の中でそう密かに頷くと、家から持ってきたコントローラを取り出してゲームを始めた。
「よし、これで一面はクリアだな」
「・・・・・・うん」
そう答える結衣の声は明らかに眠たげなものだった。
(今日は引っ越しの準備とか色々あって疲れたなぁ)
そんなことを考える結衣の意識は段々薄れていき、ついに右隣の親友の肩に向かい、頭が倒れていった。