「さぁさぁみんな大好きドンタ……」「エイト商会でございま~す!」 その1
ドゴログマから戻って来てから、スアがちょっとすごいんです。
いえね、すごいのは以前からなんですけど、それに輪をかけてすごくなったと言いますか……
タクラ家では、料理は僕が担当で、あとの掃除・洗濯・子供の世話などはすべてスアが行ってくれていました。
あ、子供の世話なんかは、僕も仕事が済んだら一緒にやっていますよ、もちろん。
で、何がすごいかと言いますと……その出来上がり具合とでもいいますか……
掃除をすれば、部屋中が文字通り光り輝くまで磨き上げ……
洗濯をすれば、すべてを新品同様になるまで綺麗に洗い上げ……
とにかく、何をするにしても徹底的にやるようになった感じなんですよね。
今までのスアは、家の事もちゃんとやっていましたけど、同時に魔法の研究にも余念がありませんでした。
それはもう、スアの趣味といいますか趣向といいますか、家のことをきちんとした上でやっていることですから、僕も何も言う気は無かったのですが、自らその時間を短くし、家の事をする時間を意図的に増やしている感じです、はい。
その変化の原因が、僕がドゴログマで怒ったことにあるのは間違いありません。
で、その夜、僕はスアとお話をしました。
子供達が寝静まった後、いつものようにスアの研究室へと移動した僕達は、そこにあるスアの元仮眠用の……今は僕とスアがいたすためのベッドに腰掛けました。
「スア、ドゴログマから帰って来てからさ、家の事を今まで以上に完璧にこなしてくれるのはありがたいけど……君が大好きな魔法の研究をする時間を削ってまでして、しなくてもいいんだよ。
今までだって、決して出来ていなかったわけじゃないんだしさ……」
僕がそう言うと、スアはニッコリと微笑みました。
「……あのね、いいの……魔法は好きだし……魔法薬の研究も好き……でも」
そう言うと、スアはベッドから立ち上がり、僕の前に立ちました。
「……わかったの……旦那様に怒られて……私の一番は旦那様……そして家族……魔法は、その次」
そう言うと、スアはいそいそと服を脱いでいきます。
「……大好きをしているから、毎日とても楽しい、の……だから、いいの……」
そう言うと、素っ裸になったスアは、ベッドに座っている僕にのしかかってきました。
「……だから、ね……旦那様……スアを、可愛がって、ください……頑張ってるご褒美、ください……それが、とってもとっても、好き……」
そう言うと、スアは自分から唇を重ねてきました。
……なんと言いますか……ドゴログマから帰って来て以降、こっちの方の積極性も、なんかすごいことになってるんですよね、スアってば。
と、いうわけで、ここからは黙秘をさせてうわちょっとスア、もう少し待っ……
◇◇
そんな、新たな次元のラブラブモードに突入したタクラ家が運営していますコンビニおもてなしに、ドンタコスゥコ商会のみんながやってきました。
いつも月末に到着しているみんなですが、今回は少し遅くなった感じですね。
「いやぁ、それが酷い目にあったのですよぉ」
ドンタコスゥコは、なんか疲れ切った表情を浮かべていました。
「ん? なんかあったのかい?」
「あぁ、ここらの辺境にはまだ情報が来てないですかねぇ……なんかですねぇ、王都で大規模なデモがあったんですよねぇ」
そんなドンタコスゥコの説明によりますと。
なんか、辺境都市リバティコンベってとこの領主夫妻が貴族院の元老院に拉致監禁されているとかで、辺境都市バトコンベの領主が自都市の衛兵達を引き連れて王都に押し寄せたんだとか。
そのデモに、王都に住んでいる亜人達まで加わって、なんか収拾不能な事態が勃発。
たまたま今回、王都への出店の手続きのため、その場に居合わせてしまったドンタコスゥコ達は、王都の衛兵達に拘束され、しばらく身動き出来なくなっていたそうなんですよ。
「そりゃまた災難だったねぇ」
「まったくなんですよねぇ……そのテロのせいで中央辺境局とか都市商店街組合なんかも開店休業になってしまってですねぇ、出店手続き、今月末にもう一回行かないといけなくなったのですねぇ」
そう言うと、ドンタコスゥコはその顔に乾いた笑いを浮かべながらため息をもらしていきました。
ですが
そんな事でくじけきってしまうわけがないのがこのドンタコスゥコ商会なんですよね。
案の定、ドンタコスゥコは、そこまで話終えると
「と、言うわけでですねぇ、今日はやけ酒なんですよねぇ。みんなで飲み明かして憂さ晴らししてですねぇ、また明日から24時間戦うわけですよねぇ!」
そう言い、右腕を振り上げるドンタコスゥコ。
その後方、店の奥で馬車を停泊させていたドンタコスゥコ商会の皆様も、同様に右腕を振り上げました。
すると、その時です。
「あの……こちら、コンビニおもてなし様で、間違いございませんか?」
そんなドンタコスゥコの後方に、1人の女性が立っていました。
冒険者の服装をしてはいますが、どこか気品のあるといいますか上品な仕草の女性です。
肩まで伸びている髪も綺麗に整えられていますね。
で、その女性は、ドンタコスゥコ達の馬車とは別の馬車から降りたばかりらしく、しきりに店内を見回しています。
「えぇ、確かにコンビニおもてなしはここですが」
僕がそう答えると、その女性はドンタコスゥコを押しのけるようにして僕の前にやってきました。
「では、貴方様がこのお店の店長様でいらっしゃいますか?」
「あ、はい……僕が店長のタクラリョウイチですが?」
「まぁ、よかった! こんなに早くにお会い出来るなんて!」
そう言うと、その女性は僕の手を両手で握りしめました。
「私、王都でエイト商会を営んでおりますイエトと申します。本日は折り入ってお願いがございまして王都より参上させていただいた次第なのです」
「お願いです?」
「はい、実はですね、こちらのお店で扱われています魔法薬や龍の鱗の武具をぜひ当エイト商会で扱わせて頂けないかと思い……」
その女性、イエトがそこまで言ったところで、その肩をドンタコスゥコが後方からガッシと掴みました。
「ようよう姉ちゃん、エイト商会だか、タコのはっちゃんだか知らないですけどねぇ、こちらのコンビニおもてなしさんはですねぇ、我がドンタコスゥコ商会が先にツバ付けしてるんですよねぇ」
舌打ちしながら顔を左右に振ってるドンタコスゥコですが……なんかどっかのチンピラみたいですね……
すると、そんなチンピラモード全開のドンタコスゥコの頬を、イエトさんは片手でムギュっと押しつぶしていきました。
で、そのままドンタコスゥコを持ち上げていきます。
片手で、です。
いくらドンタコスゥコが小柄とはいえ、これ、すごいパワーですよ……普通、女性にここまでのことは出来ません……
で、イエトさんは、ドンタコスゥコに顔を寄せると、
「横からうるさいんだよ。こっちは店長さんとお話してんだ。横からギャースカギャースカ言うな、クソが」
そう、重低音ボイスで言いました。
まるで男性みたいな声です。
ん?
この時、僕はあることに気がつきました。
イエトさん……髭が生えてます。
いえ、髭を剃った後のそり残しとでもいいますか……顎のあたりにちらほらとそんな痕跡が……