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万物定数

19回目の宇宙から、21回目の宇宙に飛ばされた少年の運命は?

個性的な登場人物によって、大きく運命が変わっていく。絶望の島と名づけられた宇宙に飛ばされてしまった16人の少年少女は?
全16話
#宇宙刑事ダルク 放送前にツイートしよう キャンペーン!!

という企画を準備していたアニメ会社コタツのプロは大ピンチだ。何と初回放映前に第21話の内容が流出した。・
犯人は裏番組『GDO ザディヴ』スタッフを名乗る人物。まだ二期も未定なのになぜ。
『GDO ザディヴ』を手掛けたのは浜名湖アニメーション プロデューサーの黒井大也だ。本作の特徴としては今どき肉筆の動画、アニマル柄を配し、その動物性素材を用いたカラーリングで制作された、すべてのアイテムを一から書き起こして完成させる、というプロのデザイナーの世界観が一番の魅力だった。
今回のデザイン監修は動物性素材を活かしたアイテムが得意なオモチャ会社ムトウ。さらに、原作漫画家野島さんが描いた色鮮やかな背景を活かしたラインナップにご期待ください!
なんてCMまである。
「俺の番組を潰す気か」
ダルクのプロデューサー中島は怒った。
「いったい誰が本放送は見なくてよいと言ったんだよ」

「21話ネタバレは今すぐTwitterで募集中!」ということで、『宇宙刑事ダルク』の最新話に挑戦しよう! と企画が動き出した。
そして、宇宙刑事チームの新たな活躍が描かれ、第21話「宇宙の行方」のストーリーは完成まであと10%というところに。
「勝手に話を進めやがって」
中島は番組公式サイトで抗議したが何んとGDO側の権利者侵害訴えによりダルクのHPが削除されてしまった 。GDOの黒井大也Pは「お前らこそ著作権侵害だろ」と言語道断な反論をした。
未放映アニメが著作権侵害とはこれ如何に?

◇ ◇ ◇

またしても不毛な争いが起きたのだ。第22回目の宇宙戦争において、人類は異星人達の手によって滅亡した。主な原因は前回の戦争で金河系異星人に蹂躙された白い髪色の|地球由来外生命体《ソロモン》と、地球上に突如現れ、覇権を確立した『始祖生命体《オリジン》』の壮絶なる争いによって始まった。しかし、彼らはそもそも、太古人類に宇宙へと放り出された存在であり塩基配列はほぼ同じである。

第21宇宙戦争後の平和は些細なきっかけで破られた。
ソロモンとオリジンは地球人類の僅かな生存者に紛れて互いの正体にわからぬままま生活していた。だが片方が先に気づいた。
「ソロモンの奴らどこへ行ったんだ。俺たちは異星人を絶滅させる為の研究を怠らないがもしかしてオリジンに同化してソロモンの研究をしていてもおかしくはない」
と、そう思いつつ、試作したばかりのソロモン探知機を稼働した。
すると、目の前にいたではないか!
ソロモンの白髪は主要な遺伝子配列を担っている。黒髪など理論上ありえない。だが、そいつは身の丈三メートルほどに巨大化した。
「なんだ?このソロモン」
居合わせたオリジン達は、人類と同じ外見をしているソロモンに驚いた。
「こんなソロモン見たことがない。あいつらもそうか?」
オリジンの仲間が群衆に探知機を向ける。改良の余地があるらしく測定値が安定しない。根拠の一つに宇宙放射線被曝線量を採用していることも影響している。
宇宙から再輸入された形のソロモンは耐性も強い。
じろじろ観察された一人が言った。
「そんなもん、宇宙船や宇宙ステーションで従事している人間だったら、オリジンかソロモンか分かんないじゃんかよ!つか、俺は地球上のありとあらゆる異星生物の姿を見てきたが、巨大化する人間なんて見たことがない」

すると、嘲笑うかのように、オリジンの一人が口を開いた。
「……お前らこそソロモンじゃないだろうな。巨大化するお仲間を囮というか捨て石にして言い逃れようとしている」
「いや、確かにソロモンは人間らしからぬの姿をしているが、逆にあいつってオリジンの新種をソロモン呼ばわりされるように仕向けて疑心暗鬼を煽ろうとしてんじゃないのか。分断工作と何か違うのか?」
「いや、それってソロモンのことだろ?ソロモンらしからぬソロモンのことだろ?」
「いやいや、だから巨大化するオリジンなんて俺は見たことはないぞ、だからあいつはオリジンとは違う」
「嘘を付くな!ソロモンっぽくないソロモンだぞ、ソロモンって言いながら、オリジンだったらどうすんだ。言うてるあんたらがソロモンだ」
もうわけがわからない。口論の返事が実弾になってもおかしくない。ついに一触即発を招いた。

◇ ◇ ◇
爆発炎上し砕け散る地球を遠巻きに二隻の宇宙船がにらみ合っている。緊急用の小型大気圏往還機《スライスシャトル》で火星軌道より遠くへ行けない。
生存者はそれぞれ一名ずつ。
ソロモンとオリジンだ。
「とうとう俺達だけになっちまったな」
前者がぽつりとつぶやいた。
「で、どーすんだよ女子供は全滅しちまったぜ。そもそもつがいだけでどうにかなるってもんじゃないが」
「朗報がある。ちょうど永遠の謎に答えが出た。地球がハチ割れる前にマリアナ海溝の重量子コンピューターが弾きだしたんだ」
「なんだそれは? 文明はたった今、滅んだところだろうが」
「いいや、これから役に立つ。お前はソロモンの科学力を見くびってる」
「はぁ? 子孫を増やす魔法でも発見したってか」
オリジンが投げやり気味に問う。
「そうだ。人類とは、宇宙とは、神とは、存在とは、争いとは、ありとあらゆる疑問を説明する統一理論を発見した。」
「ほぉ?」
ソロモンの無駄に前向きな好奇心にオリジンは少しだけ関心を示した。こいつは底抜けのバカだ。この期に及んでどんなプラス思考を示すのだろう。そういう下種な興味だ。
「その答えとは、いいか、よくきけ」
「もったいぶらずに言えよ。酸素の無駄だ。もう持たん」
「…」
機内の酸素分圧を知ってソロモンは落胆した。歴史に残る偉業にふさわしいセレモニーが欲しかった。気をとりなおして結論から述べる。

ある定数だ。オッカムの剃刀になぞらえるまでもなく最も単純明快な説明そ宇宙は好む。
仮にこの数値を万物定数とでも名付けておこうか。
惑星の軌道、人間の平均寿命、原子のふるまい、物理法則…ありとあらゆる局面において最大公約数ともいうべき数値が繰り返し出てくる。
いわば森羅万象を解き明かすカギともいえる値だ。
具体的に数式で記すとこうなる。

an =∫(φn)∗Ψd3~r = hn|Ψi

これをある解法に従って展開すると7とか3という素数がでてくる。
「7?3? どこかで見たような数字だな!」
オリジンの声がうわずった。
「そうだ。ラッキーセブンとか三位一体とか」
「数秘術かよ!」
「俗っぽく言えばそうなる。7×3=21だ。もちろんそれが極値ではなく7とか3という数字が色々な桁に頻出するというわけだな」
「それってどういう」
オリジンは仰け反った。
「宇宙をデザインした奴の嗜好かな。とまれ、万物定数が宇宙の真理だ」

それはともかく酸素が逼迫しているシャトル二隻で何ができるというのだろう。
ソロモンは落ち着き払って言った。
「お前もそろそろ気づいているだろう。宇宙戦争の回数だ」
ようやくオリジンもおぼろげながら察したらしく声を震わせる。
「そ、そうか。何となくわかったぞ。22回目の戦争は万物定数に反するんだ。停戦すれば…」
そこにソロモンが力づよい主張をかぶせた。

「いや!停戦しちゃ元も子もない。戦争を変えるんだ」
「変えるいうと?」
「遂行目的を上書きするんだ。具体的には共闘だ。真の敵に団結して挑むんだ!」
「わかった。そいつというのは」
「シャトルの武装はどれだけのこってる?」
ソロモンの期待にオリジンは熱く答えた。「実は小型開闢爆弾《ミニビッグバーナー》を隠し持っている。単騎で貴様らと刺し違えるためだ」
地球由来外生命体はフフフっと苦笑する。
「ようし!その意気込みだ。シャトルの射撃統制装置をリンクしろ。ありったけの残弾を撃つぞ!」
二つの砲門が開いた。星の海に向けて射線が集中する。

◇ ◇ ◇
「おおおおう! いいぞぉ…その調子だあ!」
中島は受話器を握りしめ、声帯を震わせていた。
「だろう? この万物定数はいけるぜ。実は野島先生のアイデアなんだ。うちのスタッフに人工知能記述言語《パイソン》に詳しい奴がいてテストプログラムを作らせた」
黒井は言葉巧みにライバルを釣る。
「結果はどうなんだ?」
「…お前の期待以上だよ。21というパラメーターをテストプログラムに入れてみたんだ。実際、いろいろ試行錯誤した結果、この値が一番いい。するとだな! GDOとダルクを元ネタにして無尽蔵に脚本がアウトプットされるんだ。SFから江戸人情ものから純文から異世界転生まで何でもござれだ! こいつは大発見だぜ。AI、野島先生さまさまだ」
そこで中島はあっ、と驚嘆した。
「もしかして、お前?」
「そうだ。宇宙刑事ダルクもGDOも畑は違えどキラーコンテンツになる」
「参ったな…」
中島はシャッポ―を脱いだ。巧妙な陽動作戦だったのだ。
まぁ、いい。二人は将来的な経営統合を含めた契約書にサインした。

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