俺はいろいろ聞きたくって
ということで、俺とルースはディナレ教会へと向かうことになった。
やることはといえば、ロレンタとアスティへの聴き込み。それと例の酒の調査ってところか。
「こうやってお前と二人だけになるのも久しぶりだな」
教会へ行く道の途中、まだ険しさの残る顔のルースに俺は話しかけてみた。
「……ですね」うん。やっぱりつれない。
「俺はさ、ちょっと嬉しかったんだ。お前が俺のことをさん付けで呼ばなくなったことに」
別に苦手とかじゃない。けどルース特有の丁寧さがいつも気になっていただけなんだ。
「嬉しかった……んですか?」
ああ、と俺はにっこりうなづいた。それに今まで自分のことを私と言ってたのが、いつの間にか僕になってたこともだ。
「ラッシュ……変なトコに気付きますね」だんだんとアイツの顔にちょっぴり柔らかさが戻ってきた。
「確かに僕はずっと、ラッシュに少し遠慮していたのかも知れない。でも分かったんだ……それこそ僕自身の身勝手さだったってことに。だから思い切ってラッシュって呼ぼうと決めて……」
うん。コイツの理屈っぽい物言いは相変わらず理解不能だ。っていうかそんな解釈、俺には必要ないんだよな。まあタージアは別にして。
……じゃねえ、あいつのこともいろいろ聞いてみたかったんだ!
「タージアとは一体どういう関係だったんだ?」
唐突に変化した質問に、ルースも驚いていた。
「唯一僕が心を全て許した女性は、後にも先にもマティエだけさ。タージアは……僕にとっての最高の助手だった」
助手か……つまりは研究のパートナーだったってワケか。
「毒物の効果さ。作ったものを彼女に投与して確かめるんだ」
!? それって、つまり……
「実験さ。彼女は特殊な体質でね、かなりの毒素に耐性をもっている。つまりは……ッッ!」
俺は反射的にルースの胸ぐらを掴んでいた。
彼女の身体を実験に使っているのか!?
お前はそんな事をして非道だとは思ってないのか!?
それが……助手としての役割だってのか!?
確かにコイツは時たま涼しい顔して殺しの話とかしていたが、まさかタージアをそんな目に遭わせて……!
「ラッシュ、勘違いしないでもらいたい。彼女は自ら進んで試しているんだ。合意の上さ。それに僕だって同様の体験をしてこうして生きてきた。だが僕と彼女の体質は違う……お互い補完しあっての実験だ」
ルースは眉一つ動かさずに淡々と説明してきた。分かる。これが……いつものコイツだってことも。
「別に僕を憎んだって構わない。けど僕はタージアを信頼して、彼女も僕を信頼していた。あとで聞いたって構わないさ……聖母ディナレに誓って嘘はつかない」
ここまでコイツが言い切れるのには、確固とした自信があるってことか……まあ、後でタージアにも聞いておくかな。
「僕もこの家系に生まれて、あらゆる毒に耐性を持つために、師から、そして親にいろんな毒を盛られたんだ……何度も死にかけたよ。でもそのおかげでこの世界の様々な毒を身体で知ることができたのさ。そのかわり……」
最後、言おうとして慌てて口をつぐんだ。なんだ一体?
「僕は修行で、彼女は生まれつきの体質……正直、彼女がちょっぴりうらやましい」
悪かったな、と俺は手を離した。
ルースにも抗えない辛い過去があるんだな……それに今までコイツの生い立ちなんて全く聞いたことなかったんだし。
そうしているうちに、相変わらずぼろさの目立つディナレ教会に俺たちは到着した。
さてさて、まずは何を聞き出せばいいのやら……
薄暗い奥の広間では、いつも通りロレンタが祈りを捧げていた。
「いらっしゃいませラッシュさん。この前は目が覚めたら突然帰っちゃって……すごく心配したんですよ」
そうだった。秘蹟で見た母さん……じゃないディナレの姿を思い出して、俺は何も言い出せずに帰ってしまったんだった。
「それで、今日は聖女であることをお認めに「違う」」
やっぱりいつものロレンタだった。