それは仕事とは言わない
いわゆる「ちょっとあぶない」性格ってやつだろうか。あのタージアってのは。
引っ込み思案なんだかずっとジールの陰に隠れてたと思いきや、唐突に俺の身体の匂い嗅いで安心できると言ってくるわ、挙げ句の果てにエッザールとトガリを解剖したいと暴れるわでもう……
そのくせ食事の時は肉がダメとかでいつもサラダばかり食べてるんだ。せっかくトガリが歓迎会だとかで美味いメシ作ってくれたっていうのにな。
「そういう人けっこう増えてきたよ。菜食主義って聞いたことがある」とかトガリは言ってたな。これも時代の流れなのかな……知らんけど。
そんな彼女のおかげで、てんやわんやの一日が過ぎて。
「喜べバカ犬。仕事もらってきてやったぞ」
テーブルの上に突っ伏して寝ていた俺のところへ、ラザトが一枚の紙をチラつかせて帰ってきた。
「へ、マジで?」
「依頼主はあの娘だ」と、食堂の奥を指さした。
……って、えええ!? なんでタージアが?
「公式の依頼じゃないけどな。あの新入りが自分の研究で使う薬草の採集をしたいんだそうだ。でもって護衛ってことでお前とエッザールを雇いたいって話だ」
久しぶりの依頼ってそれかよ! なんか一気に力が抜けたな。けど……
「報酬はあるのか?」と、とりあえずダメもとで聞いてみた。
「ンなもんあるか。かわいい新入りの頼みくらい無料で聞いてやれよ」ほらやっぱりな。この前の人獣討伐の件にしかり、いいかげん無料で働くことが多くなってきちまって、仕事と言われても実感が湧いてこないしやる気すら起きてこない。
「あと俺からのお願いだけどな、トガリとチビ、それと俺のガキも連れてってくれないか?」
「え、それって危険じゃないのか?」
タージアが話すには、護衛とは言ってもあくまで【自分とジールだけで行くには心細いから】って理由だからだ。ちなみに場所はここからちょっと離れたところにある渓谷。俺の家の裏庭を流れている川の源流らしい。そこにある滝の近くでしか生えないいろんな野草を採りに行きたいんだとか。
「結構開けてていいところだぞ、空気もうまいし。ここ最近家の中だけで退屈してたんじゃねえか?」
だからチビを連れてけってことか。それと修業ついでにフィンも同行させてくれ……っていうのがラザトのお願い。
一応は俺の家だ。勝手に模様替えしたり売り払ったり財産持ち逃げなんかやったら、地の果てまで追いかけてブッ殺すぞと念は押しておいた。
そう。まだ……ね。トガリも俺もラザトには絶対の信頼なんて置いてはいない。親方の遺産の話もしてないしな。だからトガリは別の信頼筋に預けてあるってこの前教えてくれた。その方がいい、カネは人を簡単に変えるしな。
もちろん保護者のジールも同伴。ある意味チビと俺との関係に似てるし。つまりは俺とトガリにエッザールとチビとフィンで、総勢7人ってことか。
「まるで家族旅行だね」なんてジールは俺に話した。けどあいにくと俺はそういう楽しい過去なんてものは全然持ち合わせちゃいないから、こういうの自体生まれて初めてなんだよな……
そうそう、タージアの研究っていったい何なんだ?
「ルースと似たようなものよ。あいつは暗殺に使う毒薬を研究して、そして調合していろんな人に売っていたけどね」
けど彼女の場合は違う。人を治す、そして生かす薬も作っていたんだそうだ。つまりはその延長。
「将来は薬屋を開きたいんだって。傷薬はともかく、病気に効くのとか気力体力を高めたりとか、そういったものも売っていけたらなって」
つまり、それは……
「彼女の……ルースに対する、ささやかな復讐。なんだってさ」
ジールはくすっと笑って、そう話してくれた。