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どうせ死んじゃうんだから  
医者から余命宣告された。
「何時死んでもおかしくありません」  
「最悪明日かもしれません」
そうは言われても実感がない。  
はぁ、と気の抜けた返事しか出来なかった。
「私死んじゃうのか」  
改めて口にすると少しだけ焦りを感じた。
「私何もしてないわ」
好きな人もいない友人も、家族も毒気味。  
私を必要としてくれる何かなんてなんにもない。  
すぐに忘れられてしまうに違いない。  
何もしてない誰の記憶にも残らないまま背景として消えていくのか。  
そんなの 「なんかいやだな」
だから行動を起こすことにした。  
どうせ死んじゃうんだから最後くらい好きにしたっていいじゃないか。  
どうせ死んじゃうんだから  
顔色を窺うことをやめた。  
少しだけ緊張したけど思ったより周りは何も変わらないようで安心した。  
ただ変わらないというのもよいことばかりではないようで
「急に態度変えてムカつく。いつもみたいにオドオドしてろっつーの!」  
そう言いながらいつも私への当たりが強い同僚達がが絡んでくる。 思わずビクッと肩がはねる。
「アハハ、ひびっちゃってるじゃーん」
「かわいそー」
「ばーか。ちっともそんなこと思ってないくせに。じゃあいつも通りこれやっといてよ」  
ドサリ、と目の前に次から次へと書類が積み上げられていく。  
これまでなら怖くてやってしまっていたけど  
どうせ死んじゃうんだから  勇気を出してみることにした。
「……あ、あのっ!!」  
裏返ってしまって素っ頓狂な声色だったがそれに不機嫌そうな顔をした同僚達が振り返る。  
どうせ死んじゃうんだから
言いたいことを言うことにした 「自分の仕事は自分でしなきゃいけないとおも、思います!」  
す、すみません!!!とついいつもの癖が出てしまった。
周りの顔色を窺うことをやめようと思ったのになかなか難しい。  だけど少しだけスッキリした。  
周りはざわついている。  
それもそうかいつも唯唯諾諾としていた私が反抗したのだから。  そういえば皆私の扱い知ってて助けてくれなかったな。  
それなら  
どうせ死んじゃうんだから  
ブラックな会社を辞めてやることにした 「退職?どうしてやめられたら困るよ!!!」   
仕事が回らなくなる、と上司に言われた。  
引き留めようとしているがこの人も助けてはくれなかった。
寧ろこの上司が気が弱く同僚達に注意できないばかりか私のあの扱いを肯定してたからこそああなったのだ。  
そう思ったら、次々と理不尽な扱いをされてきたことを思い出してなんでこんな思いしてまで働いているんだろう。
そう思ってしまった。 
どうせ死んじゃうんだから  
我慢をやめることにした
「もー無理です。お世話になりました。あ、有給たまっている分消化させていただきすね。権利ですし。」
そのまま会社を退社して伸びをする。  
ああこんなに清々しい気分は何時降りだろう。
いつも仕事仕事だったからなあ。  
そうだ!  
どうせ死んじゃうんだから  
親と絶縁した。  
私は私の人生を生きてみることにした。   
どうせ死んじゃうんだから  
好きなこととやらを見つけることにした 「今まで趣味とかもてなかったし」  
母親が私物を探り勝手に捨てたり、交友関係を管理するような人だったのでなにかに興味を持つことをやめていた。  
どうせ死んじゃうんだから 昔欲しかったものを大人買いしてみた。  
凄く満たされて童心に返った気持ちになって一日中それを見ていた。  
捨てられないって素敵で幸せなことだと思った。  
どうせ死んじゃうんだから 思い切っておしゃれというものをしてみた。  
こんなに自分は変われることに驚いた。    
どうせ死んじゃうんだから  
旅行に出てみた。  
景色って世界って綺麗だと思った。  
どうせ死んじゃうんだから  
色々なことに挑戦した。
嫌なことはまだまだあるけどそれ以上に楽しいって感情が勝って気にならなかった。  
笑顔が自然に出てくる。  
そんな時に初めて異性から可愛いって言われて照れくさくなって身もだえてしまった。  
どうせ死んじゃうんだから  
どうせ死んじゃうんだから  
どうせ死んじゃうんだから    
そう思って過ごして初めて人生が楽しいと思えた。  
さて明日は何をしよう。  
どうせ死んじゃうんだから  
いい夢を見てそれからいきたいな。  
そう考えて眠りにつく。  
明日もいい日でありますように。  
そうして私は最期を迎えた。

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