食堂のお姫様 2
「な……なんでじゃラッシュ? お主にとって有益な情報を持ってきたのだぞ……第一お主」
「だからそんなモンいらねーって言ってンだろ!」
つい言葉を荒げてしまった。いや分かる。相手はまだ年端も行かない女の子だ。
だが……なんだろう。どうも心の奥で許せない、言葉に言い表せないモヤモヤが。
「これは俺とマティエとの問題だ。お前は入ってこなくてもいい。それに……」
そうだ、許せないワケ。
「一国のお姫様が、自分のお抱えの騎士を懲らしめるって……いいのか? それ」
だってそうだろう? ネネルは別に被害者でもなし。助けてくれるならいいとしても、姫様交えて懲らしめるのは、もはや苛めなんじゃないのか?
「いや、だから、その、妾はお主を助けたいのだ……な? こんなつまらぬ諍いでお主を失いたくないのだ。だからこうして……」
「必要ない。お前は万人に愛されるお姫様だろ。だったらこんな場違いなトコに遊びに来るな。とっとと城に帰れ」
「ラッシュ……わたしは、お前のことが好……」
「帰れ!!!」
怒鳴ることはなかった……だがこうでもしないと、いつまでたってもこの女は俺のところに友達感覚で事あるごとに入り浸ってしまうことになるだろう。
あっちは……一応中身は違うけどお姫様で、俺は生まれてこの方何千も敵をぶった斬ってきた傭兵なのだし。
生き方が、いや、全てが交わってはいけない存在なんだ。いい加減このじゃじゃ馬に分からせてやらなければ。
これでいい。一発ビシッと言えたことで、俺もだいぶ落ち着けたし。
「わ……るかった……」泣いているのか、小さく震える声がそっぽを向いた俺の背中から聞こえた。
この国の未来を担う偉い奴が、こんな薄汚い場所になんて来てはダメなんだ……俺はネネルに悪いなと言う気持ちを押し殺し、ぐっと黙っていた。
……んだ、が。
「おとうたん、なにやってるの……?」
チビだ! ヤバい。俺の怒鳴り声に目を覚ましちまったのか!
俺はネネルの顔をなるべく見ないように、いそいそとチビをまた二階の寝室へと連れ帰らせた。こいつにこんな修羅場見せたくないしな。
だが……
「おねえたん?」
「な……お前……!?」
ちょっとまてチビ。ネネルはお前のお姉さんじゃねーぞ! それに突然言われたネネルの方も驚いてるし。
「ねねるおねえたん……?」
しかしチビの寝ぼけた口が、いま、確かにそう言った。
「ネネル」って。
つーかこいつ一体どこでネネルの名前知ったんだ? 盗み聞きしてたのか?
そうして、バツが悪そうなままイーグは外へと出ていった。驚きを隠せない姫の手を引いて。
俺に子供がいたってことにショック受けたのかな……いや、これでいいんだ。
これでもうあのわがまま姫は俺のことをすっぱり諦めてくれるだろう。
二度と会わなくて済むんだ……