むかしむかし、あるところに正直者のお姫様がいました。
お姫様は、庶民からあまりに多い税金を搾りとる貴族たちを次々と処刑しました。
なぜなら権力を理由に自分たちだけ得しようとする人々が許せないからです。一生懸命働く庶民たちがかわいそうだと思ったからです。
それでもお姫様の手から逃れ、生き延びた貴族は少なからずいました。
ひとりは搾り取った税金を元手にギャンブルに狂いました。
もうひとりはもっと贅沢をしたいと、傭兵を雇って他の領地を襲いました。
あとは酒に溺れ、絶え間なく煙草をくゆらせ、
「俺だけは、私だけは、庶民に施す普通の貴族だ。」
と、どう考えても普通ではない頻度で、自らにそう言い聞かせるかのように喚くくらいでした。
そうしてひとり、またひとりと壊れていきました。
その結果、街をうろつくのは虚ろな目をした貴族たち、食べ物を乞う庶民たちばかりになりました。道理で国が傾くはずだとお姫様は怒り狂いました。
この私が国を立て直してみせるとお姫様は立ち上がりました。お姫様は自ら剣を取り懸命に戦います。
当然ですが、お姫様がひとりで躍起になったところでうまくいくはずがありません。
そうです。何もせずとも甘い蜜を啜って生きられると知ってしまったから、国のことを考える貴族なんかだーれもいなくなってしまったのです。お姫様のお父様もお母様も___つまりは王様も王妃様も、それは同じでした。
お姫様は処刑しました。何度も何度も。
けれど足りませんでした。
どんなにむごい殺し方をして見せても、狂ってしまった貴族たちは、
「最期の瞬間まで楽しみましょう。」
と、処刑の直前まで踊っていました。
『私が何もしなければ、民は楽しそうに踊っているではないか。』
お姫様はぼんやりとそう思いました。
『自分が間違っているのではないか。』
そう、思いました。
瞬間、ぱん、と大きな銃声が響きました。
「この、人殺し!」
鈍く黒く光る銃を構えた男が吠えました。
お姫様の胸からどくどくと流れる赤い血と、男の野次に、あたりは拍手喝采でした。
『私が信じたものは、民の幸せとは、一体なんだったのだろう___。』
お姫様は静かに目を閉じました。