マルデ攻城戦 2
周りが一気にざわついた。ラザトのやつも口が半開きのままだし。そんなにすごいのか「まるで」って。
俺だけだ、なんでみんなこんなアホ面してるんだよって思ったのは。
でもって、6人。「俺は今回抜けさせてもらうわ」って言って去ってたのは。以来そいつらの顔にお目にかかったことはない。
「もらえるカネはどれくらいだ?」名前すら聞いたことない一人の人間が親方に尋ねた。
「ああ、成功報酬はな、一人頭10ナッドだ」
「うっわ! そんなにもらえるのかよ! 5ナッドありゃここに家が一軒建てれんじゃん!
ラザトがひときわデカい声で驚いてた。しかしもらったカネなんて全部親方に渡してた俺は……ナッドの価値なんて知らないまま。
「ンで、兄ィの取り分はいかほど?」
「4でいい」
「死ぬ気なんだけどな。割が合わねーぞ」
「そういうと思った。なら3だ」
「それと、こいつ連れてくの?」ラザトが俺を指さした。まあ俺の方は場所とか賞金とかなんだっていいからとにかく行きたいって思いでいっぱいなんだよな。
で、ホラきた。親方の顔が迷ってるし。
「おめーは今回行くな。まだ危険すぎる」
「え、なんでさ? カネいっぱい入るんでしょ? 親方喜ぶじゃん」
確かにそう言われて喜ばない奴はいないよな。でも親方の場合は違ってたんだ……
「おめーはここじゃ一番の稼ぎ頭だからな。だからってみすみす死にに行かすようなトコに連れて行きたくはない」
大事だったんだ。俺の存在が。
それに俺もあの頃は恐怖心なんて全く存在しなかった。純真なバカそのものだったんだ。だからこそ親方のためにいっぱい稼いで喜ばせてあげたい一心だった。
「え、親方の言ってるコト、おかしくね?」
だから、あの頃バカだった俺でもそれなりの反論はできたんだ。
「前に言ってたじゃない。死にに行かせるのが俺の仕事だ。って。俺を死にに行かせるんじゃないの? 今回の仕事で」
「それと、これとは……」だろうな。今の俺だってそんな馬鹿な矛盾点を指摘されちゃったらそれなりに悩むさ。
まだ鮮明に思い出せる。マルデの戦いはそれだけ死と隣り合わせだったってことに。
しょうがねえな、と親方は大きくため息をついた。
「ラザト、指導料含めて8やる……向こうでこいつを死なせてやってくれ」
「おうさ! けどなんか兄ィ弱気じゃね? 文句の一つくらい言わねえと」
「ああ、このバカ犬に少しでも死ぬ思いをさせてくれればいい。コイツはそういった感情が一切ねえんだ。ここでギリギリの恐怖を味わわせてやってくれ」
「いいのか? ヘタしたらトラウマになっちまうかもよ」
「それもまた勉強になる」何にも知らない俺の頭を、親方はバンバン叩いた。
「おめーが俺に反論するなんて初めてかも知れねえな」そう言ってにっこり笑った親方の顔。いい笑顔だったな。
………………
…………
……
あれだけ豪語したのにもかかわらず、今回行く面子は結局ラザトと俺の二人だけだった。
あの時のラザトも、死にに行くっていう感覚が希薄だったのか……それとも、カネの魅力の方が上回ったのかは今でも分からない。今みたいにあいつは酒なんて飲んでなかったしな。それに世話好きだったし。
「ラザト、死ぬってどんな感じ?」
「バーカ、ンなコト知るかってーの」
寝るまで終始こんな愚にもつかない会話だったっけな。でも覚えてる。あいつは結局その日一睡もできなかったってことを。