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ジールはハグ魔

養子というと結構いい響きするが、要は戦場で偶然拾ってしまった子供。それがなんの因果かすげえ俺だけに懐いてしまって、離れようにも離してくれない状態が今のいままでずっと続いちまってる……‬ワケなんだよな。
「いい話じゃないですか。ラッシュさんの人柄がよくわかりますよ」
そっか? お前も見た通り、相手は迷わず真っ二つにする男だぞ俺は。

それからラザトの息子のフィン、今は仕事に行っちまってるが、厨房担当の仲間であるトガリの紹介も忘れずに、だ。
「アラハスのご友人もおられるとは、やはりラッシュさんは只者じゃないですね!」
いや、そう感心されてもな……‬他に仲間なんてルースとジールしかいないし。それにルースはここ最近城に居っぱなしだからあまり会話もしてないし。
つーか……‬あいつだけずいぶん遠い人になっちまったな。結構さびしくなったな。

「あれ、ラッシュもう帰ってきたんだ」2階から聴き慣れた声。ジールだ。あいつなんでウチにいるんだ?
「ちょっと前にここに、城からの伝令が来たんだ……‬討伐隊が全滅したって」ラザトが俺にそう告げた。なるほど。俺たちの死亡報告にわざわざ来たのかい。
「ちょうど私もここで泊まってたんだけどね。けどウソだって直感したのよ。ラッシュは絶対死ぬワケないって」
おいジール。どういう理由だ。
「だーってー。ラッシュっていままで死んだコトないし。ラザトのおやっさんも同感だって」
全然理由になってねえし。つーかマジで死んだら一体どうすんだ。
とっとっと軽いステップで階段を降りると、チビ同様ジールも俺に抱きついてきた。
「ほーらね。ラッシュ生きてんじゃーん! だからあえてチビにも伝えるのはやめといたの」
なんだジール……‬こいつ酒でも飲んで……‬ないみたいだ。息が全然酒臭くない。
「あたしね。ラッシュが死ぬときは世界が滅亡するときだって思ってるし」頬をすり寄せ、まるで寝起きのようなふんわりとした声で俺の耳にささやきかけた。
この前のキツい物言いの彼女とは全然違う。女は性格が秒単位で変わるぞとラザトは以前そう言ってたが、なるほど今のこいつがそうか。

「えっ……‬!」横目でチラリと見ると、エッザールが……‬固まっている。
「は、じ、め、ま、し、て。私はエルザルド(略)と申します」
「長い名前だねー。となるとあなたシャウズ辺りから来たの?」
「ご、ご名答、で、す……‬」
「ラッシュをよろしくねー、私の名前はジールってんだ」と言ってジールは今度はエッザールに抱きついた。
「こここ困りますジールさん、出会っていきなり抱きつくだなんて!」コイツの肌は緑色だから分からないが、人間だったら絶対真っ赤に染まっていただろうな。

なんかコイツ時折ハグ魔にでも豹変するのかな。なんて思いつつもこうやってうろたえるエッザールも見てて楽しいと思い、俺はしばらくの間この二人を遠目で見ていた。
「じーるなにやってるの?」
「新人へのご挨拶だ」
「しんじん?」
「ああ、コイツ今日からしばらくここに泊まるから、仲良くするんだぞ」

ようやくジールを引き剥がして気づいたんだけど……‬こいつまた寝てるじゃねーか。
「ああは言ってるけどな。あいつ心細くてずっと眠ってなかったんだぞ。察してやれ」
相変わらず酒臭さを振りまいているラザトが、俺にそっと告げた。
そうか、安心したのか……‬さっきと一変して、テーブルに突っ伏してすうすう寝息を立てている。

口ではなんだかんだ言ってても、やっぱり心配性なのかな……‬って、エッザールはいったいどうした!

……‬こいつはこいつで、立ったまま気絶していた。

「お前以上に女性への耐性ないのかも知れねえな」
「ああ、結構堅物なんだな」

エッザールか……こいつが来たおかげで、また毎日が面白くなりそうだ。

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