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学院の休院

 次の日の学院にて、男爵クラス女子寮寮監オランジェより戦争状態に突入した事についての説明がなされた。

「火蓋が切られた。既に隣国は戦闘状態にある。元々隣国の防衛支援として出兵する予定はあったのだが、何故か宣戦布告を叩きつけられてな。よって先行部隊として、ハトラー伯およびクロード男爵率いる部隊に急行してもらっている。あちらの王族とは顔馴染み故、素通りし易い面も考慮した」

 鬼将軍と右腕の急行に、さぞ隣の国王は震え上がっただろう。まぁ味方として来るのなら頼もしいかも知れんが。クラスはざわついているが、当事者とも呼べるフローラは落ち着いている。

(わ、きゃ、ねえだろっ!)

 あ、目がぐるぐるしてた。

(お父様、お祖父様、どうかご無事で!)

 え? これは本当に喪女さん?

(居るかどうかもわからないけど、もし神様が居るのならお願いします。二人を守って……)

 おーい、からかえない喪女はただのモテないだけの喪女だぞー。

(おんべいろしゃのーまかぼだらー……)

 あ、壊れ始めた。駄目だなコレは。どうしようもねえ。既に教室でも何か役割があるのか、チラホラと姿が確認できない人物も居る。喪女さんはテンパってるから気付いていないようだけど、ベティ・バモンも居ないな。……何気に誘拐される組じゃないのか?

「ふぁっ!?」

「……どうしたフローレンシア・クロード?」

「うあいえっ!? ……パーリントン夫人はベティとバモン君が居ない理由をご存知でしょうか?」

「 !? 」「 ! 」

 沈黙を保っていたメイリアまで超反応した! ミリーもオロオロしている!

「ふむ……エリザベス・パルクロワについては今回一士官として軍を率いる事が既に決まっている。故に早々に軍部へと召集された」

「「(あんぐり)」」

「えっ? えっ??」

 喪女さんとミリーが放心した! ミリーは淑女力を取り戻して! メイリアは現実を把握できていない!

「バモン・グラジアスに関してはメアラの言葉以外に確認が取れていないが、自領へと幽閉したそうだ」

「ふぇっ!? 幽閉??」

「「(パクパク)」」

 喪女さんとミリーは何を得たのかコイになる! ……ツッコミ不在でつまんないのです。恋か? 鯉か? って期待したのにさー。

「少なからず同級生がこの戦争に役割を得たと聞いて、えらく張り切っていたそうだからな。世継ぎが生まれるまでは戦場に出してなるか、という判断だと聞いている。そこだけを聞けば、男爵家では珍しいかも知れんが貴族としては分からぬ対応ではない」

「そそそ、そうです……ね」

「「………………」」

「暫くの間は学院は休院となるが、各々やるべきこともあるだろう! 帝国貴族として恥じぬ様努めよ!」

「「「「「はいっっ!」」」」」

 ザ・軍人ですね。ってか、この人も投入されるのだろうか?

「………………パーリントン夫人」

 あっ、喪女さんが反応した。聞こえてはいるみたい。

「なんだ?」

「夫人も戦争には参加されるのでしょうか?」

「私もメアラも例外ではない。命があればすぐにでも出立する」

「……どうかお気をつけて」

「人事ではないぞ? フローレンシア・クロード」

「え?」

「万が一帝国内に攻め入られたとなれば、帝国に残るお前達が立たねばならぬ。戦争終結の宣言がなされるその時まで、決して気を抜くなよ」

「……分かりました」

 こうして重苦しい雰囲気のまま、エスペランサ学院と離れる事になったのだ。


 ………
 ……
 …


「そぉ。ゼオルグ様とマクシマス様が……。フローラ様もお辛いわねぇん」

「うん……気が気じゃなくって……」

「だからって飛び出しちゃったりしたら駄目よぉん? 私との訓練で、騎士科のベイビー達とも見知った仲でしょぉん? 行く時はちゃんと、声かけてくれないと拗ねちゃうんだからぁんっ☆」

「うん……分かった。頼る……」

「うふふ、良かったわぁ♪」

「………………おいミリー、どうなってんだアレ」

「分かりませんわ……。あれ程毛嫌いしていたのに気持ち悪い位素直にやり取りしてらっしゃいますわね……」

「多分、お父様とお祖父様が真っ先に戦場に駆り出されたことで、凄く不安定になってるんだと思います」

「そうなのね……。ねえ、ミエ?」

「何だ?」

「貴女はその……もうこちらの家族に慣れました?」

「……まだだな。いや、本体の方の家族愛に、心は少しずつ寄せてる感じはしてるから、大事には思う。が、フローラ程に落ち込めたりはしないと思う」

「そうよね……。ちょっと羨ましいわ」

「……何を馬鹿なって言いたいが、そうだな。こいつ家族になれて……いや、もうなってるんだな」

「やぁ済まない、待たせたね」

「はっ! グレイス様! ……とベルとガイア?」

「あらグレイス様、さほど待ってはおりませんよ」

「そうか。今4大家が出払っているからね、代理として私が仕切らせてもらうことになった」

「ではらう……?」

「やぁフローラ……って、どうしたんだい酷い顔色だぞ? 大丈夫かい?」

「あ、いえ……」

「ふむ、鬼将軍達の事か……。軍人の家の子としては慣れろと言われるだろう。しかし君の反応の方が私は自然だとは思う。ただ、その憔悴ぶりは家族を不安にさせてしまうかも知れないよ?」

「そう……ですね。はい、そうですね」

「うむ。顔色が少しだけ良くなった。4大家についてだが、光魔法の使い手が十全に魔法を使うためには、帝国領であることが重要だ。故に、同盟という立場を最大限利用した、仮陣地の設置に出立したのだよ」

「仮陣地ですか?」

「隣国ベルタエルの平野に、我が国が借地する形だね。そこを一時的に領土として拡大解釈し、光魔法を十全に使える状況を作り出す」

「ああ……それはゲームにない設定だな」

「でもほら、自国から離れれば離れるほど弱くなるシステムの理由、と考えれば?」

「ああ、あったな。あれは遠征の疲れから来るものと思っていたが、光魔法を使える使えないの関係だった、と考えられるのか」

「でもそう考えると、とレアムはどうなるのかしら?」

「レアムは戦意の高揚そのものを戦力に加算する、独自の特異術式だったと思う」

「じゃあ、普通に戦闘や長期移動に伴う気疲れが原因ね」

「ふむ。そちらの事情は私には分からないが、げぇむとやらの絡みでいずれ君達3人にも出てもらう可能性がある。そうだったな?」

「ええ」「はい」「(ゴクリ)」

「近日中に君達が率いる部隊と引き合わせる予定だ。心しておいてくれ」

「分かりました」「了解です」「(コクリ)」

「げぇむの関係ではフローラが出陣することは無かったとの事だが、現実はどうなるか分からん。君は特に勇者であるという側面があるため、遊ばせる事もできないだろう」

「わかって、ます」

「それまでは気の知れた者達と一緒に居るが良い。ほら、ベル君もガイアが戻ってきたのだからシャンとし給え」

「ご面倒をお掛けしましたお嬢様。もう大丈夫です」

「グレイス様、面倒……って何です?」

「ああ、ベルミエッタ。それがな、ガイアが墓所に留まってから3日程でもふもふが切れたらしくてね……。一人でガイアの所まで来たらしい。モモンガも連れて。しかし彼女の魔力ではモモンガは腹が膨れず、やむなくサイモンが給餌していたんだ。すぐに私も駆けつけたんだが……」

「二人きりになんてさせてられませんものねっっ!」

「おおぅ? はっ!? ああ、うっうぅん。そ、そうだね?」

「はぁはぁ、声が上ずっちゃったりしてグレイス様尊いわぁ……」

「……私はエリのそういう所だけは慣れん」

「あら、私は王道が好きなだけなのよ」

「それは……乙女ゲーやる観点から考えるとどうなんだ?」

「……ねぇん? グレイス様ぁ?」

「何だい? サブリナ君」

「私達……私とフローラ様はハトラー邸に引けても良いかしらぁん? フローラ様の知識で必要な事とか今は無いんでしょぅお?」

「そう、だね。では何人か付けるから……」

「大丈夫よぉん。騎士科のベイビー達を連れて行くからぁん。ベルちゃんとガイアちゃんも来るでしょぉ?」

「はい」「がうっ」

「……ならば良いか。ベル、ガイア、フローラ嬢を頼んだよ?」

「お任せを」「がうっ」

「……んまぁ、私は半端者ですものねぇん☆ そっちに頼るのは致し方ないわねぇん♪」


 ………
 ……
 …


 化物が消えたので、俺、復活! でもフローラが居ねえ! あんにゃろついていきやがったチクショー! ……寂しい。

「さて。フローラがこの場に居なくなったからこそ話せる事がある。心して聞いて欲しい。特にメイリアはある意味関係者だからな」

「……それはどういう?」

「敵方として、バモン・メアラ両名が参加してる事が確認された」

「なぁっ!? それはっ! どう、いう……」

 わぁお……。

「詳しくは分からん。オランジェ女史には既に前線に急行するよう通達してある。バモン君は直接打って出てきてはいないようだが、メアラ先生は……既に甚大な被害をもたらしたらしい」

「おいおい……まさかシークレットの二人ってのは……」

「いえ、それはおかしいわ。追加は男子が二人のはずでしょう? バモン君がその一人だとしても、メアラ先生は絶対に違うわ」

「僭越ながら意見を言わせて頂きますわ。私の見つけたあの方、その調略による結果、では無いでしょうか?」

 ここぞとばかりに出番のなかった我等が負け犬バルバラ様が存在感をアピール! 居たんですね! しかし、的を射た意見と言えるのではないでしょうか! 流石バルバラ様! ……虚しい。

「……なるほど。もしかしたらバモン君はとっくの昔に連れ去られていて、我々がバモン君だと思っていた人物は、ロドミナ、だったかな? 彼女の変装かも知れないね」

 我が意を得たりとばかりの、ドヤがドヤするバルドヤ様であった! 迷子のお呼び出しを致します。喪女さん、喪女さんは居られませんか? 居られましたら至急、いじり甲斐のある状態に戻ってお越しください。ノーコンが暇を持て余しております。

「にしてもよぉ……メアラってあのイカれた強さの先生だろ? あんなの出てきたらどうするんだ」

「『げぇっ! メアラっ!』って誰か言ってそうね」

「……確実に遭遇した奴不運枠だな」

「幸い、彼女が出てきた時、彼女を知るものが全力で撤退を叫んだために、死者は出さずに済んだらしい」

「死者が出てないんですか?」

「ああ。それは酷い有様だったらしいが、身動きの取れないものは多くても、死んだ者は居なかったそうだ」

「ねぇそれって……」

「ああ、転生者の入れ知恵だな」

「うん? それはどういうことだい……?」

「この手の話は私達の世界ではちょくちょく出る話なのですが……。戦場で行軍が遅れる最大の原因は、負傷者の存在ですわ」

「見捨てては行けないから連れて行く。すると行軍速度は嫌でも落ちる。他国ではどうか分からないですが、うちはそうでしょう?」

「……そういうことか」

「もはやゲームじゃないな。あっちには何がついてんだ……?」

 遠く離れた戦場の様相は、もはや想像も及ばぬ状態に陥っていた。

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