危険なクスリ
ロレンタは初めて会った時と変わらぬ笑顔で俺を出迎えてくれた。
「お久しぶりですラッシュさん、お怪我の具合はいかがですか?」
そういや以前ゲイルに殴られたときに妙な力で治してくれたんだったっけか。すっかり忘れてた。
とりあえずそのことに関して礼をいうと……すかさず例のアレだ。
「ここに来られたということは、やっぱりディナレ教にお入りなさ「違う」」速攻で断った。今日来た意味は違うんだってこと。とある悩みがあるんで相談に乗ってもらいたいことを包み隠さず彼女に話さないとな。
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「……で、姉さんだったらラッシュさんのその過去にすっかり忘れてしまわれた記憶を思い出させられるかもしれない……と」
時おり寒風がドアをきしませる音しかない、ひっそりとした聖堂で俺とアスティ含めて3人で、俺の悩みについて聞いてもらった。一週間のうちにどうにかしないと、ということもだ。
「けど、なんで私なら大丈夫かもしれないと思ったんでしょう……。まあ、出来ないこともないですが」
おいロレンタ、いま結構凄いことをサラッと言わなかったか?
「簡単ではありませんが、つまりラッシュさん自身があなたの記憶の中に入るのです。ちょっとややこしいかもしれませんが」
「ああ、もう全っ然意味不明だ。つまり一体どういうやり方で入れるんだ?」
「ちょっと姉さん、あれを使うんでしたらやめた方がいいんじゃ……!」
「確かに危険ですけど、ラッシュさんは身体も意志も普通の方以上に丈夫です。最悪死んだり、出られなくなるなんてことはないと思いますよ」
おいおいおいおい一体どういう話してるんだ、なんかめちゃくちゃ危険度高そうなことをやろうとしてるんじゃねえのか!?
ロレンタはいったん席を外れると、しばらくして埃まみれの大きなワインの瓶を持ってきた。
その瓶を軽く振ると、ジャポンと音が。まだ結構中に入ってるみたいだ……けど、まさか俺にこの酒を飲ますとか……!?
「先代、先々代がイニシエーションに使うために作った薬です。お酒じゃありませんからご心配なく」
「でもそれ、薬草を漬けるときに結構強いお酒入れたから……」すかさずアスティが突っ込んだ。やっぱ酒じゃねーか。っていうかイニシエなんとかっていうのは一体なんだ?
「簡単に言いますと、この薬草酒で頭の中をいろいろグルグルさせて、自分の中の世界と向き合うのです」
俺は普通に酒飲んだだけでもうノックアウトになるんだけど、それ以上に頭がグルグルしちまうって……やっぱやべえヤツじゃねえか。
「確かに危険です。けどこれを服用してまでディナレ様の受けた傷の痛みと一体化して知りたいと思ったのです、先代たちは」
「その……危険っていうのはいったいどういう意味で危険なんだ?」
コホンと軽く咳払いをして、ディナレはにこやかに答えた。
「ええ、二度と目覚めなくなる可能性も無きにしも非ず……です」
や っ ぱ り 危 険 な ク ス リ じ ゃ ねーか ! ! !
ロレンタいわく、先々代は二度目に服用した時に、そのまま帰らぬ人となったという。
「大丈夫ですよ、ラッシュさんは生粋の獣人ですし、お酒だって結構強いでしょうし」
……勝手に決めつけないでもらいてえな。俺はもう、とにかく酒の類は全然ダメなんだよ。
だけど、これ以外思いつく手段がなければ、もうこの変な酒……いや、クスリに頼るしかないんだよな。
とりあえずしばらく考えさせてくれと言い、俺は足早にディナレ教会を後にした。
あ、そういや……今日は鼻面の傷痕は全く異常なかったな。いったいこの前のはなんだったんだろ?