ラザト親方 誕生
ラザトも同様に目をまん丸くして驚いていた。「マジか」って。
結局俺はその日答えを保留しといて、半ば居候状態のラザトに聞いてみるか、ということですべてを話してみたんだが……
そうそう、言い忘れていたが、ガキの名前はフィン。でもって親父は右目が潰れてて酒飲みで剣の腕はピカイチ……ってことで間違いはないな。
「ああ、確かにそいつは俺の子だ……」
「そういやラザト、この前確か一人モンとか言ってなかったか?」
「いや、戦時中にちょっと、な」経緯はよくわからんが、とにかくラザトに女がいたことは確からしい。でもって10年くらい前に、確かその女との間に子供を産んだってこと。名前も一緒だ。
「で、そのガキ……フィンは俺を殺すって言ってたのか」
でもなんでまた? 殺すだなんて物騒すぎる。
「お前には分からない世界かもしれねえがな……俺は遊び程度だったんだ」
「つまり、捨てたってことか……家族を」ラザトはそういうことだと力なくうなずいた。
俺には家族って呼べるもの自体存在しなかったから、遊びで家族を作ってしまうって行為そのものにいまいちピンとこなかった。
まあそれはそれ、今直面していることはもっと深刻だ。なんせラザトを殺しちまうことに加担することになろうとはな。
「ラザト、あんたはどうしたいんだ? ここを出るか?」
そうだな、まだここにラザトがいるってことは外の連中は誰も知らないことだし、ひっそり出て行ってくれた方が俺たちのためにもなるし。
「そのことなんだけど……」隣で話を黙って聞いていたトガリがようやく口を開いた。
「ラザトさんね、僕らの親方になってくれるってことで、昨日こっそり申請してくれたんだ」
「え……」
つまりはこうだ、先日のギルド権利剥奪ってことで異議申し立てするよりか、ラザトがここの親方になって、逆に俺とトガリを雇うってやり方にしてくれた方が全然簡単に事が済んでしまうってこと。
なるほどな。運営のことなんてちっとも考えたことなかったし、それに頭の回らない俺より、以前ギルドを持っていたラザトにここを任せてしまった方がいいってアイデアか。それに先日の城内での一件で、俺の処遇も完全に忘れ去られたっぽいし。城の連中も結構いいかげんだな。
「そういうことだ。今日はそれを話そうと思ってたんだが……」ありがたいことだけど、タイミングが凄まじく悪すぎた。
「あんたが俺たちの新しい親方になったから、安易にここから離れることはできなくなっちまった……ってことか」
「でね、今日はラザトさんの親方就任祝いでもしようかなって思ってたんだけど、これじゃ……ね」
ラザトは俺の話を聞いて酔いが覚めちまったって言ってるが。もうお前は一生飲むな。
俺の当初の計画では、フィンをここに住まわせようかなと思っていたんだが、これじゃ無理だな。
それに何とか理由こじつけて断らせようかなとも考えたんだが……それもちょっと気分が悪いし。
学校行くついでに俺が鍛えてやるのはいいとして、なんとか親父を殺すことに関してはやめさせられるよう誘導してみっか。
……もちろん、親父がここにいるのも秘密ってことで。