第１１話Part.２～苗床を枯らせ！～
「ここが外の世界……？」
「まだ研究所の敷地ではあるが建物の外ではある」
「すごく空気が澄んでるように感じます」
「……そうか」
俺と彼女は屋上へのテレポートした。彼女は初めて建物の外に出たらしく、物珍しそうに様々な物を見回していた。
最上階のナザリーは窓すら存在しておらず、本当に外を見たことがないようだった。そして身体いっぱいで呼吸するように大きく息を吸い込んだ。初めての外気に感動すら覚えている様子の彼女。
無理も無い、彼女が押し込められていた部屋は毎日毎日の行為でオスとメス両方の臭いが染みついていた。彼女は最早慣れてしまっていて気にならなかったかもしれないが、俺は初めて入った時立ちくらみしそうになったぐらいだった。
「ここで待っていてくれ。あの２人は俺の味方だ。安心してくれ」
「はい」
俺は早速行動を開始することにする。再びテレポートで彼女が押し込められていた部屋に戻り、透明化スキルを使用して扉を出て、５階階段で見張りをしている男の後ろに立って透明化スキルを解除して
「『いまからおまえはおれのしはいかだ！』今からしばらくナザリーは使用中止だ。上からお達しがあった。誰もここに入れるな。ただし出て行く奴はそのまま通せ。分かったら服を脱いでから復唱しろ」
そう言って洗脳スキルを使って指示をする。洗脳スキルは『いまからおまえはおれのしはいかだ！』と最初に言ってから任意の指示を与える。この音の羅列は何なのかは分からない。少なくとも俺は聞いたことのない羅列だった。音もそこそこ長いので洗脳が必要ではない場面で口走ってしまう可能性はほぼ無いはずだ。
洗脳は奪ってから初めて使用するため本当に問題なく使えるかを確かめるためにワザと屈辱的な指示を与える。基本的に能力者は戦闘向きにするため好戦的で自尊心が高くなるように教育されている。故に洗脳されたふりをしようとしても屈辱的な指示は聞き流せないだろうと考えたからだ。
すると見張りは指示通りに服を全て脱いで、どの部分も隠すことなく晒して復唱する。間違いなく洗脳できている。
俺は安心して彼から離れ、そしてもう一度透明化スキルを発動する。洗脳と身体作用系のスキルの併用ができるのかどうかを確かめるためだ。
服を着る様子はない。特に不審な点は無く、俺は彼から少し離れた場所から「指示復唱！」と言うと、しっかりと一字一句違わずに復唱して返した。
自身への身体作用と他者への身体作用は併用できることがこれで分かった。このまま脱いだままで立たせるのは明らかに不審であるので、服は着るように指示してまずは１番奥の部屋の扉を叩く。
片開きの部屋が部屋の内部側へと開かれた。立っているのはやはり一糸も纏わぬ姿の女。姿形は美しいが目の輝きは失せて虚ろな顔をしている。この様子から察するに今は待機中だ。
透明化スキルを使っているため彼女からはこちらは見えておらず、扉から見えない位置に居るのかと確認するため扉から顔を出してキョロキョロと能力者を探すがやはり人影は見えず、彼女は部屋の中へ戻るため俺に背を向けた。
俺はこれを待っていた。俺は彼女の背後から左手で口を押えて、更に右腕と身体で彼女の腹を拘束するように押さえる。彼女は急な拘束に反射的に抵抗する。激しい抵抗をするが体勢はこちらが完全に有利。そのまま彼女を部屋の中に押し込んで
「死にたくなければ抵抗するな。壁に手を突いて頭を下げておけ」
そう命令する。本当なら全員を説得して納得させてから屋上へ避難させたいところだが時間は限られているので乱暴だが彼女らを拘束して行くしかない。俺はまず口に噛ませるように布を巻いて喋れないようにする。次に足首を拘束、最後に手首を拘束して動けなくした後にテレポートで屋上へ跳ぶ。基本的にこの繰り返しだ。
しかし新規で入ってくるケダモノは一応見張りに止めさせているが、既に入っている者に関してはそうはいかない。しかも尋問して聞き出した情報から考えると、ここはフル稼働に近い状態でも需要を賄い切れていない様子なので、ほとんどの部屋に既に入っている者が居そうだと考えるとげんなりする。
さっきの戦いで戦った感知スキルの男からスキルを奪っておけば中に何人いるかくらいは分かり、女が１人の部屋から連れて行けたかもしれないが、今更そんなことを考えてももう遅い。
結局奥から一部屋一部屋虱潰しに押し入る。50あった内38の部屋に女が囚われており、その内27部屋にケダモノが入っていた。おそらく俺が作業している際に帰った者も居ただろう。
端から端まで女たちを逃がした時には既に身体は疲労でヘトヘトだった。スキルは魔術における魔術力といったものがあるわけではないが、これだけひたすらスキルを連発して部屋に押し入っていればさすがに疲れる。
俺は屋上に戻った時、息は上がって両膝と両手をついてしばらく動くことができなくなっていた。するとツェーンは俺の近くに寄り、「５階はもういいの？」と聞いてきた。俺はそれに対して首を縦に振ることで大丈夫であることを伝えた。
ツェーンはそれを聞いて楽しそうに小さく笑って、通気口の方へと歩いて行く。２つある通気口にツェーンとアイシスが分担して毒物を落とすようだ。
２人は特に躊躇いなど無くツェーンが作った液体を落とし、そしてその通気口を俺が始末した男から剥ぎ取った服で塞いでしまった。確実に毒を逃さないためのようだ。
「これで居住棟の奴らは全滅よ。でも万が一のことがあるわ。貴女は入り口に身を潜めて、出てきた奴らを始末してくれるかしら？大丈夫、いくら動けたとしてもあの毒を吸い込んでまともに戦える者は居ないわ」
「貴女たちはどうするの？」
「私たちは屋上に出てきた奴を始末するわ。彼、相当疲労があるようだし２人でやるわ」
「そう、分かった」
俺が疲労で両手両膝をついている時そんな会話が聞こえてきた。確実に外に逃がさないため、屋上と地上に人を配置して万が一倒れずに逃げられた場合に確実に始末することにしたようだ。
アイシスが地上、俺とツェーンが屋上。俺の疲労を考慮して２人、そして梯子を上るしか出る方法が無い屋上を俺たちが担当することになったようだ。
アイシスはそれにを了承して屋上から外に飛び出て作られている通気口をつたって降りていった。どうやら彼女は通気口をよじ登って侵入していたようだ。これは俺には少しできそうにない。
俺たちは居住棟の毒が回り切るまで入り口の見張りを兼ねてしばらく待つことになった。
