春の訪れはドコログマで その2
数日後。
コンビニおもてなしが休日の今日、僕達一家は巨木の家の前に集合していました。
「ドゴログマ楽しみです、ワクワクしますね、みんな」
パラナミオがそう言うと、その横に並んでいるリョータとアルトが笑顔で手を上げています。
「ネェネ、オータモ!」
「あ~!」
ちなみに、ムツキは相変わらずお眠モードなので僕が抱っこひもで背負ってます。
いつもならスアがムツキを背負っていますけどドゴログマへの転移魔法を使わないといけませんし、向こうで何があるかわかりませんからね。
というわけで、ここまで
僕・スア・パラナミオ・リョータ・アルト・ムツキ
以上の6名が集まっているのですが、向こうに行くことが出来るのは10名まで許可されています。
と、いうわけで、
みんなにその話をしてみたところ、イエロ・セーテン・シャルンエッセンス・テンテンコウがついてくることになりました。
「そのゴロンゴロンとかで、魔獣を成敗してやるでござる」
「違うキ、イエロ、グンマグンマだキ」
そう言い合っているイエロとセーテン。
うん、2人とも不正解ですけどね。
で、そんな2人の横では、どこかの舞踏界にでも行くのかい?ってな程めかし込んでいるシャルンエッセンスが頬を赤く染め、かつモジモジしながら僕を見つめています。
あぁ、これ、勘違いしないでくださいね。
シャルンエッセンスはですね、確かに僕に対して好意を抱いています。
ですが、それは異性としてではなく、兄としてなんです。
もともと重度のブラコンだったシャルンエッセンスは、幼少期には実の兄にべったりだったそうなのですが、その兄に裏切られる格好でシャルンエッセンス家の借金やらなんやらを背負わされまして……
で、その行き場のなくなっていたブラコン感情を僕にぶつけてきているだけなんです。
まぁ、「だけ」といいながら時々重いこともありますけどね。
そんなシャルンエッセンスは、僕を見つめながら、
「あの……タクラ店長様……その、今日はプライベートでの旅行ではございませんか……その……タクラ店長様のことをですね、ドゴログマに行っている間だけ『リョウイチお兄様』と呼ばせて頂いてもよろしいでしょうか?」
そう言ってきました。
で、こういうことは僕よりもスアが許可するかどうかが大事なわけなんですが……僕がスアに視線を向けると、その視線の先のスア、以外にも
「……向こうでだけ、よ」
と、あっさり承諾したんです。
で、当然のようにシャルンエッセンスってば大感激。
さしていた日傘を放り投げると、その場でなんかダンスを踊り始めたほどです、はい。
で、スアなんですが……
どうもですね、久しぶりにドゴログマへ行けるもんですから、ちょっと機嫌がいいみたいなんですよ。
「え? スア殿が機嫌がいいでゴザルか?」
「いつもと一緒キ」
首をひねってるイエロとセーテン。
そんな2人に、僕は苦笑しながら言葉をかけていきました。
「何言ってんだい。あんなにいつもと様子が違うじゃないか。ほら、口元が0.5ミリも上に向いてるし……って、な、何だよ2人とも、何ジト目でこっち見てんだよ?」
ちなみに、テンテンコウは現在♂モード。
イエロ達の後方でボーッと突っ立ったままです。
蝸牛人のテンテンコウは両性具有です。
背中に背負っている大きな貝の中に収まっていき、その中で性別を変化してるんですよね。
♀の際はすっごい賑やかで元気なテンテンコウですけど、♂の時は、まぁこんなもです。
僕達がそんな会話を交わしている前で、スアは着々と準備を進めています。
水晶樹の杖の先端部分にある水晶の中に、ジャクナが持って来てくれた『ドゴログマ侵入許可書』を入れていくと、スアはその杖を掲げていきました。
すると、先日も見た、あの分厚い魔法陣がスアの前で展開していきます。
程なくして、その魔法陣の中に扉が出現しました。
で、それをスアが開き、その中へと入っていきます。
その後ろを、僕達も続いていきました。
程なくして、僕達は転移ドアの向こう側、ドゴログマへと到着しました。
「へぇ……見渡す限り緑だらけだね」
僕は周囲を見回しながらそんなことを口にしていました。
僕達が立っているのは、ちょっとした丘みたいな場所です。
なので、周囲を見渡すことが出来ています。
で、その周囲が見渡す限り、森・森・森なんですよ、これが。
「放置されてるって聞いてたからさ、もっとこう荒涼とした砂漠とかを想像してたよ」
僕がそう言いながら笑うと、スアは
「……そんな時期もあった、の。今はこんな感じ」
そう言いながら、何やら魔法袋から取り出しました。
……うん、これ、どうみても絨毯ですね
かなり大きなその絨毯。
スアは、その中央に歩み寄って行くと、
「……さ、みんな、乗って」
そう言いながら僕達を手招きしました。
で、僕達はスアに呼ばれるがままに絨毯の上に。
「まさか、この絨毯が飛んだりしないよね」
僕は冗談交じりにそう言いました。
確かに、僕が元いた世界にはそんな物が出てくるお話もありましたけど、さすがにそんなベタな展開があるはずが……
「……旦那様、知ってる、の? うん、そう、これ、飛ぶ」
スアは、僕は絨毯が飛ぶことを知っていたことが嬉しかったらしく、笑顔で僕にすり寄ってきました。
っていうか……マジかぁ!? マジで飛ぶのかこの絨毯!?
僕が唖然としている中、スアが水晶樹の杖を一振りすると、僕達を乗せている絨毯がふわりと浮かび上がりました。
「パパ、ママ、すごいです! 浮いてます!」
この光景に、パラナミオも大興奮の様子です。
パラナミオだけでなく、イエロやセーテン、シャルンエッセンス達も驚きの表情をその顔に浮かべながら周囲を見回しています。
そんな中、テンテンコウってば、背負っている殻に入ってしまいました。
絨毯の上には、その殻だけがのっかっています。
で、よく聞くとですね、なんか殻の中から声が聞こえました。
『たかいこわいたかいこわいたかいこわい……』
……あ~……高所恐怖症かぁ、テンテンコウってば。
そう言えば、雲の上に行った時の話をみんなにしていた時も、テンテンコウだけはなんか余所余所しかった気がしないでもなかったわけです、はい。
まぁ、そういうことなら仕方ありません。
無理に出てこいというのも酷なのでこのままにしておいてあげようと思います。
そんな中、魔法の絨毯はかなりの高さまで上がっていきました。
「……薬草は、あの山の向こうに多い、の」
そう言うと、スアは遙か彼方に煙って見えている山を指さしました。
「っていうか、あの山、積雪してないか?」
「……うん、そう、よ」
「あの山を越えるのかい?」
「……うん、そう、よ」
そう言うと、スアは右手に持っている魔法樹の杖を前方に向けたんですが、それと同時に、魔法の絨毯が前方へ向かって進み始めました。
すっごい速さです。
眼下の森がすごい勢いで過ぎ去っていきます。
ですが、僕達は前方からの風を全く感じていません。
おそらく、スアが魔法の絨毯の周囲に防壁魔法か何かを展開してくれているのでしょう。
そのおかげで、パラナミオやリョータ、ムツキ達が楽しそうに周囲を見つめています。
僕達を乗せた魔法の絨毯は、あっと言う間に先ほどまで霞んで見えていた山を越えていきました。