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変化

 雨に濡れるセブルのそばでラトムが寄り添そいセブルの顔を見上げる。セブルは顔を落としながら目だけはユウトを見つめ続けていた。

「セブル、大丈夫っスか?ユウトさんならきっと大丈夫っスよ。オイラの羽もあることだしどんな怪我だって立ちどころの直せるっス!」

 語り掛けるラトムの声にセブルは何も答えずその姿勢を変えることもない。瞬きもなく置物のように硬直したままだった。

 そんなセブルのもとに石畳にたまる雨水を跳ねさせながら駆ける足音が近づいてくる。セブルのすぐ前で音が止まりセブルは両脇を掴まれ持ち上げられた。

「あんたに頼みたいことがある。急ぎだ」

 わき目も降らずにセブルに駆け寄ったレナは自身の眼前にセブルを引き寄せ言い放つ。セブルは反応せず不機嫌そうな顔でじっとレナを見た。

 反応の薄いセブルに対してレナは腹を立て始める。

「何ふてくされてるの。ユウトを見守っていたいんだろうけどじっと見つめていたって事態は変わらない。あたし達ができるのはその後だ。ヨーレンさんの治癒魔術が使えるかもしれない。ユウトかガラルド隊長のどちらか、もしくはどちらもまずい状況になりえる。そのために今、備えておくんだよ。しっかりしろセブル!話しをいつでも聞くって言ったじゃないか!」

 レナは必死に訴えかけながらセブルをぶんぶんと揺さぶる。セブルは耐えかねて鳴いて喚いた。

「なうっ!なんなぅう!(やめろ!そういう意味で言ってない!)」

 セブルの鳴き声を聞いてレナは一旦揺さぶるのをやめる。

「どう?手伝ってくれる?」

 レナは真剣な表情でセブルに顔を寄せて語り掛ける。セブルは気圧されたように顔が少し引いて目が泳いだ。

「セブル、ワカッタッテ、イッテル」

 ラトムが滞空しながら二人の間を割るような形で、レナに伝わる言葉を発する。

「本当?よしっ!今からすぐにヨーレンさんの工房に行ってノノと機材一式を持ってこないといけないんだ」

 レナの説明を受けてセブルはため息をつくように息をもらす。雨に濡れて張り付いていた毛は水をはじき始め、みるみるうちにセブルらしいシルエットに戻りだした。

 そしてセブルは元気よく身をよじってレナの手から逃れ地に足をつける。それと同時に宙に浮いラトムを上目遣いに睨んだ。

「まったく余計なことして。覚えてなよラトム。それで、魔力吸収に熱が足りない。熱を貸して」
「はいっス!お安い御用っス」

 ラトムはセブルに近づくと翼をより広げ熱風を送る。風を受けてすぐセブルの毛は伸びだし地に接したところから水が凍った。

 セブルはその体を大きくさせる。その変化を目立ち、ユウトとガラルドを見ていた周囲の人々の視線を集めた。

 そんなことを気にする様子もなくセブルはレナの足にまとわりつき自身の身体に固定させる。レナは思いもしなかったのかきょとんと呆気にとられた。

「え、人に姿を変えるかラトムがいれば言葉は伝わるんじゃ・・・」

 レナの言葉も聞かず、セブルはそこから素早く駆け出す。ユウト達を囲む人々がセブルをよけて道が生まれ、円に切れ目ができた。



 ユウトはガラルドと向き合いその間をじりじりと詰める。それまでにユウトの脳は継続してこれまでのやり取りの分析と予想を繰り返していた。

 しかし答えは出ない。わかっていることは単純な速度や力任せな手出しは見切られてしまうということだった。

 答えが出ないまま、ユウトが考えるガラルドのギリギリ届かない間合いで足を止める。

 ユウトの身体に染みついた基本の型はガラルドを模したものである限り自身の太刀筋が容易に読まれてしまうことはわかっている。今持っている魔剣が光魔剣であれば事態はもっと有利だったかもしれないとユウトはほんの少し嘆いた。

 もしも、なんていう考えを振り払いユウトは目の前のガラルドを中止する。とにかくまずは情報を得ることにした。

 ガラルドに向かってユウトは短く足を踏み込み手を狙って剣を振るう。致命傷にならない牽制の一撃。仮にかわされてもユウト自身に隙を生み出さない程度、防御が可能な攻撃だった。

 案の定、ガラルドはあっさりと剣で受け流す。ユウトはその感覚をしっかりと見てガラルドの間合いから出た。

 そしてまた牽制の攻撃を行う。今度は最初と違う場所を狙い、かわされればまた場所を変え、角度を変えて繰り返した。

 繰り返していくうちにその感覚は徐々に速さを増し、変化を生み、連続させていく。ユウトは息を切らすことはなかった。内包する魔力を身体能力へと変換させる量を適宜調節している。これは試作魔術具の試験を数多くこなすうちに身に着けた技術だった。

 ユウトはその圧倒的な持久力を利用してガラルドのほころびを探す。ガラルドの疲労度や、いつか起きるであろうミスを探し出そうとユウトはぎりぎりの間合いの中でガラルドとの攻防を繰り広げていた。

 試行と分析を積み重ね続けたユウトの手数とその速度に周囲で二人の決闘を見守る人々は唖然とする。圧倒的にユウトが有利な状況になっているようにしか見えなかった。

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