はじめての武器
俺が足を運んだ先。それは武器屋だ。
よくよく考えてみたら、俺は自分専用の武器ってやつを、今まで一度も持ったことがなかった。だからこの宝石で、俺の使いやすい最高で最強のかっこいい武器を作ってもらおうか、ってふと思ったんだ。
はじめて入る武器屋は……と、案の定、真っ白な髭面のオヤジはいつもの人間同様、獣人の俺を値踏みするような目でジロジロ見てきやがった。だが持っていた宝石をポイと投げ渡すと、たちまち態度を一変させやがった。所詮人間なんてそんなもんか。
「その宝石をやるから、俺に見合った武器を売ってくれ」ってな。
だがオヤジは、お前のような獣人の使える武器となると、最初からオーダーして作ったほうがいいと言ってきたんだ。
俺みたいな屈強な獣人の腕力に耐えられる強度の金属が今ここにない。ってことで。だから知り合いに頼んで、まずは最高の鉄を採ってきてやる、それまで半年待ってくれ、立派な武器を仕立て上げてやると。
オヤジの言葉を信じ、俺は店の壁にたくさん立てかけてあるいろいろな武器を手にし、手に一番合う武器を試してみた。
両手剣、槍、弓矢、大金槌……その中で一番しっくりと来たのが、斧だった。
そうだ、俺の身長くらいの、長くて、大きくて、重くて、そして切れ味が鋭い両刃の斧だ!
俺の山のような注文を、オヤジは分厚い帳簿に細かく書き取っていた。残念ながらその時の俺は字が読めなかったんで、何が書いてあるのかさっぱり分からなかったけどな。
……そして、大した仕事もないまま半年が経とうとしていた。
俺はあの武器屋へ出向くと、オヤジは気持ち悪いくらいにニタニタと笑みを浮かべて、お望み通りのものができたって言ってくれた。
店の奥、棺桶みたいな大きな木の箱に入っていたそれ。
開けると、白い布に包まれた、巨大な両刃の大斧が入っていた。
白銀色に輝く太い柄の先に、同様に白く輝く2つの刃。そしてずっしりと重い。
オヤジ曰く、あまりに重くて馬車でないと運べなかったそうだ。さらには、この大斧を背中にしっかりと固定するための厚い革製の鞘もあつらえてくれた。しかしこれでも金が余るというから、俺は壁に掛けてある一本の大きなナイフを取り、これで十分だと言って店を出て行った。
こんなデカい斧、店じゃ振り回せないしな。
帰り道は胸が高鳴った。生まれて初めての、俺専用の武器がこの手にあるんだから!
俺はさっそく、この大斧を見せに行こうと親方の家へと走っていった。
……が、今まであったこともないたくさんの人間の連中が、親方の家の玄関に集まっていたんだ。なんなんだ一体。祭りでも始まるのか、と思いながら俺は、一番手前にいた黒い服を着たひときわ体格のいい男に聞いてみた。親方の家に一体何で集まっているんだ……って。
そしたら、そいつはその体格に似合わないくらいの小さな声で、ぽつりつぶやいたんだ。
……親方が死んだって。