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緊張

「えっ?」

 唐突なガラルドの言葉にユウトは何を言っているの判断がつかず一瞬思考が停止してしまう。すぐに向けられた殺気と言葉の意味が結びつき、一拍遅れてガラルドの言っていることを理解した。

「待ってくれ。どうして今、いきなりそんな話になるんだ。今ここでオレと殺しあうことに何の意味があるんだよ」

 ユウトは思い浮かぶ疑問をそのまま口に出す。ガラルドは全く動じる様子もなくまとっていたマントを脱ぎ棄て語り始めた。

「これは、俺の我がままだ。
 ロードの提案、作戦は理にかなっている。ヤツを完全に信用しきれないが俺のこれまでの情報をまとめた内容と合致する点も多い」

 ガラルドは語りつつ剣を抜く。

「ヤツの提案に乗ることが最も手早くゴブリンの数を減らすことができるだろう。その理屈を理解できる。しかし納得ができない」

 雨に打たれながらガラルドの握った魔剣の刃から湯気が薄っすらと立ち始めた。

「話し合っても、どうすることもできないのか・・・」

 ユウトにはガラルドの本気が伝わってくる。その殺意はこの世界で目覚めた洞窟でのことを思い出させた。

「そうだ。時間は少ない。
 ユウト。オマエはジヴァの屋敷で自身の意思を語った。同じだ。俺の制御できないこの感情に早急に決着をつけなけるにはこうする他ない」

 ガラルドは戦闘態勢の構えをユウトに向けて取る。ユウトに取って目に焼き付けるほど見て真似た構えがユウトに向けられた。

 そのころには向かい合ったユウトとガラルドのただならない雰囲気に周りも気づき始める。ガラルドの抜刀を目にしてヨーレンが二人の間に止めに入った。

「何やってるんですがガラルド隊長!」

「今よりユウトと決闘を行う。ヨーレン、お前が立ち会い人をやれ。これはギルドの長としての命令だ。
 そして、決着がついて最後の立っていた者の意思をもってロードへの返答とする、以上だ。下がれ」

 ヨーレンは甲冑の奥にあるガラルドの目をぐっと見つめる。そして何も言わずに後ずさって向かいある二人から距離を取った。

 ある程度距離が開いたところでレナがヨーレンに駆け寄る。レナは視線を二人いの方から離さないまま問い詰めた。

「何がどうしてこんなことになっているんですかヨーレンさん!」
「私にも正直わからない。ガラルド隊長に取ってこんな方法でしかロードの取引を受け止められないのかもしれない。もう我々にもどうすることもできない」

 ヨーレンも動揺を隠せないままレナに答える。

「そんな・・・」

 レナはヨーレンの解答に言葉が返せなかった。

 そのころユウトのフードの陰に隠れるラトムがユウトに尋ねる。

「どうするっスか。ユウトさん」

 ユウトはじっとガラルドを見つめて答えない。代わりにセブルがラトムに返した。

「ガラルドはやる気だ。ならボクたちはユウトさんを全力で支援するだけだよラトム」

 セブルは高揚した口ぶりで話す。黙っていたユウトはようやく口を開いた。

「すまない。セブル、ラトム。二人ともオレから離れて見ていてくれないか」

 唐突なユウトの言葉にラトムは短く「へ?」と口にし身体を硬直させる。セブルはそれまでの高揚をそのままにユウトに向けて反論を始めた。

「ダメです!相手はガラルドですよ。しかも本気で殺すつもりです。そんな奴と戦っているのをただ見ているだけなんてもう嫌なんです!」

 セブルは最後の方は懇願するような口ぶりで必死にユウトへ訴える。その言葉をじっとユウトは聞き入り目の前のガラルドを見つめながら落ち着いていた。

「本当にオレを殺すだけなら魔術枷を発動すれば済んだはずだ。でもそうはしなかった。この決闘はガラルドの矜持なんだと思う。それにオレは答えないといけない。
 だからお願いだセブル、ラトム。どうか見ていて欲しい」

 ユウトの言葉を聞いてセブルはゆっくりと名残惜しそうにユウトから離れて石畳の上に降りる。キョロキョロしていたラトムもセブルの行動を見て続いた。

 ネコテンの姿に戻ったラトムはそれまで弾いていた雨を受け、その毛をぐっしょり濡らしながらとぼとぼと離れていく。ラトムはセブルとユウトを交互に見ながら飛び跳ねてセブルについていった。

 残ったユウトはそれまで羽織っていたマントの留め具を取って脱ぎ捨てる。そしてガラルドの持つものと同じ魔剣を抜いて構えをとった。

 体の大きささえ違えど同じ型の剣を瓜二つの同じ構えで向き合う。お互いの魔剣の刃にはほのかな熱と光が灯り、刃を打つ雨粒がジュッという音を立てては蒸発を繰り返した。

 向かい会う二人の姿を兵士たちや近くに停めていた荷馬車の御者たちが集まり距離をとって円を描いき、何事かと不思議そうに眺めている。

 人の集まりによって途切れ途切れになった円状に一人ジヴァがたたずんでいる。ジヴァの浮世離れした風体に誰も近寄ろうとはしなかった。

 ただ一人、マレイだけがジヴァの元へ駆け寄る。ジヴァはマレイに見向きもせずに対峙した二人をにやついた表情で見つめいていた。

「おい、どうなってる!何かしただろう」

 マレイの早口で語り掛ける。

「わしは何もしてやしないさ。ガラルドが何かしでかすとは思っていたけどね。
 フフフ、そう来るか」

 楽しそうに語るジヴァにマレイは飽きれた表情でそれ以上何か言うことなくあきらめるようにユウトとガラルドの方を向いた。

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