第9話Part.4~来ぬのなら~
俺は筋力強化を解除してからテレポートを使用し3人の後ろに回り込んだ。アイシスが前衛、後衛に能力者2人が居たので後ろから攻撃を仕掛けるためだ。
再び俺は洗脳スキルを持つ男に後ろから手刀を刺そうと仕掛けたが、俺が消えた瞬間に後衛2人が前に進み出て攻撃を避ける。完全に俺の後背部からの攻撃は読まれていた。
俺の手刀が躱された直後にアイシスの足が飛んでくる。まるで上段から振り下ろされる刃のように振り抜く攻撃を避け切れず、両手で攻撃を受けたが彼女のスキルの影響で防御が防御にならない。俺の両方の二の腕の骨は簡単に圧し折られて激痛が走る。
「死ねッ!死ねーッ!」
俺は声にならない叫び声を上げる。折れた両腕は糸を切られた操り人形のようにだらりと垂れて全く動かすことができない。
アイシスはこちらに憎悪を向けながら執拗な攻撃を仕掛けてくる。俺は攻撃に転じる事ができずただ避けるのみ。その際に制御が効かない両腕が邪魔になって思うように動けない。
仕方がないので再びテレポートを使用して再び上部箇所に跳んだ。俺の場所を感知できるあの能力者が居るのですぐに居場所はバレるが、まずはこの両腕を治さなくてはどうにもならない。そのため少しでも時間を稼ぎたかった。
だが不思議と彼女からの襲撃が無かった。当然警戒は怠らないがやはり来ないのだ。こうして特に苦も無く不死のスキルで両腕を回復させた俺だがどうにも腑に落ちない。
一体どういうつもりなのかと思い、俺は上部箇所から少し顔を出してアイシスの様子を確かめてみると彼女とはすぐに目が合った。彼女はこちらの方をずっと睨みつけていた。そうとなれば感知スキルは生きているということになる。
俺はこの様子を見て何故彼女が攻撃をやめたのかおおよその見当がついた。おそらくアイシスがこちらを攻撃した際に、俺がテレポートして自分たちを襲撃してくるのを恐れたのだ。彼女が離れれば重傷を負っているあの2人に俺を倒せる道理はない。
それならば彼女はこちらから招けばいい。
俺はアイシスに対して引き寄せスキルを発動した。洗脳スキルの持ち主をそのまま引き寄せたかったが、引き寄せる側と引き寄せられる側の間に障害物があるとスキルの対象とできない。その障害物は動物であっても例外ではない。その場合は間に居る動物が代わりに引き寄せられてしまうのだ。
ヤツら2人はアイシスの後ろに隠れているため洗脳スキルの男を引き寄せるのは諦め、アイシスを強制的に引き剝がす作戦に出た。
対象を選んで発動してしまえば抗う術はないこのスキル。アイシスはこちらに引き寄せられる。だが引き寄せを発動してからテレポートを発動できるのは彼女がこちら側の地に足をついた後だ。彼女はこのスキルのことを知っているはずなのでおそらく身構えながら来るはずで、一度至近距離から放たれる彼女の攻撃を躱さなければならない。
どの攻撃が来るか。俺は身構えながら待つ。そして彼女が選んだ攻撃は不死スキルの唯一の弱点、心臓への一突きだった。彼女の恐ろしく速い手刀が寸分違わず俺の胸に伸びてくる。後ろに避けても引き寄せのスキルで俺の方へ引き寄せられるだけだ。
俺は身を捩りながら彼女の手刀に左手で横から外に押し出すように叩く。威力に雲泥の差があり、俺の左手の骨の方が粉々になりそうだったが、それでも俺が身体を捩った分くらいには手刀の位置をずらすことができた。
アイシスが地に足をついた。俺はその瞬間にテレポートを使用。まずは感知スキルの男の首を刎ねた。
感知スキルも有用だが2人は程近い距離に居るため、心臓に手刀を突き刺し潰して引き抜くという工程をしている間に逃げられたり攻撃を加えられでもしたら元も子もない。
死なない程度に生かしておいて後でスキルを奪っても良いが、欲をかいて傷が浅く逃げられでもしては馬鹿みたいな話だ。それならばもう二度と動けなくした方が確実だ。
感知スキルの男を始末した時にはアイシスは上部から飛び降りていた。洗脳スキルの男は逃げようとしたが重傷で思うように足が動かせず、佩いていた短剣を抜いて振り回して抵抗するが、そんな剣術とも呼べない上に重傷の男に苦戦するほどは弱くない。
俺は男の右手を蹴り、剣を弾き飛ばす。そして何か命乞いの言葉を繰り返し吐くのを全く聞くことなく心臓に手刀を突き刺した。そしてヤツの心臓を握りつぶす。これで洗脳スキルの男は死んだ。そして俺は新たなスキルを得たはずだ。
アイシスは俺を殺すために突進してきている。俺は後ろに飛び退いて彼女の様子を窺った。すると突進して来ていた彼女の勢いが弱まってその場に立ち止まり左右を見回し始めた。見覚えのない景色に驚いてここが一体どこなのかを確かめるようだった。
「アイシス!」
「アム……ロス……?」
「そうだ。アムロスだ!アイシス、助けに来た」
俺はアイシスに再び呼び掛けてみた。さっきまではその言葉にほとんど反応を示していなかった彼女だったが、今は俺の声を聞いてこちらを振り向きそして俺の名前をたしかに呼んだ。
俺は彼女に駆け寄って彼女の両手を握って、君を助けに来たとそう伝えた。