そして魔王(乙女様)は……
「さて、どういう事だ? フローラ嬢」
魔王に対抗できるよう、光魔法の使える4大家に属する3人とフローラ、そして魔王さんだけが別室に移動した。
「どどど、どういう事? と聞かれましても……」
喪女さんはどもった! まだトラウマが抜けてないようだ!
「コレ? ……は、魔王なのか?」
「(キョロキョロ)………………(コクリ)」
味方が居ないことを目視で確認してから、観念した喪女さんは頷きを返す。
「はぁぁぁぁぁ………………」
ディレクの大きな溜息に、フローラは思わずビクゥッ! と、身を竦める。
「おう、ディレク。ちいっと引っ込んでな」
「しかし」
「あ? お前は今の今まで参加してこなったが、やるか? 格付け」
「……下がっていよう」
心なしか顔色が青くなってたディレクに内心首を傾げながらも、ジュリエッタの方を向く風呂オラさん。ちなみにエリオットは茶々を入れず脇に控えている。シンシアも一応ここに居るが、煩くすると追い出されるみたいだね。ハハッ! 大変!
(あんたは何か挟まないとやってられないの?)
「でだ。講堂に居た奴等は皆『昏睡病』、即ち本当は死んでた奴等ってわけだ。このジュリエッタを含めてな」
「え? あ、はぁ……は? ジュリエッタ……様も?」
「そうだ。んで……って面倒ぇなぁ。おおぃ! ごるぁ! 他人事みたいに我関せず貫いてんじゃねえぞ? ナビィ!」
<んもう、私は出ないって言ったのにぃ>
お? お前、ナビって名前つけてもらったのか?
<そうよ。良いでしょう>
「え? 何? ノーコンみたいなのがジュリエッタ様にも憑いてるの!?」
<何よ憑くって? 失礼ねぇ。てか何? あんたノーコンって名前つけられたの? 受っけるぅ>
泡沫の名前に良いも悪いもないもんだ。
<……そう言われちゃったら確かにそうよね>
(『っつか、いい加減アタシに誰か触れなさいよ!? 雁字搦めなのよ!?』)
見ると、何か魔術的な縄によってぐるぐる巻きにされた魔王さんが転がっていた。
「はっ! 怪しい気配があるとは思ってたが、まさか魔王の中身がここに居るとは思わなかったぜ。こりゃあどう転んでも好都合だよなぁ。楽するためにも今のうちにプチっとやっちまうか」
『うえええええ!?』
「えええええ!? ちょ、ちょっとまって下さい!」
「ああ? 邪魔だてすんなら国家反逆罪で、この場で処断してやるが?」
「いやいやいや! 魔王さんも中身は転生者なんです!」
「「「は?」」」
3人しか居ないけど、4大家のハモリ「は?」頂きました〜。
<ぱちぱちぱちー>
「ああ! うぜえ!? ナビも大概だったが、ノーコンとやらもうぜえな!?」
「ああ、ええ、そうです……ね」
「っつーか、どういうこったよ? 魔王の中身が転生体ってなぁ……」
「話せば長くなるんですが……」
………
……
…
「あ゛〜〜〜〜〜〜面倒臭ぇ……」
「あ、あはは、は」
長々とした説明を終えると、ジュリエッタ? はすっごい長い溜め息を吐いて悪態をつく。
『アンタって、外側と違って面倒臭がりねぇ』
「面倒臭がりなのは外も大して変わんねえよ……どうすっかな」
「この中身がいれば繭の中に飛び込めるんじゃないのか?」
「……どうなんだ?」
『行けるわよ、一応。でも器を壊すにしても、まだフローラじゃ無理ね』
「……チッ、面倒臭ぇ。いっそこいつをプチッとやりゃあ終わるんじゃねえのかぁ? 殺られたくなくて嘘付いてるんじゃねえだろうなぁ」
『モモンガ殺すだなんてサイテーね! アンタ!』
「……殺るか」
『ちょ、嫌ぁぁあ! ちょっ、フローラ! 助けて!』
「お、落ち着いて下さい! 冷静に、冷静に! これでも魔王さんとは仲良くなったので……眼の前でやられるのは、ちょっと」
「じゃあ見て得ねえ所でサクッと殺るからよ」
「駄目ですよ!?」
「おう、主役よぉ? 俺は殺るっつったら殺るんだよ。もし邪魔するってんなら覚悟しとけ? お前ぇがどこの誰だろうが、知ったこっちゃねえ。ぶち殺すからよ」
「……! さっきから聞いてりゃジュリエッタ様の体だからって調子こいてんじゃないわよ! こっちだってあんたがどこの誰かなんて知ったこっちゃないわ! やるってんなら受けて立つわ!」
『あああ! 有難う! フローラ様! 美作可憐様ぁ!』
「はっ! いい度胸だ! こうかいすんじゃ……待て? 美作、可憐だぁ?」
「何よ! 文句あんの!?」
「おい、ナビ! こいつの中身の情報!」
<えーっと? 美作可憐、享年32歳。家にトラックが突っ込んで巻き添え死、と。うわぁ悲惨>
そして生まれてこのかた、全くもってモテた記憶がないと抜かず、残念駄目ン女かつ喪女の鏡です。
「そこまで言うか!?」
「おい、宮ノ森陸景って名前に聞き覚えは?」
「何よ! 今はノーコンに一言いってやらなきゃって、え? りっくん? 知ってるも何も同級生よ? 向こうでのだけど。近くの美容院で働いててさぁ。よく髪を切ってもらいに行ってたわ。
りっくんてばね? 同級生の贔屓目でもなんてもなく、クールなイケメンだったのよねぇ。だから何時も何で結婚しないのかなぁって思ってたのよねー」
<え? この子本気?>
本気本気。コレが通常運行。
『本当に何でこの子は……』
「え? え? 何何? どういう状況?」
「俺だよ」
「はい?」
「俺が宮ノ森陸景! りっくんこと『りけい』だ!」
「………………うううっそおおぉおおおおおおお!?」
「っつーか、あの流れで俺の名前出せば俺だと分かりそうなもんだろうが」
「………………いやー、りっくんが荒ぶり過ぎてて、分かんなかったっていうかぁ」
「正直に言うと?」
「微塵も思い至りませんでした」
「だろうな」
うわぁ、りっくんてば、喪女さんの扱いよく分かってるなぁ。
<凄いわね。りっくんが普通に会話してるの、久しぶりに聞いたわ>
「おいこらテメエ等。誰がテメエ等に『りっくん』呼びを許可したんだ? あ゛?」
すんまそん。
<ごめんっち!>
「……いつかテメエ等殴り飛ばしてやる」
「その時は呼んで? 私は蹴りたいの。ナビさんはともかく、ノーコンは蹴る、絶対にだ」
<愛されてるわねぇ>
今のでか!?
「……ジュリエッタ嬢」
「リケイと呼べっつってんだろ。リッキーでも良いがな」
「ではリッキー。結局どうなるのだ? 魔王は……勇者はどうするのだ?」
「どう考えても今代の勇者はこいつ、中身はともかくフローレンシアって存在がそれだ。魔王の言う通り、こいつを育てていくか、それとも魔王の器の方を何かできないか、位しか選択肢はねえな」
「中身はともかく、って……」
「何だ? 勇者やりたいのか?」
「ううん、全然」
「だよな。となれば、やれることが少ないってことしか分からねえな」
『あのー……』
「あ? どうした魔王」
『そろそろ解いてくれても良いと思うの。……駄目かしら?』
「ああ、悪かったな。今解く」
「ジュリ……! じゃない、リッキー! 敵ではないかも知れない程度の情報で、魔王を開放するのは賛成致しかねる!」
「コレが敵じゃないっつーんなら敵じゃねえんだよ。文句があるなら俺をはっ倒してでも止めるこった」
「くっ……!」
「えっと、何かりっくんがすみません……」
「……いや、今までもリッキーの言うことは正しく、俺達を導いてくれた。彼がそう言うなら信じよう」
『ああ! やっと介抱されたわ!』
「ごめんね、魔王さん」
『良いのよぉ。アタシ達の仲じゃない! それに助けてくれたしね!』
「済まなかったな、魔王。で、済まないついでに頼みがあるんだよ」
『あらなぁに?』
「一度繭の中に連れてってくれや。器とやらを確認しておきたい。できれば4大家揃い踏みで」
『お安い御用よ』
「……良いのか? 騙して魔王の器を破壊しようとするかも知れんぜ?」
『壊せるなら壊せたほうが良いのよ。私も私で精神生命体へと変化できるしね。そうなればフローラ見たく、死にかけてる子に取り憑いて、その子が助かりそうなら安全なところまでは身代わりをするし、そうでなければ成り代わらせてもらうわ』
「……そんなことができるんだな」
『何年あの体に閉じこもってたと思ってるの? モモンガやネズミを作り出して取り憑き、繭を抜け出せる位には自由自在に扱えるのよ!』
「……凄い、な?」
『何故疑問形なのかしら……』
この後、講堂に集められた人々については、4大家が責任をもって身柄を保証することが決まる。この違う世界に馴染めない者達には、公爵家が共同生活できる場所を建造し、できるだけストレスのない生活を送れるようすることが約束された。
そして季節は巡って春を迎え、フローラ達は2年次に無事進級し……って、え? できたの?
(できたのよ)
納得いかんが
(何でよ!?)
とにかく約束されていた黒い繭へと乗り込む日、古城見学へと行く日が近付いてきていた。
あ、原材料:砂糖先輩は学院が4年制のため、まだ同室である。
(さらっと設定ぶっこんだのは何故? それとパルフェ先輩よ)
忘れてたからに決まってんだろ。
(そ……)